発表・掲載日:2003/02/26

(3) 人間と人間型ロボットの共同作業の実現

-働く人間型ロボットHRP-2による屋外共同作業-

ポイント

  • 人間と共同作業する人間型ロボットHRP-2を開発
  • HRP-2を応用した屋外共同作業の実現
  • ステレオ視による作業対象物/作業環境の認識
  • 腕の動きと脚の動きを協調して制御する技術の開発
  • 不整地に対応できるロボット制御技術の開発

概要

 株式会社安川電機【取締役社長 中山 眞】(以下「安川電機」という)、川田工業株式会社【取締役社長 多田 勝彦】(以下「川田工業」という)、清水建設株式会社【取締役社長 野村 哲也】(以下「清水建設」という)と独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は共同で、人間と共同作業をする人間型ロボットHRP-2(平成14年12月9日に既発表)を開発し、簡易家屋組立てにおける外壁パネルの搬送と建込み作業への応用を実現した。さらに、屋外の不整地で人間型ロボットが作業する際に不可欠な不整地対応技術(不整地歩行転倒制御転倒回復)を開発した。

 本応用では、人間が音声により作業指示を与えることにより、歩行、外壁パネルの位置の認識、外壁パネルの持上げ、人間との協調搬送および建込みを行う。外壁パネル位置の認識は、ロボット頭部に搭載した3台のカメラによるステレオ視により行われている。人間と協調して外壁パネルを搬送・建込み作業は、人間が外壁パネルにかける力を検出して腕を制御する力制御、腕の動きと脚の動きを協調させることにより搬送時に発生する外壁パネルの振れ抑制する脚腕協調制御により実現している。

作業員とHRP-2によるパネルの搬送・建て付け状況写真1   作業員とHRP-2によるパネルの搬送・建て付け状況写真2
作業員とHRP-2によるパネルの搬送・建て付け状況

 不整地での歩行は、足裏に搭載した力センサと胴体に搭載した姿勢センサの情報から、不整地の段差や傾斜を推定し、不整地路面に足裏が馴染むように脚を制御する技術により実現している。転倒制御は、転倒時にロボットの姿勢を制御し、HRP-2上に設けた衝撃吸収部位で着床させる方法により行っている。転倒回復(平成14年9月19日に既発表)は、重心位置を制御して支持状態を遷移させる全身動作制御ソフトウェアにより実現されている。以上の3つの技術の開発により、不整地上も歩け、転んでも起上れる人間型ロボットの実用化に向けた第一段階は達成されたものと認識している。



開発の背景

 作業現場における二人作業では、資材の搬送、組立て作業などのように、一人が熟練者、もう一人が非熟練者という組合せで十分な場合がある。このような作業では、熟練者の適切な指示に、非熟練者が従うことにより作業が進行する。本応用開発では、建築現場を想定し、そこで行われる二人作業の非熟練者を人間型ロボットHRP-2に置き換えることにより、人間型ロボットの有効性を確認することを目標とている。

開発の経緯

 本応用開発は、平成12年度から3ヵ年計画で進めてきた。平成12年度は、屋外不整地での作業に対応した人間型ロボットHRP-2を設計に必要な基礎データを取得する為の脚モージュール(HRP-2L)の開発及び実験、ステレオカメラによる画像認識の基礎実験、産業用ロボットを利用した双腕協調制御実験を実施した。これらの実験に得られた知見やデータにより、平成13年度にはHRP-2プロトタイプ機(HRP-2P)の設計・製作に取り掛かった。これと並行してHRP-2Pの腕部分を利用した双腕ロボット(HRP-2A)によるロボットと人間によるパネル搬送技術の開発、3つのカメラを利用した画像認識によるパネル位置およびパネル把持位置検出技術を開発した。これらの技術をHRP-2Pに統合することにより人間型ロボットと人間が協調してパネルを搬送する実験を行い最終成果機HRP-2の仕様、技術課題を抽出した。
 平成14年度(本年度)は、最終成果機HRP-2の設計・製作を行うとともに、屋外での作業に不可欠な不整地歩行技術、ロボットが転倒した状態から作業に復帰するための転倒回復技術の開発、転倒する際に、ロボット本体の損傷を緩和するように体位を制御する転倒制御技術等の不整地対応技術の開発を進めてきた。画像認識においてはステレオカメラ画像から不整地の状態を認識する技術の開発を行った。さらに、ロボット制御技術においては、歩行時に発生するロボット本体の揺れが搬送中のパネルに伝わりにくくする脚腕協調制御技術を開発した。

研究開発技術の内容

○双腕協調制御技術、コミュニケーション技術(担当:安川電機)
 HRP-2の双腕を協調して制御することにより、外壁パネルをスムーズに搬送する技術、作業者の指示を音声及び力覚によりロボットに伝えるコミュニケーション技術の開発をした。

○視覚技術(担当:清水建設)
 3眼ステレオカメラシステムによる外壁パネルの積載位置の認識、外壁パネルの把持位置の認識および作業環境床面の認識技術を開発した。本技術開発においては、産総研の開発したVVV成果を活用している。

○HRP-2設計・製作(担当:川田工業)
 制御装置の小型化により背面部がスリムで、股関節部に片持ち構造を採用することにより狭路歩行が可能な人間型ロボットHRP-2を開発した。なお、HRP-2ロボットハードウェアを開発するにあたっては、基本的な関節構造及び足部構造に関して、本プロジェクト前期においてHRP-1の製作を担当した本田技研工業株式会社が独自に開発した技術を、本田技研工業株式会社の特許権を実施することにより利用している。

○二足歩行技術、不整地対応技術(不整地歩行、転倒制御、転倒復帰)(担当:産総研)
 足裏に搭載した力センサと胴体に搭載した姿勢センサの情報による不整地歩行技術、作業中に転倒しても作業を継続するたに必要な不整地対応技術を開発した。 なお、制御ソフトウェアの開発の一部において、ZMP目標位置まわりのモーメントを検出し、このモーメントが零になる様に脚部を駆動するという、本田技研工業株式会社が独自に開発した技術を、本田技研工業株式会社の特許権を実施することにより利用している。


用語の説明

◆不整地歩行
凹凸や傾斜のある路面上の歩行。[参照元へ戻る]
◆転倒制御
ロボットが転倒した場合に、破損を最小限に抑えるための姿勢制御。[参照元へ戻る]
◆転倒回復
転倒した状態から起立状態への姿勢回復制御。[参照元へ戻る]
◆ステレオ視
2つ以上のカメラから撮影した画像の視差に基づいて、三角測量の原理を用いて物体の位置を計測する技術。[参照元へ戻る]
◆力制御
ロボットの手から物体への押付け力といった、力の大きさを制御する技術。[参照元へ戻る]
◆VVV
Versatile Volumetric Visionの略語。コンピュータの眼として、人間の眼と同じように高度な視覚、特に、立体を立体的に知覚する3次元視覚システム。[参照元へ戻る]

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