産総研 - ニュース 受賞

2008/03/10

「日本学術振興会賞」を受賞

深津 研究グループ長の写真 平成20年3月3日(月)、日本学士院において、秋篠宮同妃両殿下ご臨席のもと、第4回日本学術振興会賞の授賞式が行われ、産総研の深津武馬氏(生物機能工学研究部門生物共生相互作用研究グループ長)が、「昆虫類と微生物の共生システムに関する研究」により同賞を受賞しました。


受賞理由

 体内に微生物を恒常的に保有して1つの生命システムを構築する「内部共生」という現象は生物界にひろく見られ、多種多様な生物の生理、生態、進化などに大きな影響を及ぼしている。受賞者は、さまざまな昆虫類における共生微生物との相互関係について、共生微生物の体内動態やその機能、共生によってもたらされる宿主昆虫の生理や生態への影響などを含む多角的なアプローチから探求し、昆虫の食べる植物の種類が共生微生物により規定されうること、害虫が農作物を加害できる能力を共生微生物が支配している場合があること、共生微生物の遺伝子が宿主昆虫ゲノムに取り込まれうることなど、従来の常識を覆す数多くの新知見を明らかにしてきた。

 受賞者は、博士号取得後まもなく独自の研究グループを主宰し、ユニークかつ多様な生物現象に取り組み、より若手の研究者を惹きつけ的確に指導しながら、独創性の高い国際的研究を幅広く推進しており、今後の研究の更なる発展が期待される。

第4回(平成19年度)日本学術振興会賞受賞者(深津 武馬)[http://www.jsps.go.jp/jsps-prize/ichiran_4rd/21_fukatsu.html]

※日本学術振興会賞は、優れた研究を進めている若手研究者を見いだし、早い段階から顕彰してその研究意欲を高め、独創的、先駆的な研究を支援することにより、我が国の学術研究を世界のトップレベルにおいて発展させることを目的に平成16年度に創設されました。授賞対象者は、人文・社会科学及び自然科学の全分野において、45歳未満で博士又は博士と同等以上の学術研究能力を有する者のうち、論文等の研究業績により学術上特に優れた成果をあげている研究者です。

日本学術振興会賞[http://www.jsps.go.jp/jsps-prize/index.html]


研究の概要

 非常に多くの生物が、恒常的もしくは半恒常的に他の生物(ほとんどの場合は微生物)を体内に棲まわせている。このような現象を「内部共生」といい、これ以上にない空間的な近接性で成立する共生関係のため、きわめて高度な相互作用や依存関係がみられる。このような関係からは、しばしば新規な生物機能が創出される。共生微生物と宿主生物がほとんど一体化して、あたかも1つの生物のような複合体を構築することも少なくない(図)。

研究概要の写真

図:エンドウヒゲナガアブラムシ(左)では食草のシロツメクサ(中上)やカラスノエンドウ(中下)上での繁殖力に体内の共生細菌が関わっている。マルカメムシ(右)では農作物のダイズ上でうまく繁殖できる性質が腸内の共生細菌で規定されている。

 生物共生相互作用研究グループでは、昆虫類におけるさまざまな内部共生現象を主要なターゲットに設定し、さらには関連した寄生、生殖操作、形態操作、社会性などの高度な生物間相互作用をともなう興味深い生物現象について、進化多様性から生態的相互作用、生理機能から分子機構にまで至る研究を多角的なアプローチからすすめてきた(具体的な研究成果については下記の「関連研究情報リンク」を参照)。


受賞の感想と今後の抱負

 このたびは権威ある賞をいただき、嬉しいと同時に身の引き締まる思いです。言うまでもなく私1人でいただける賞ではなく、ご指導いただいてきた先生や先輩諸氏、日々の後方支援をしていただいている皆様、そして何より常日頃から研究を共にしてきた若き共同研究者の皆さんの力によるものであり、ここに御礼申し上げるとともに、一緒に喜び合えればと思っております。

 産総研においては、第1種の基礎研究に軸足をおき、高いレベルの研究成果、論文発表を輩出することにより、国内外におけるプレゼンス向上に貢献するのが自分の使命と考えています。博物学が有する生物現象の多様性に根ざした興奮に、現代生物学の最新の技術を駆使して新しい生命を吹き込む、そんな研究を展開していくのが理想の姿です。誰が聞いても、子供が見ても「おもしろいなあ」「わくわくするね」と言ってもらえる研究をしていきたいと思います。


関連研究情報リンク:

・生物機能工学研究部門 生物共生相互作用研究グループ

共生細菌抑制によりオスとメスの中間的なチョウができる
  -産業的にも害虫防除・生殖工学の観点から注目される-(2007年7月2日 発表)

共生細菌による昆虫の害虫化の発見
  -昆虫自身の遺伝子ではなく腸内共生細菌によって決まる食餌-(2007年6月13日 発表)

兵隊アブラムシの攻撃毒プロテアーゼ
  -未探索の生物資源からの生理活性物質-(2004年7月27日 発表)

昆虫の植物適応が共生細菌で変わる
  -微生物の新機能の発見-(2004年3月26日 発表)

共生微生物から宿主昆虫へのゲノム水平転移の発見
  -生物進化、組換え体管理などへインパクト-(2002年10月29日 発表)