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お知らせ記事2004/05/10

国内最高性能のクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ」の運用を開始
-産学官連携推進のためのグリッド用基盤システム-

ポイント

  • 国内最高の総演算性能14.6TFLOPSを有するクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ」を導入し、運用を開始
  • グリッドコンピューティングのための基盤システムとして計算資源を提供し、産学官連携を推進
  • ナノテクノロジー、バイオインフォマティクスのための計算資源としても活用

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、国内最高の総演算性能を持つクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ1)」を平成16年3月末に導入し、このたび運用を開始しました。AISTスーパークラスタは、Linuxをオペレーティングシステムに用いた、全体で14.6TFLOPSの総演算性能と9.6TBのメインメモリ、803TBのストレージを持つクラスタ計算機です。世界最高速の計算機である地球シミュレータの約1/3のピーク性能を低コストで実現しています。

 AISTスーパークラスタは、全体の計算性能を重視した「P-32クラスタ部」、個々の計算機毎のメモリ容量を重視した「M-64クラスタ部」、複数の独立した計算処理を同時に処理することを目指した「F-32クラスタ部」の3種類のクラスタ部と20TBの「ストレージ部」から構成されています。これらは10ギガビットイーサネットで相互に接続され、用途に応じて各部を使い分け、あるいは組み合わせて使用することにより最適な性能が得られます。

 AISTスーパークラスタの導入目的は下記の通りです。

  1. グリッド技術を用いた高性能計算環境の構築
    AISTスーパークラスタをグリッドに計算能力を提供する基盤システムとして利用し、高性能なグリッド計算環境を構築する。
  2. 大規模クラスタシステム構築、運用技術の確立
    クラスタ計算機は、多数のPCを組み合わせて高性能計算環境を安価に実現できるため広く使われるようになってきた。しかし、1,000台規模の大規模クラスタの構築、運用技術は確立していない。異なる構成のクラスタ部を組み合わせたAISTスーパークラスタを用いて、様々な運用形態の試験と運用技術の確立を行う。
  3. ナノテクノロジーおよびバイオインフォマティクスのための計算資源
    物質の界面や表面などナノスケールで生じる現象の挙動解析など物質材料分野の研究や、たんぱく質等の生体物質の挙動解明など生命科学に関する研究のための計算資源として利用する。
  4. 分野横断的かつ国際的な研究推進や産学官連携を担う中核システムとしての利用
    グリッドコンピューティングの一つの資源として利用するなど、国際的研究や産学官連携研究のための計算基盤として用い、諸外国との共同研究や産業界活性化を進める。

1)AISTスーパークラスタ http://unit.aist.go.jp/tacc/ci/supercluster.html
AIST Super Cluster(英語版)http://unit.aist.go.jp/tacc/ci/en/supercluster.html

AISTスーパークラスタの写真

写真 AISTスーパークラスタ

AISTスーパークラスタ全体構成図

AISTスーパークラスタの構成

 AISTスーパークラスタは、産総研 グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】が中心となって仕様の策定を行い、P-32およびM-64クラスタ部は、日本アイ・ビー・エム株式会社【代表取締役 社長執行役員 大歳 卓麻】が、F-32クラスタ部およびストレージ部は、日本SGI株式会社【代表取締役社長 CEO 和泉 法夫】が納入しました。

 AISTスーパークラスタの各部は以下の構成をとっています。
 

(1) P-32クラスタ部

 Opteronプロセッサ(クロック周波数2.0GHz)を有するIBM社製e325サーバー1,072台をギガビットイーサネットとMyrinetでつないでいます。全体で8.6TFLOPSの総演算性能と、6.4TBのメインメモリ、565TBのストレージを持ち、多くのプロセッサが頻繁に通信しながら処理を行う必要がある用途に適しています。P-32クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキングTop500リストで世界第11位に相当する6.155TFLOPSのLinpack性能を達成しました。これは使用したプロセッサの総演算性能の75%に相当する非常に高い値となっています。

 

P-32クラスタ部構成図画像

P-32クラスタ部構成図

 

(2) M-64クラスタ部

 Intel社製Itanium2プロセッサ(クロック周波数1.3GHz)を有する同社Tiger4サーバー132台をギガビットイーサネットとMyrinetでつないでいます。全体で2.7TFLOPSの総演算性能と2.1TBのメインメモリ、117TBのストレージを持ち、個々の計算ノードに多くのメモリが必要である用途に適しています。M-64クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキングTop500リストで世界第65位に相当する1.616TFLOPSのLinpack性能を達成しました。

 

M-64クラスタ部構成図画像

M-64クラスタ部構成図

 

(3) F-32クラスタ部

 Intel社製Xeonプロセッサ(クロック周波数3.06GHz)を有するLinux Networx社製Evolocity2eサーバー268台をギガビットイーサネットでつないでいます。全体で3.3TFLOPSの総演算性能と1.1TBのメインメモリ、99TBのストレージを持ち、相互通信の少ない用途に適しています。F-32クラスタ部は、2003年11月の科学技術計算向け計算機の性能ランキングTop500リストで世界第39位に相当する1.997TFLOPSのLinpack性能を達成しました。

 

F-32クラスタ部構成図画像

F-32クラスタ部構成図

 

(4) ストレージ部

 ストレージ部は、20TBの実効容量を持つディスクアレイをクラスタファイルシステムで共有し、8台のNFSサーバーを介してAISTスーパークラスタ全体に共有ストレージを提供します。100TBの容量を持つバックアップテープライブラリを有しています。 

