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発表・掲載日:2008/11/21

高い圧電性を示す複合窒化物圧電体薄膜を作製

-高温環境下での振動・圧力センサーへの応用へ-

ポイント

  • 窒化アルミニウムへスカンジウムを固溶させることで高い圧電性を達成
  • 500℃まで加熱しても結晶構造が変化しないため、高温用圧電体として期待
  • 自動車や航空機、発電機、化学プラントなどの制御および安全管理用センサーへの応用へ

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生産計測技術研究センター【研究センター長 五十嵐 一男】プロセス計測チーム 秋山 守人 研究チーム長、蒲原 敏浩 産総研特別研究員は、株式会社 デンソー【代表取締役 加藤 宣明】(以下「デンソー」という)基礎研究所との共同研究により、耐熱性に優れ、高い圧電性を示す、全く新しい複合窒化物薄膜の作製に成功した。

 一般に、物質の圧電性は耐熱性が高くなる(キュリー点が高くなる)に連れて、低下する傾向を示す(図1)。したがって、耐熱性が高く、しかも高い圧電性を示す圧電体の作製は困難であると考えられてきた。そこで、一般的な複合酸化物の圧電体ではなく、圧電体としてはこれまでほとんど研究されてこなかった複合窒化物圧電体の探索を行い、窒化アルミニウム(AlN)にスカンジウム(Sc)を固溶させた複合窒化物薄膜がAlNの5倍以上の圧電性(圧電定数d33:25pC/N)を示し、窒化物では最も高い値を示すことを見出した。また、この複合窒化物は500℃まで加熱しても結晶構造が変化しないため、高温用圧電体として期待できる。さらに、この複合窒化物薄膜は、鉛などの有害な元素を含まないため環境にもやさしく、既存の半導体製造プロセスが利用でき、量産性にも優れていることから、新しいセンサー用薄膜として有利である。

 本研究成果の一部は、近日発行のドイツのAdvanced Materials誌(Wiley-VCH Journals)に掲載される。

使用限界温度と圧電定数の関係の図
図1 使用限界温度と圧電定数の関係
AN:AlN. BT:BaTiO3. BIT:Bi4Ti3O12. GP:GaPO4. KN:KNbO3. LF4:(K0.44Na0.52Li0.04)(Nb0.86Ta0.10Sb0.04)3. LGS:La3Ga5SiO14. LN:LiNbO3. PN:PbNb206. PT:PbTiO3. PZNT:0.92Pb(Zn1/3Nd2/3)O3-0.08PbTiO3. PZT:Pb(Zr0.52Ti0.48)O3. SO:SiO2.
AlNとGaPO4の使用限界温度は圧電性を示す最高温度(予測値)であり、その他の物質はキュリー点である。

開発の社会的背景

 地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素(CO2)や、酸性雨の原因とされている窒素酸化物(NOx)の排出量の増加などの環境問題が世界的に深刻化してきている。また、原油高などの経済的な問題も世界規模で起きてきており、自動車や航空機、ガスタービンエンジンなどの燃焼技術をさらに高度化し、石油消費量を削減するために、耐熱性に優れた燃焼圧センサーなどの開発が強く求められている。また、火力発電所や化学プラントなどでの老朽化してきた施設の安全性を確保するためにも、耐熱性・耐久性に優れた振動センサーが必要とされている。しかし、耐熱性に優れ、高い圧電性を示す圧電体が開発されていないため、十分な性能を示す燃焼圧センサーや高温用振動センサーはまだ開発されていない。

 一般に、物質の圧電性は、耐熱性が高くなる(キュリー点が高くなる)に連れて、低下する傾向を示す(図1参照)。そのため、耐熱性が高く、しかも高い圧電性を示す圧電体の作製は困難とされてきた。しかし、世界的に高温用の圧電センサーの必要性が急激に高まってきているため、耐熱性と圧電性を両立させた圧電体の開発が強く望まれている。

研究の経緯

 従来、圧電体の研究は複合酸化物を中心に行われてきたが、鉛などの有害な元素を含まない酸化物では、高温で十分な性能が得られていない。産総研生産計測技術研究センタープロセス計測チームとデンソーのグループは、圧電体材料の分野ではあまり研究が行われていない、窒化物を対象とした研究を行った。窒化物の研究は、LEDや半導体レーザーの分野で窒化ガリウム(GaN)を中心とした複合窒化物に関して活発に行われているが、今までに圧電性を示す窒化物は数種類しか報告されておらず、複合窒化物の圧電性に関する研究例はわずかである。

