発表・掲載日:2002/10/21

水溶性ナノディスク状活性炭の開発に成功

-有機物吸着性能を確認-

ポイント

  • カ-ボンブラックを濃硝酸により酸化分解して、直径が1.5 nm程度の多核縮合環の周りをカルボキシル基などの親水性官能基が縁取ったナノディスク状の水溶性吸着材料を開発した。
  • 同材料は溶解した状態で水溶液中の有機化合物を吸着し、その最大吸着量は活性炭と同等であった。
  • さらに農薬を含む水溶液に同材料を添加することにより、いずれもが溶液中に残留した状態で農薬の毒性が低減することを魚類毒性試験により確認した。

概要

 産総研基礎素材研究部門は、カ-ボンブラック(煤)を原料として、それを硝酸酸化することによりナノメ-タ-サイズの炭素の板の周辺に水に濡れやすい官能基と呼ばれる原子団を結合させて炭素の板を水溶性にすることに成功した。この材料をここでは水溶性活性炭と呼ぶこととする。水溶性活性炭は乾燥した状態では表面積が大変小さく、吸着する能力をもたない。そしてそれは酸性の水には溶けないが、中性からアルカリ性の水にはよく溶ける。このような溶けた状態、またはいったん溶解した後で沈殿した状態のいずれの場合にも水溶性活性炭は多くの有機化合物分子を吸着することができ、その飽和吸着量は活性炭のそれと同等であることが確認された。一方、活性炭の吸着現象の利用分野としては除去や回収が主であり、処理した溶液からの分離が必要になるため、ここで開発した吸着材料の“水に溶ける”特性はむしろ欠点となる。溶液からの分離を必要としない吸着現象のみで作用する機能を探索した結果、水溶性活性炭は水に溶けた状態で農薬であるTPN(1,3-Dicyano-2,4,5,6-tetra- chlorobenzene)を吸着することによりヒメダカに対する毒性を低減させることを見いだした。この結果および別途行った吸着実験からは、水溶性ナノディスク状活性炭に吸着された農薬に相当する毒性の低下が見られたことから、水溶性ナノディスク状活性炭に吸着された農薬はその毒性を失うことが確認された。

 水溶性ナノディスク状活性炭は市販の活性炭と同等の吸着容量を持つが、細孔構造を持たないために吸着する力がそれに比べて弱い欠点がある。しかし水溶性ナノディスク状活性炭の構造や性状は従来の活性炭とは著しく異なっており、その水に溶ける性質や今回明らかになった毒性低減機能などから環境修復材料などを含めた幅広い用途が期待されている。

水溶性活性炭の生成モデル図
水溶性活性炭の生成モデル

農薬(TPN)のヒメダカへの毒性に及ぼす水溶性活性炭の添加効果の図
農薬(TPN)のヒメダカへの毒性に及ぼす水溶性活性炭の添加効果






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