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 2004年3月15日 発表

■世界で初めてナノバブルの製造・安定化技術を確立

−長期持続型オゾン水の生成や、淡水魚と海水魚の実用化レベルでの共存が可能−

ポイント

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境管理研究部門【部門長 指宿 堯嗣】は、株式会社REO研究所【代表取締役社長 亀山 隆夫】(以下「REO研」という)と共同で、ナノバブルの製造と安定化技術の確立に成功した。ナノバブルは直径が1µm( 1マイクロメートル:100万分の1メートル)以下の超微細な気泡であり、通常はマイクロバブル(直径が50µm以下)が水中で縮小する過程において生成するが、物理的に極めて不安定であるため、短時間で消滅する。産総研とREO研は、電解質イオンを含む水の中でマイクロバブルを瞬時に圧壊させることで、ナノバブルの製造と安定化に成功した。詳細なメカニズムは現在検討中であるが、マイクロバブルの圧壊の過程で水中のイオン類が気泡周囲に濃縮することで、静電気的な反発力を生じて、気泡が完全に消滅することを抑制していると考えられる。また、濃縮したイオン類が気泡を包み込む殻として作用することで内部の気体の散逸を防止している可能性も高い。ナノバブルを含む水は物性的には通常の水と顕著な違いを生じないものの、ナノバブル化された気体の特性を併せ持つことが特徴である。今回開発したナノバブルの製造・安定化技術により生成したオゾンをナノバブルとして含む水は、通常、常温、常圧下の開放した条件では数時間で散逸してしまう水中のオゾンを、一ヶ月以上に渡って保持することができる。これにより医療や食品製造などの現場において、殺菌効果のあるオゾン水を手軽に使用することが可能となる。また、酸素をナノバブルとして含む水には、魚介類の環境変化に対する適応性を向上させたり、生物に対しての活性効果を認めることができる。ある程度の塩分濃度環境において、多種類の淡水魚と海水魚を6ヶ月以上の期間に渡って同一の水槽内で共存飼育することが可能であった。また、淡水・海水魚への影響調査において、捕獲時に衰弱した魚のほぼ全てが1 % 程度の塩分を含む酸素のナノバブルの水の中で急速に回復することを確認した。これらのことから、酸素のナノバブルと微量のオゾンのナノバブルとを組み合わせることにより、感染症で虚弱化した魚介類の体力を維持させながら菌やウイルスを除去できる可能性があり、抗菌剤や抗生剤を使用しない魚貝類の養殖技術の確立につなげていく予定である。また、医療や食品加工、畜産業などでの利用も可能である。
 なお、本件は、2004年3月17〜19日の期間に、東京国際展示場「東京ビッグサイト」(東京都江東区有明)で行われるnano tech 2004国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の、産総研ブースで公開される予定である。また、本件に関する特許を3件出願中である。

研究の背景

 水環境の悪化は生命の生存を脅かす最重要問題のひとつである。湖畔や沿岸海域での富栄養化は赤潮の発生や貧酸素水塊をもたらし、既存の魚介類を死滅させている。また、養殖業の現場においては、水質汚染により脆弱化した魚介類を病原体から守るため抗菌剤・抗生物質を大量に使用している場合があり、食の安全に関わる問題として我々の未来に影を落としている。
 一方、水環境を自然な作用の中で改善可能な技術としてマイクロバブルが注目を集めつつある。マイクロバブルとは直径が50µm以下の微小な気泡であり、水と気体を特殊な手法で撹拌することにより生成可能である【図1参照】。このマイクロバブルは通常の気泡に比べて内包する気体の溶解能力が極めて優れているため、魚介類の養殖業等における酸素欠乏の改善法などとして使用されている。マイクロバブルの特性については未解明な部分が多く存在するが、マイクロバブルを実際に使用している現場を通して、マイクロバブルの持つ特異な性能が徐々に明らかになっている。特に魚介類の養殖業や農業においては、病気による死亡数の大幅な減少や急速な成長の促進などが認められ、予想を超えるような好結果につながることが希ではない。この作用メカニズムとして我々はナノサイズの気泡に注目をしてきた。この気泡はマイクロバブルが水中で縮小する過程において生成するものであるため、極めて微細であり、動植物の細胞レベルでの影響を期待できる。ただし、ナノサイズの気泡は物理的に不安定であり、短時間に完全溶解するため、ナノサイズの気泡の特性を工学的に利用するには、ナノバブルとして長期に安定化させるための技術開発が不可欠であった。