研究の内容

 耐熱性が高く、高い圧電性を示す圧電体を見出すために、一般的によく知られた複合酸化物の圧電体ではなく、これまで圧電体としてはほとんど研究されてこなかった複合窒化物の探索を行った。圧電性は低いが、高い耐熱性を示す窒化アルミニウム(AlN)にさまざまな元素を置換固溶させた薄膜を作製して、圧電性の向上を図った。複合窒化物は二元同時反応性スパッタリング法を用いて、アルミニウムと置換元素を同時にスパッタリングし、窒素と反応させることによって作製した。

 作製した薄膜の圧電性などを評価・分析した結果、図2に示すように、スカンジウム(Sc)の固溶量を増加させることによって圧電性は変化し、Scの固溶量が43%のときに、窒化アルミニウム(AlN)の5倍以上の圧電性(圧電定数d33:25pC/N)を示し、現状の窒化物では最も高い値を示すことを見出した。また、一般的に圧電体はキュリー点近くまでは圧電性を保持し、キュリー点で急激に結晶構造が変化するために圧電性を失うことが知られている。今回の複合窒化物薄膜は、500℃まで加熱しても結晶構造が変化せず、圧電性も変化しなかったことから、高温用の圧電体として期待できることがわかった。

 複合窒化物の結晶構造を調べた結果、図3に示すように、Sc濃度が高くなるとともに結晶のa軸は長くなり、逆にc軸は短くなることがわかった。その他の弾性率の測定などから、この複合窒化物は、主に次の二つの要因によって圧電性が向上したものと考えられる。一つは、アルミニウムが電気陰性度の低いScに置換されることによって、電子の偏りが大きくなるためである。もう一つは、Scの置換量が増加するに連れて複合窒化物の弾性率が低下し、変形しやすくなるためであると考えられる。

 この複合窒化物薄膜は、圧電性や耐熱性に優れているばかりでなく、鉛などの有害な元素を全く含んでいないため、環境にもやさしい圧電体であり、また薄膜として作製できるため、既存の半導体製造プロセスが利用でき、量産性にも優れていることから、新しいセンサーやアクチュエーターなどのデバイス用薄膜として有利である。

 今後、自動車や航空機、発電機、化学プラントなどの制御および安全管理用センサーへの応用が期待される。

スカンジウムアルミニウム窒化物薄膜の圧電性のスカンジウム濃度依存性の図   スカンジウムアルミニウム窒化物薄膜の格子定数のスカンジウム濃度依存性の図
図2 スカンジウムアルミニウム窒化物薄膜の圧電性のスカンジウム濃度依存性
 
図3 スカンジウムアルミニウム窒化物薄膜の格子定数のスカンジウム濃度依存性

今後の予定

 作製した複合窒化物圧電体薄膜の高い圧電性を示すメカニズムの解明や、使用限界温度などの特定を行っていく。また、窒化物圧電体であることから、高圧環境下での使用も期待できるため、耐圧性などの特性も調べ、高温高圧などの過酷環境下での計測技術に貢献できる振動・圧力センサーの開発を目指す。


用語の説明

◆圧電性
物質に圧力を加えると圧力に比例した分極(表面電荷)が現れる性質をいう。[参照元へ戻る]
◆複合窒化物
2種類以上の金属イオンを含む窒化物のことであり、固溶体である。[参照元へ戻る]
◆キュリー点
強磁性体が常磁性体に、もしくは強誘電体が常誘導体に変化する転移温度のこと。圧電体では、結晶構造の変化によって圧電性が失われる温度のこと。[参照元へ戻る]
◆圧電定数
圧電定数とは、圧電性の大きさを表す定数であり、d定数やg定数などがある。特に、d定数は圧電歪定数と呼ばれており、加えた力に対する電荷密度の変化を表す。[参照元へ戻る]
◆二元同時反応性スパッタリング法
スパッタリング法とはチャンバー中に設置した基板とターゲット(蒸着させたい物質)との間に高い電圧を印加し、チャンバー中のガスをイオン化し、ターゲットに衝突させてはじき飛ばされた物質を基板に成膜させる方法である。このスパッタリング法によって、二つの物質を同時にはじき飛ばし、雰囲気中のガスと反応させて目的の物質を作製する方法が、二元同時反応性スパッタリング法である。[参照元へ戻る]
◆電気陰性度
異なる原子同士が結合している場合、原子によって電子を引きつける強さが異なり、この電子を引きつける相対的な強さの尺度のこと。[参照元へ戻る]


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