English

 

発表・掲載日:2005/03/22

愛・地球博:EXPO 2005 AICHI JAPAN のオープニングイベント「SHOW and WALK by ローリー・アンダーソン」においてマルチメディアアート鑑賞システムを提供

-屋外での赤外光通信と竹を外装に用いた無電源携帯端末を実用化-

ポイント

  • 産総研が独自に研究開発を進めてきた空間光通信システムを、マルチメディアアートの音声伝達用媒体としてカスタマイズし提供
  • 屋外の直射日光下でも安定して動作する赤外光通信システムの実用化に成功
  • 竹を材料とする筐体、新型の微小球状太陽電池などの採用により、従来からの特長である「小型・軽量・無電源」の端末コンセプトの自由度をさらに拡大
  • 世界的パフォーマンスアーティスト、ローリー・アンダーソンさんのイラストが印刷されたカード型携帯端末を開発

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】は、2005年3月25日から愛知県で開催される「愛・地球博」(EXPO 2005 AICHI JAPAN)の新文化創造イベント「SHOW & WALK by ローリー・アンダーソン」の「WALK」プロジェクトに、マルチメディアアート鑑賞用の音声伝達媒体として、赤外光通信システムとその携帯端末「Aimuet LA(アイミュレット エルエー)」を提供します。

 このシステムは、次世代のユビキタスコンピューティングのキーテクノロジーとして、産総研が独自の視点で研究開発に取り組んできた、空間光通信システムの技術を基盤としています。今回のシステムは、(1) 情報伝達媒体として赤外光を用いることで、ある空間範囲に居るユーザに確実に情報を提供することができる、(2) 端末側の通信デバイスとして太陽電池を用いることで、端末の超小型・超軽量・無電源を実現している、といった従来からの特長に加えて、(3) 微小球状太陽電池1)の採用など、さまざまな技術的改良により、太陽光に直射される屋外での赤外光通信を可能にした、といった新たな技術的特長を有しています。

 さらに加えて、ローリー・アンダーソンさんと産総研の研究者たちとの、企画段階からのコラボレーションによって、Aimulet LAが、単なるコンテンツの伝達媒体というだけでなく、マルチメディアアート作品の一部をなしているという点も、注目すべき特徴です。

1)京セミ株式会社が新規に開発した微小球状太陽電池、「Sphelar(スフェラ)」を採用しています。

Aimulet LA スピーカー面の写真

イラスト面の写真
Aimulet LA スピーカー面 イラスト面

”WALK” with Aimulet LA」プロジェクトとは

WALK」のコンテンツとAimulet LA

 「WALK」は、来場者が日本庭園の中を散策する途上で、さまざまなマルチメディアアート作品に遭遇し体験するというものです。この中で、Aimulet LAを用いて鑑賞する作品は、かえで池北側の展望テラス「ノーステラス」【イメージパース参照】と、かえで池南東側の「竜の橋(ドラゴンブリッジ)」の2つのエリアで展開されます。

Aimulet LAによるマルチメディアアート体験の特徴

 来場者には、日本庭園の「WALK」受付でAimulet LAが配布されます。2つのエリアで、スピーカー面の小さな穴の部分を耳にそっとあてれば、足元の赤外LED放射装置から送信される音の作品が鑑賞できます。

 Aimulet LAは、単なる情報通信端末ではなく、それ自体がマルチメディアアートの一部となっていることが、大きな特徴です。Aimulet LAは、日本庭園の自然環境と、光通信に乗せたサウンドアートが表現される人工環境とを融合します。来場者一人ひとりに、好きな位置で、好きなやり方で、Aimulet LAを耳にあてたり離したりしながら、思い思いにメディアアートを体験できるパーソナルな空間を提供します。

竹の素材を筐体とする自然にやさしい携帯端末

 筐体に竹の素材を採用2)していることも、Aimulet LAのユニークな特徴です。愛・地球博が「自然の叡智」をメインテーマとすることや、「WALK」が日本庭園を会場とすることから、筐体の材料にもこだわり、さまざまな材料を検討した結果、孟宗竹を薄板上に加工・成型した筐体に行き着きました。片面には、ローリー・アンダーソンさんのイラストを配しております。

アートとテクノロジーのコラボレーション

 このようなユニークなシステムや端末が実現したのは、企画段階からローリー・アンダーソンさん本人が、東京臨海副都心の産総研 情報技術研究部門に足を運び、研究者と直接にディスカッションし、Aimulet LAの特性について理解を深めていただいたうえでコンテンツ制作に着手されたこと、産総研側も、ローリー・アンダーソンさんの作品制作に対する姿勢を理解して技術開発に臨んだという、両者のコラボレーション作業のたまものといえます。

2)竹の素材・加工は、株式会社竹尾の提供によるものです。


日本庭園ノーステラスにおける利用イメージ図
日本庭園ノーステラスにおける利用イメージ

技術の特徴

太陽電池を通信デバイスとする小型・軽量・無電源の携帯端末

 Aimulet LAは、太陽電池を赤外光通信デバイスとして用いるという、ユニークな仕組みを特徴としています。省電力技術とシンプルな回路構成により、小型・軽量化と無電源化を実現、ボタンなどの操作は一切なく、ただ耳にあてるだけという非常に簡単なインタフェースです。環境にやさしく、人にやさしく、利用者の操作負担をできるだけ軽くするという、ユビキタス情報環境のあるべき一つの理想型を実現しています。

屋外での赤外光通信システムを実現

 太陽電池は本来、紫外光から赤外光まで幅広いスペクトルの受光感度特性を有しますが、Aimulet LAは、この受光感度を制御することによって、太陽電池を赤外光の受光装置(=赤外光通信の通信デバイス)として用いています。