 

今後の予定

 AISTスーパークラスタは、ネットワーク上の情報を柔軟にアクセスできるグリッド技術を用いた高性能計算環境の基盤システムであり、国内における最大級のクラスタ計算機として構築されました。クラスタとしての利用を容易にするSCoreクラスタシステムソフトウェア2)、グリッドで広く使われているGlobusツールキットなどのソフトウェア環境をユーザに提供します。
 グリッド技術の研究においては、グリッドミドルウェアなどの基盤ソフトウェアの開発環境およびビジネスグリッドにおける実証システムとしての利用が期待されています。

 また、新物質材料の設計などのナノテクノロジー分野や、生体物質の挙動解明などのバイオインフォマティクスの分野においては、このような大規模なクラスタで計算科学的手法を用いることにより、研究開発が飛躍的に進展することが期待されています。

 さらには、大規模クラスタ計算機での計算を望む企業などとの産学官連携を図る基盤システムとして積極的に利用することにより、産業界の活性化が進むものと考えています。

2)SCoreクラスタシステムソフトウェアの標準機能のうち、Omni OpenMPを除く

用語の説明

◆クラスタ計算機
多数の汎用PCをネットワークで接続した並列計算機。[参照元へ戻る]
◆TFLOPS
FLOPSはFloating point Operations Per Secondの略。フロップスと読む。1FLOPSとは、1秒間に1回の浮動小数点演算を実行する速度である。浮動小数点演算を多用する科学技術計算の計算能力を示す指標に用いられる。1TFLOPS(テラフロップス)は1秒間に1兆回の浮動小数点演算能力。[参照元へ戻る]
◆TB
テラバイト。TBは1兆バイト(DVD200枚)。1TB=1,000GB。通常のパソコンのメインメモリは0.2~1GB、ハードディスクは100~250GB程度。[参照元へ戻る]
◆ストレージ
コンピュータ内でデータやプログラムを記憶する装置。大容量で高速な処理が求められている。[参照元へ戻る]
◆地球シミュレータ
宇宙開発事業団(現:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)、日本原子力研究所、海洋科学技術センター(現:独立行政法人 海洋研究開発機構)が開発した、多目的型では世界最速(2004年現在)のベクトル型並列スーパーコンピュータ。総プロセッサ数5120個、総演算性能40TFLOPS、メインメモリ10TB、総ストレージ量930TB。コンピュータ内に仮想地球を作り、大気や海洋の変動、地殻変動などを高速かつ高精度にシミュレーションすることにより、中長期的な地球環境の変動予測をすることに使用される。[参照元へ戻る]
◆グリッド技術
次世代インターネット利用技術として、複数の組織間の計算資源・データベース・実験装置等を、安全かつ動的に共有し、問題を解決するための情報処理技術のこと。グリッドは元来、電力網(パワーグリッド)に由来する言葉で、電力網により経済的で安定した電力の供給が可能になり電力というサービスを得られるようになったのと同様に、計算資源、ディスク資源などに対する経済的で安定したアクセスを可能とすることにより計算サービス、データベースサービスなどを安全に得られるようにするための基盤技術である。[参照元へ戻る]
◆バイオインフォマティクス
バイオ(生物学)とインフォマティクス(情報学)という2つの学問分野の接点にある比較的新しい学問分野であり、生命現象に関わる実験データのコンピュータによる整理・解析や、情報理論やモデルなどを通した生命現象の解明など、さまざまな生命現象を解明するための学際的研究分野。[参照元へ戻る]
Myrinet
米国Myricom社が開発・製造しているクラスタ内専用ネットワーク。イーサネットに比べ、伝送帯域を効率よく利用でき、通信遅延も小さい。[参照元へ戻る]
Top500
世界中からレポートされるLinpackベンチマークによる性能評価結果を半年に1度集計するもの。科学技術計算向け計算機の性能ランキング。
参考URL:http://www.top500.org/ [参照元へ戻る]
Linpack
米国テネシー大学のJack J. Dongarra氏により開発された密行列計算を行うベンチマークプログラム。科学技術計算における計算性能評価に広く用いられている。[参照元へ戻る]
SCoreクラスタシステムソフトウェア
経済産業省リアルワールドコンピューティングプロジェクトを推進した技術研究組合 新情報処理開発機構で開発され、PCクラスタコンソーシアムが著作権を持つ、クラスタシステムソフトウェア。
参考URL:http://www.pccluster.org/ [参照元へ戻る]
Globusツールキット
グローバスプロジェクトによって開発されている、計算グリッド環境の構築およびグリッドアプリケーションの開発を容易にするツール群。
参考URL:http://www.globus.org/ [参照元へ戻る]
◆グリッドミドルウェア
グリッド上でのアプリケーション実行を補助するためのソフトウェア群。セキュリティやスケジューリングなどの基本的な機能を提供する基盤的なものと、プログラミングをサポートする、より上位レベルのものがある。[参照元へ戻る]
◆ビジネスグリッド
科学技術計算分野を中心に開発されてきたグリッド技術を、実用性、俊敏性、信頼性を向上させつつ、企業情報システムなど現実の企業ビジネスシーンで活用させることを目指したグリッド技術のこと。[参照元へ戻る]

製品名および会社名は、それぞれ各社の商標または登録商標です。