図1

図1 液中パーティクルカウンターによる解析結果(マイクロバブル)気液撹拌混合方式により作成したマイクロバブルの粒径分布を示している。ナノバブルはこの様なマイクロバブルを圧壊させることで製造および安定化させることが可能である。

研究の経緯

 産総研とREO研は、水環境の改善を目的としてマイクロバブルの工学的な応用技術の確立を進めてきた。その中でもマイクロバブルの圧壊は、両者が世界で初めて発見および実用化を成し遂げた技術であり、僅かなエネルギーで大量のフリーラジカルを生成するため、例えば食品加工場などから排出される有機系排水の排水処理に応用した場合、有機系成分を水や二酸化炭素にまで効率的に完全分解することができる。
 マイクロバブルの圧壊とは、物理的な刺激(水の流動過程で生じる圧縮や膨張、渦流等)を加えることでマイクロバブルが急激に断熱圧縮する現象であり、超高圧・超高温の極限反応場を形成する。この極限反応場により周囲の水分子が分解されて・OHなどのフリーラジカルを形成する。フリーラジカルは非常に不安定な物質であり、他の分子から電子を奪い取って安定化しようとするため、極めて強い酸化能力を持つ。このため、難分解性の有害化学物質などを分解可能である。一方、この研究の過程において、マイクロバブルが圧壊した後の水にナノバブルが安定して存在する可能性が高いことを発見した。この気泡のサイズは100〜200nm( 1ナノメートル:10億分の1メートル)に粒径分布のピークを持つことが多く、マイクロバブルが短時間で縮小することに対して、この気泡は極めて長期間安定して存在している【図2参照】。我々の研究は、ナノバブルの生成を高い確率で再現させるためのマイクロバブルの圧壊手法の確立からスタートした。

図2

図2 動的光散乱光度計による解析結果 (オゾンナノバブル)電解質を含む水中でオゾンマイクロバブルを圧壊させることにより製造したナノバブル。製造後、2週間経過したものであるがナノバブルとして十分な量のオゾンを保有している。

