産総研:ニュース

お知らせ記事2005/05/25

産総研と日本板硝子、太陽熱エネルギー自動制御ガラスの共同研究を実施へ
-画期的な省エネルギー窓ガラスの創製へ-

ポイント

  • 産総研と日本板硝子(株)が太陽熱エネルギー自動制御ガラスを開発する共同研究契約を締結、3年以内の製品化を目標

概要

 独立行政法人産業技術総合研究所(以下 産総研、理事長:吉川弘之)と日本板硝子株式会社(以下 日本板硝子、社長執行役員:藤本勝司)は、太陽熱エネルギー自動制御ガラスの開発について共同研究契約を締結しましたので、以下の通りお知らせします。

 このガラスは、気温によって自動的に太陽熱エネルギーの取り込みを制御し、夏には太陽熱が室内に入りにくく、冬には太陽熱が室内に入りやすくする省エネルギー型窓ガラスです。

 従来、住宅や自動車の窓ガラスには、複層ガラス、Low-Eガラス、真空ガラス、熱線カットガラス等の機能性ガラスが市販され、省エネルギーや快適性の向上に貢献していますが、これらのガラスは日射遮蔽性による夏の冷房負荷低減や、断熱性による冬の暖房負荷低減に有効である一方、一年を通して太陽熱エネルギーの取り込み量は一定であるため、季節の変化や居住者の需要に応じて太陽熱の取得量を変化させる機能はありませんでした。

 今般共同研究するガラスは、表面に酸化バナジウム化合物の薄膜を形成することにより、可視光の透過率はほぼ一定に保ちながらも、温度によって光学的性質が変化する薄膜の特性を利用して、環境温度に応じて太陽熱の取得量を変化させるガラスです。

 産総研では、これまで約10年間、作製法の開発、可視光透過率の改善、太陽熱の変化量の向上などの研究に取り組んできた結果、可視光透過率を最大60%にまで上げることができ、さらに10℃から68℃の温度範囲での太陽熱透過率の変化を、約60%から20%に制御できるサンプルの作成に成功しています。

 今後の実用化に向けた量産化技術の問題を解決するため、産総研の特許実用化共同研究制度を活用し、産総研が持つ研究成果と、日本板硝子の持つ機能性ガラスの生産技術を生かした共同研究を行う予定です。

 また、今後3年以内に、住宅用窓ガラスとして使用されるサイズの太陽熱エネルギー自動制御ガラスの製品化を目指しております。

自動調光ガラスの構造と働きの概略図

図 自動調光ガラスの構造と働き概略

研究の背景

 地球温暖化防止国際会議(COP3)において、2012年までに1990年を基準としてCO2排出量6%削減が約束されている。ところが、環境省の資料では、産業部門は排出量の削減が見込まれるものの、運輸部門および空調や住宅といった民生部門においては逆に増加している。また、住宅においては、全体の熱の出入りのうち、冬季に窓から熱が流出する割合は48%、夏季に窓から熱が入る割合は71%に達する。従って、窓に断熱機能を付加することにより、民生部門のCO2排出量削減に大きく寄与することができる。断熱性を付与した窓としては、熱線反射ガラスやLow-Eガラスを用いた複層ガラスなどが市販されているが、これらは光学特性が常に一定で季節に応じて適切に変化することはない。冬には太陽熱を取り込み、夏には太陽熱を通さない窓ガラスができれば、これまで以上に冷暖房負荷を低減することができる。これまでにもこの目的でエレクトロクロミック材料等(電気制御によって太陽熱透過率を変化させる材料)の研究が行われてきたが、省エネルギー目的で製品化に至った例はほとんどない。

技術的背景

 産総研サステナブルマテリアル研究部門では、温度によって太陽熱の透過率が変化するサーモクロミックガラスの研究を行ってきた。サーモクロミックガラスを建物の窓として用いると、冬は太陽熱を透過し夏は太陽熱を反射するため、従来以上に冷暖房負荷を低減することができる。また、温度の変化によって自律的に変化するため、余分な制御系や操作をまったく必要としない。

 サーモクロミックガラスとは、温度によって光学的性質が可逆的に変化するサーモクロミック材料をガラス上に形成したものである。サーモクロミック材料として代表的なものは二酸化バナジウム(VO2)あるいは二酸化バナジウムにタングステンやモリブデン等の金属を添加した材料(V1-xMxO2)であって、金属の添加量によって光学的性質の変化する温度を室温以下から68℃まで自由に調節することができる。

 このように、サーモクロミックガラスは現在市販の断熱ガラスに自律的な機能を持たせたガラスと位置づけることができ、画期的な新機能ガラスであるが、可視光領域での透過率が低いこと、黄色に着色する傾向があること等の問題があり、実用化に問題があった。

 最近、これらの材料の性質に関する問題に対し、多層構造や膜厚制御等によって解決の見込みが得られ、実用化に大きく近づくことができた。