産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2014/01/23

産業技術総合研究所と慶應義塾大学医学部・慶應義塾大学病院が連携・協力に関する協定を締結
-研究・教育・医療に関する包括的協力体制を構築し、医療・創薬技術の研究開発を推進-

ポイント

  • 連携・協力協定に基づき、共同研究などの研究協力、人材交流・育成、研究施設・設備の相互利用などを推進
  • 本連携により、健康長寿社会の実現に向け、わが国の医療・創薬分野における学術・科学技術および産業技術の振興に寄与
  • 当初は、特に創薬推進のための疾患検出・診断技術の研究開発を強力に推進

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)と慶應義塾大学医学部【医学部長 末松 誠】(以下「慶大医学部」という)、慶應義塾大学病院【病院長 竹内 勤】(以下「慶大病院」という)は、研究開発や人材育成の連携・協力に係る協定を平成26年1月23日に締結した。

 本協定に基づいて、産総研と慶大医学部・病院は、共同研究などの研究協力や人材交流・人材育成を推進することにより、医療・創薬・健康分野における医工連携のイノベーション拠点を構築し、世界標準となり得る新たな診断・治療技術の創出を目指す。

研究開発や人材育成の連携・協力に係る協定の概要図


連携・協力協定の締結の様子の写真
調印式の様子
(左:産総研 中鉢理事長  中:慶大医学部 末松医学部長  右:慶大病院 竹内病院長)

協定締結のねらい

 産総研はライフ・イノベーション推進戦略の一環として、医療・創薬の技術開発を重点的に推進し、これまでに糖鎖解析などの領域で独自技術を開発してきた。慶大医学部・病院との連携では、臨床サンプルや病理解析技術の提供を受けやすくなるとともに診断・治療技術の実証研究を促進できるなどのメリットが得られる。これにより、医療・創薬分野においてこれまで蓄積してきた独自の優位技術の社会還元を加速できることが期待される。

 慶大医学部・病院は本協定において、医療の進展にとどまらず、病院を核としたその周辺技術・産業の発展も視野に入れた広範な医工連携を目指す。さらに、医療だけではなく、病院を核としたTotal Health Care(=未病者の健康の維持・増進など)の進展・普及も視野に入れており、ライフサイエンス分野にとどまらず、情報・エレクトロニクス分野、ナノテクノロジー・材料・製造分野など総合的な技術・ノウハウを有する産総研と連携することにより、医工連携の大幅な推進を期待するものである。

具体的な連携・協力内容

 協定に基づく連携・協力事項として、共同研究を推進するとともに、人材交流や人材育成などを進める。

(1)共同研究の推進
 共同研究の第一弾として、「疾患診断用の糖鎖バイオマーカーの開発」を推進する。慶大医学部は将来のCOI拠点候補として、ビジョン達成に向けたコンセプトの検証や要素技術の検証を行うCOI-T(トライアル)に採択されている。「健康長寿の世界標準を創出するシステム医学・医療拠点」の本格的な構築に向け、プログラムを推進している。また、文部科学省 平成25年度科学技術試験研究委託事業「オーダーメイド医療の実現プログラム」(研究課題名:「保存血清のメタボローム解析による疾患診断の有用性の検証と応用」)が採択された。産総研は、これらの事業の中核拠点メンバーの一つとして参画している。産総研の糖鎖解析技術と慶大医学部の先端代謝解析技術や定量的質量分析イメージング技術を融合し、慶大病院のヒト臨床サンプルを解析することにより、これまで臨床バイオマーカーが乏しかった悪性腫瘍、慢性炎症性疾患、感染症について、早期診断や薬剤感受性予測に活用できるマルチバイオマーカー研究開発を行う。
 同時に、既存薬の新規薬効を探索するドラッグリポジショニング技術の開発において、これまでの共同研究を継続する。また、再生医療分野などにおける連携も検討を進める。

(2)人材交流・人材育成(産総研・慶應連携ラボの設置)
 人材交流については、慶大医学部のリサーチパーク内に産総研・慶應連携ラボを設置して上述の共同研究などを通して研究者相互の交流を活性化するとともに、協働で取り組むべき新たな研究課題の発掘などを行う。さらに、産総研・慶應連携ラボなどを活用して、ポスドクや大学院生に対して産総研の独自技術を指導し、若手研究者として育成する。

用語の説明

◆糖鎖
細胞表面やタンパク質上に存在する糖が連なった物質。「細胞やタンパク質の衣装」とも例えられる。個々の細胞に特異的な情報伝達や細胞間コミュニケーションなどの役割を果たしている。[参照元へ戻る]
◆バイオマーカー
人間の健康状態を定量的に把握するための科学的な指標。糖尿病の場合、血糖値が高くなるが、これもひとつのバイオマーカーである。疾患の状態の変化や治癒の程度を特徴づけることができるため、早期診断や病気の経過観察には重要である。しかし、一部の病気に対してしかバイオマーカーは利用されていないため、さまざまな病気に対するバイオマーカーの発見が望まれている。がんでは、細胞が悪性化することで糖鎖の枝分かれ構造や立体構造が変化することが知られており、このような糖鎖は、バイオマーカーの最有力候補として注目を受けている。産総研は、世界初となる糖鎖マーカーを用いた肝線維化検査技術の実用化に成功している。[参照元へ戻る]
◆COI拠点
文部科学省プロジェクト「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」事業の中核となる拠点。COIとはセンター・オブ・イノベーションの略記。[参照元へ戻る]
◆マルチバイオマーカー研究開発
罹患状態とその対照となる状態を比較して、複数のバイオマーカー値の変化の特徴やパターンを総合的に捉えて、単独のバイオマーカーだけでは判断できない罹患状態を把握することを目的とした研究開発。慶大医学部はマルチバイオマーカーによる慢性肝疾患の早期診断やがん組織の質量分析イメージングで実績を上げている。[参照元へ戻る]
◆ドラッグリポジショニング技術
製薬会社が臨床試験途中で薬効不足や毒性などのため開発を断念した化合物を再開発する技術として広く使用されている。既存医薬品の新規薬効を発見し、別の疾患治療薬として再開発(適応拡大)する技術の総称。既存薬再開発の場合、ヒトでの安全性や体内動態が担保されているため、新薬開発に比べ、開発のコストや時間が大幅に低減される。[参照元へ戻る]