研究の内容

 産総研とREO研究所は廃水処理の目的でマイクロバブルの圧壊技術を確立した。廃水処理は高濃度の有機系物質を含んだ水を対象としているが、有機質が乏しくミネラル成分に富む水を対象としてオゾンや酸素のマイクロバブルを圧解させた場合には、ナノバブルが安定化して存在できることを突き止めた。詳細なメカニズムは現在検討中であるが、圧壊の過程で水中のイオン類が気泡周囲に濃縮することで、静電気的な反発力を生じて、気泡が完全に消滅することを抑制していると考えられる。また、周囲に濃縮したイオン類がナノバブルを包み込む殻として作用している可能性も高い。電解質イオンは濃度に比例して気体の溶解度を低下させるため(Salting-out現象)、気泡内の気体の散逸を防止しナノバブルを長期に安定化させると考えられる【図3参照】。さらに、マイクロバブルの圧壊で生じる極限反応場(超高圧・超高温度)が何らかの作用を及ぼしていることも考えられる。
 また、ナノバブルを大量に含んだ水には独自の特性があらわれることを発見した。微量のオゾンをナノバブルとして含んだ水の場合、紫外線などの外乱因子をカットできれば、極めて長期に渡ってオゾン水としての効果を維持可能であった。製造時のオゾン濃度が約1.5mg/Lであったものが、冷暗所での保存により1ヶ月後においても1.0mg/L程度のオゾンを保持していた。オゾンを溶解した水を空気中で保存した場合、濃度勾配によりオゾンは気相へ拡散していくため、通常は1 〜 2時間でオゾンはほぼ完全に抜けてしまう。ナノバブルとしてオゾンを存在させた場合においてのみ、製造から長期間を経過した後においても殺菌力を持ったオゾン水として使用可能である。一方、酸素のナノバブルを多量に含んだ水には、魚介類の環境変化に対する適応性を向上させたり、衰弱した個体を急速に快復させたりする効果がある。淡水・海水魚への影響調査において捕獲時に衰弱した魚のほぼ全てが1 % 程度の塩分濃度のナノバブルを含む水の中で急速に回復することを確認した。また、0.5〜1.5 % の広範な塩分濃度環境において30種以上の鯉や金魚などの淡水魚と鯛やヒラメなどの海水魚を6ヶ月以上の期間に渡って同一の水槽内で共存飼育することが可能であった【図4参照】。この中には20℃以下では生存が不可能な淡水・海水性の熱帯魚も含まれていたが、冬季に向かう15℃の水温においても生存を確認した。生理活性に対する詳細なメカニズムは今後の検討を必要とするが、薬浴に頼らない養殖・蓄養法の確立につながる技術である。

図3

図3 ナノバブルの安定化メカニズムのイメージ図
マイクロバブルを圧壊(急激な縮小)することによりイオン類が表面に濃縮することで気泡表面に無機質の殻を形成する。その結果、Salting-out現象によりナノバブル内の気体の散逸が抑えられ、ナノバブルとして安定化されると考えられる。

写真

写真


図4 ナノバブルを含む水では、実用化レベルでの淡水魚の鯉や鉄魚と海水魚の鯛などが同一水槽内で共存が可能

参考写真


参考:酸素のナノバブルを多量に含んだ水では、海水に近い塩分濃度とすることで深海魚の飼育も夢ではない。
写真は3%の塩分濃度環境での胡蝶蘭、イワナ、ニジマス、アユ、そしてキチジ(水深350〜1,300mにすむ深海魚)。
(2005年5月27日追加)

今後の予定

 マイクロバブルの圧壊に関しては、圧壊時に多量のフリーラジカルが生成するため、その強い酸化力により難分解性有機物などを分解することが可能である。このマイクロバブルの圧壊は常温・常圧下で実現できるため、設備投資やランニングコストが低く、中小規模の事業所でも排水の高度処理が可能となる。また、ナノバブルに関しては、オゾンの殺菌力や酸素の生理活性効果を利用できるため、医療や食品加工、養殖・畜産業などへの応用が期待できる。医療分野では、安全性の確認が重要であるが、感染症予防や皮膚の疾患などへの適用が考えられる。また、魚介類の養殖のみならず、畜産業(陸上動物)への適応も検討課題である。水分補給に使用することにより、生理活性の向上や感染症の防止につなげることで、抗生剤などの薬剤を必要としない畜産業が可能になるものと期待される。

プレスリリース修正情報

サブタイトルの修正(2004年3月17日 19:00)
 【修正前】 −長期持続型オゾン水の生成や、淡水魚と海水魚の共存などが可能−
 【修正後】 −長期持続型オゾン水の生成や、淡水魚と海水魚の実用化レベルでの共存が可能−

図4 写真のキャプションの修正(2004年3月17日 19:00)
 【修正前】 ナノバブルを含む水では、淡水魚の鯉や鉄魚と海水魚の鯛などが同一水槽内での共存が可能
 【修正後】 ナノバブルを含む水では、実用化レベルでの淡水魚の鯉や鉄魚と海水魚の鯛などが同一水槽内で共存が可能

「参考」として写真、キャプションを追加(2005年5月27日 12:00)

