発表・掲載日:2001/10/02

視覚障害者遠隔支援システムを開発

-視覚障害者の自立に貢献-

ポイント

  • 視覚障害者がさりげなく身につけられるビデオカメラ・マイク・イヤホンを検討。
  • 周囲状況を遠隔地の支援者にPHSを介して動画像と音声で送信。
  • 遠隔地から、画質、明るさ、画面の転送速度を制御。


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 実世界知能研究班【班長/産総研フェロー 大津 展之】は、東京都心身障害者福祉センター【所長 土田 富穗】(以下「福祉センター」という)と共同で、視覚障害者の遠隔支援システムの開発に成功した(経済産業省リアルワールドコンピューティング計画での実施)。

 本システムは、視覚障害者がさりげなく身につけられるビデオカメラ(マイク・イヤホン付)を装着し、周囲の状況(動画像と音声)と要望を遠隔地にいる支援者(ガイドヘルパー)にPHSで送信することによって、視覚障害者が必要としている支援を音声で即座に与えることが可能となる。

 本システムの特徴は、音声画像通信プログラムの機能を障害者のニーズに合わせて「遠隔地から制御できる」ことである。具体的には、遠隔地から、(1)画質(解像度、色レベル)、(2)1秒間に送る画面数(fps: frame per second)、(3)明るさ、を制御できることである。

遠隔支援システムの写真


システムの特徴と開発の経緯

 開発した視覚障害者遠隔支援システムによって、視覚障害者はいつでも、どこでも即座に支援を受けることができる。

 視覚障害者にとって、日常生活の中で、晴眼者の目を、短時間ではあるが直ちに借りたい状況が、しばしば起きている。これまではその支援のために、支援者が付き添う必要があったが、すぐに必要というときに支援を得ることは困難だった。また、公的なガイドヘルパー制度では支援時間のみならず支援目的に制約(例えば公的行事や病院、非営業活動などに限定)があり、視覚障害者・支援者共に負担が大きかった。

○ 本システムの開発の経緯は以下の通りである。
 産総研では、福祉センターの協力により視覚障害者の真のニーズや支援実状を分析した。その結果、視覚障害者が上記の問題に直面しているときに、支援者が必ずしも現場にいる必要はなく、状況の映像が得られれば、言葉によって適切な支援を行える場合が多いことが判明した。但し、視覚障害者の状況を伝えるために、サイボーグのような人目に付くビデオカメラを身につけるシステムでは障害者には受け入れられないことも判明した。

そこで、視覚障害者がさりげなく身につけられるビデオカメラ(マイク・スピーカ付)と、PHSによって支援者に状況を伝えるための音声画像通信ソフトウェアを開発した。

 本システムでは、屋外での安全な歩行誘導支援が可能となるまでは、屋内での支援を主に考えている。今後、携帯電話の通信帯域が上がり、安全に遠隔地より歩行誘導できる技術が確立すれば、将来、屋外での歩行誘導支援も可能となる。その歩行誘導技術を高める目的で開発者らは、「特定非営利活動法人 目の不自由な人と共に歩行を考えるしろがめ塾」 を、東京都心身障害者福祉センター、東京都視覚障害者生活支援センターなどの職員と共に設立した。また中途視覚障害者が安心して外出できるように、ガイドヘルパーの技術についての詳細な技術書の執筆なども行っている。

 なお、今回の研究成果は、10月3日~5日 東京ファッションタウン(江東区)に於いて開催される「RWC2001最終成果展示発表会」にてデモンストレーションを行う予定である。

研究の背景

 視覚障害者は、常時支援を必要としているわけではない。必要なときに、即時に、短時間の支援を求めていることが多い。以下は、その実例である。

屋内
 ・郵便の仕分け ・ゴミ分類 ・探し物
 ・行政からの通知、マニュアルや誓約書のチェック。
 ・雨漏りや漏水、ガラス器具の破損時の対応。等

屋外
 ・人や電柱と衝突したときなど、方向感覚を失った場合に方向を知る。
 ・買い物の釣り銭の確認。
 ・放置自転車ジャングルからの脱出。
 ・信号機の押しボタンの有無とその位置を知る。等

 従来、上記のような実例において、公的なヘルパーであるガイドヘルパーを依頼することは困難であった。このような場合の対応として一般的なのは、信頼できる家族や隣人に助けを求めることであるが、この手段では現場にいることが必要となり、視覚障害者のみならず支援者に、精神的並びに肉体的な負担を与える結果となっている。

今後の予定

 今後は、この支援システムを多くの視覚障害者に利用してもらい、そのフィードバックを得て、より使いやすく信頼性の高いシステムを探求する予定である。

 また、屋内のみならず屋外でも誘導可能な技術を確立し、支援可能性を広げる予定である。

 現在のシステムは、1対1の支援を実現するためのものであり、今後は支援基地を設け、インターネットに接続されている支援者(肢体不自由者などの障害者や高齢者も支援者になれる!)の中から、支援内容に最適な支援者を割り当てるシステムへ拡張する予定である。

 さらに、防犯や教育、娯楽などの他分野への応用を可能とする汎用化を目指す予定である。





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