 今回のプロジェクトでは、これまでの屋内使用とは異なり、さらに精度の高い制御が必要とされました。また、強力な太陽光が太陽電池に入射すると、飽和電圧まで発電してしまうため、屋外で可聴性のある音声信号を安定して出力することができません。屋外で赤外光通信を用いるには、自然な可視光の干渉を受けることなく、通信に用いる赤外光だけを選択的に受光できるデバイスの開発や、設計上・構造上のさまざまな改良が必要でした。

 第1の解決策となったのが、微小球状太陽電池の採用です。微小球状太陽電池は、平板型の従来の太陽電池と異なり、0.5~2 mmという微小な直径の球状太陽電池が作れるため、狭い隙間などに自在に配置し、特定の電圧と電力を発生させることができるのが特長です。今回は、Aimulet LA向けに開発された、高い指向性と太陽可視光の遮断特性を備えた直径1.8 mmの新型微小球状太陽電池を採用しています。

 第2の解決策が、機構設計上の改良です。微小球状太陽電池を太陽光が当たらない位置に配するため、端末を耳に当てたときに地面の方を向く側面に溝を開け、その溝の奥まった部分に、横一列に12個の微小球状太陽電池を並べたアレイを配置しました。一方、赤外光の光源3)は、屋内では天井に設置していたのに対し、屋外では足下に設置し、太陽光とは逆の下方向から微小球状太陽電池に向けて、赤外光が発信されるようにしました【下図参照】。

 この2つの新たな解決策により、屋外で安定して動作する赤外光通信システムが実現しました。

3)赤外線光源は、田淵電機株式会社の提供によるものです。

地面の方を向く側面に開けた溝の奥に微小球状太陽電池アレイを配置の図
地面の方を向く側面に開けた溝の奥に微小球状太陽電池アレイを配置

今後の展開可能性

 今回の愛・地球博での新文化創造イベント「SHOW and WALK by ローリー・アンダーソン」の「WALK」に提供する空間光通信システムの技術は、今後次のような点で実社会への展開が期待されます。

  • 屋内だけでなく、屋外の展示会・各種イベント、アミューズメント施設、駅や公園などの公共空間で、Aimule LAを用いたユビキタス情報環境の幅広い展開が可能
  • 微小球状太陽電池の採用により、より自由なデザイン・形状、より小型化されたAimulet LAの展開が可能
  • 空間光通信の特性を活かしたメディアアートやインタラクティブアート、エンタテイメントなど、多彩なコンテンツの展開が可能
  • 端末の低コスト化により、入場券や年間パス、身分証など、多様な活用範囲への展開が可能

 産総研では、本システムの提供によって得られた一連の知見・成果をもとに、産学官にわたる共同研究や技術移転を積極的に展開し、来たるべきユビキタス情報社会における、「安全・安心・利便性」の調和のとれた公共空間の設計に貢献すべく、さらなる技術の創出を目指します。


用語の説明

◆新文化創造イベント「SHOW and WALK by ローリー・アンダーソン」
愛・地球博のオープニングイベントの1つとして開催される期間限定イベント。「SHOW」「WALK」「LIVE」の3つのプログラムからなる。産総研が技術協力する「WALK」は、3月25日(金)から4月24日(日)まで長久手会場の日本庭園で開催される。日本庭園の自然とメディアテクノロジーが融合する環境の中を散策しながら、映像、詩、音楽などからなる作品群を体験できる。[参照元へ戻る]
◆マルチメディアアート
電子メディアのマルチメディア化に伴って発展してきた芸術分野。コンピュータやセンサ装置などを組み合わせて、音や映像、さらには触覚、臭い、温度など、さまざまな知覚・感覚に訴える作品が展開される。パフォーマーがさまざまなメディアを駆使してパフォーマンスを行うメディアミックス型パフォーマンスや、鑑賞者が自ら作品に参加し体感するインタラクティブアートなど、さまざまな発展形がある。[参照元へ戻る]
Aimulet LA
Aimuletは、お守り、魔除けという意味のamuletに、intelligent、interactive、infraredあるいは「愛(あい)・地球博」のiを挿入した造語。LAはローリー・アンダーソンを意味する。[参照元へ戻る]
◆ユビキタスコンピューティング
Mark Weiserが提唱した新しい情報技術の概念。家庭・都市・社会環境などに多種多様なコンピュータが組み込まれ、センサ情報をもとに様々な情報サービスが提供されるような次世代の情報環境と情報処理技術。[参照元へ戻る]
◆ 空間光通信システム
光が、有線の光ファイバーケーブルの中ではなく、自由空間を伝播することで通信を行うシステム。光無線通信システムともいう。赤外光やレーザ光を用いた双方向通信が可能である。[参照元へ戻る]
◆ローリー・アンダーソン(Laurie Anderson
シカゴ出身、ニューヨーク在住の、パフォーマンスアーティスト。彫刻家、バイオリニスト、ボーカリストなど、枠組みにとらわれない自由な表現活動を展開。ニューヨークの前衛シーンをベースに活動を開始し、1981年に、ライブの一部をシングルアルバムとしてリリースした「O Superman」が全英ポップミュージックチャート第2位に入り、斬新な音楽性が一躍注目を浴びた。演技・歌・踊り・演奏といった要素を併せもつステージングに先端のテクノロジーを絡めたパフォーマンスが高い評価を得ている。2003年には、NASAのアーティスト・イン・レジデンス(芸術家が滞在して制作活動をする施設)に滞在する最初のアーティストとなる。[参照元へ戻る]

関連記事


お問い合わせ

お問い合わせフォーム

▲ ページトップへ