「概要」文中「特許を3件出願中」から詳細内容へのリンクを追加(2005年7月11日 18:00)

用語の説明

◆マイクロバブル
直径が50µm以下の微小気泡である。水は表面張力が高いため、通常のバブリングでは100µm以下の気泡を生成することは不可能であるが、気液2相流を流体力学的にせん断させたり、気液を特殊な方法で混合させたりすることにより生成できる。通常の気泡とは異なって、マイクロバブルは水中で縮小し、消滅(完全溶解)する。これを利用して様々な工学的応用が検討されつつある。[戻る]

◆ナノバブル
直径が1µmに満たない超微小気泡である。通常、マイクロバブルが縮小過程において生成するものであるが、その寿命は一般的に短い。微小気泡は表面張力の作用により自己加圧されているため、急速に完全溶解してしまうことがその原因である。ところが界面活性剤による殻を被った場合や、表面帯電による静電反発力を受けた場合には、ナノレベルの気泡であってもある程度の長時間、存在することが可能である。特に帯電効果により安定化したナノバブルは、気泡としての特性を保持しており、生物の細胞レベルへの直接的な働きかけなど、工学的な応用の可能性が高い。[戻る]

◆圧壊(マイクロバブルの圧壊)
マイクロバブルに物理的な刺激を加えることにより、これを瞬時に断熱圧縮することが可能である。これにより超高圧で超高温の極限反応場が形成される。超音波を水に照射することでキャビテーションにより生成した気泡を圧壊できることは従来から知られていたが、我々はマイクロバブルを流体工学的な作用の中で圧壊させることに成功した。これにより極めて効率的に・OHなどのフリーラジカルを生成することができる。フリーラジカルは強力な化学反応性を持っており、有害化学物質を分解することなどができる。我々はマイクロバブルの圧壊を利用して、ナノバブルの生成と安定化に成功した。[戻る]

◆オゾン水
オゾン水とは、オゾンを溶かし込んだ水溶液のことである。オゾンは気体であり、その溶解度に応じて水の中に溶けこむ。また、オゾンには殺菌効果があるため、オゾン水は消毒や除菌などの目的で利用できる。オゾン水は水溶液中にオゾンをバブリングすることにより生成するが、空気中で保管したときには表面からオゾンが散逸するため、製造後から1 〜 2時間程度で水溶液中のオゾンは消滅してしまう。今回製造に成功したナノバブルによるオゾン水は常温、常圧下での保存でも一月以上の間、十分な量のオゾンを保持している。[戻る]

◆貧酸素水塊
湖畔や沿岸海域の低層部において、有機物の分解に伴う酸素消費が流れや混合による酸素供給に優ったときに起こる現象である。水域に生息する魚介類は、酸素欠乏により死滅する。[戻る]

◆Salting-out現象
気体は圧力に比例して水に溶解することが知られているが、水中に電解質イオンが溶け込んだ場合にはその濃度に比例して水の気体に対する溶解度が低下する現象をSalting-outと呼ぶ。マイクロバブルを圧解させると、気泡周囲で電気二重層を形成しているイオン類が表面積の減少に伴って急激に濃縮する。これがナノバブルを包み込む殻として作用した場合、濃縮したイオン層の気体溶解度は非常に小さいため、ナノバブル内の気体の散逸が防止されると考えられる。[戻る]

◆フリーラジカル
不対電子対を持つ分子や原子であり、遊離活性基と呼ばれる。非常に不安定な物質であり、他の分子から電子を奪い取って安定化しようとするため、極めて強い酸化能力を持つ。[戻る]

◆薬浴
魚介類の養殖等において、寄生虫の駆除や感染症の予防などの目的で行われる薬剤の添加のこと。[戻る]

◆蓄養
ハマグリなどの貝類を、主に浄化の目的で、一昼夜程度、陸上の水槽で飼育する方法。[戻る]

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