産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2007/08/01

「生産計測技術研究センター」を設立
-生産現場における計測技術の問題解決と高度化を目指して-

ポイント

  • 生産現場に必要とされる様々な計測技術の研究開発やデータベースによる情報提供を行うために生産計測技術研究センターを設立した。
  • 企業の生産現場における専門家である「マイスター」と連携して計測技術の問題解決を図る。
  • 産業界での現場ニーズと産総研の研究シーズの双方の視点を組み合わせて問題解決を行い、イノベーションを推進する。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】(以下「産総研」という)は、平成19年8月1日付けで産総研九州センターに「生産計測技術研究センター」【研究センター長:五十嵐一男】を設立しました。

 産総研では、これまでも生産現場などの実環境における計測技術の研究開発を進めるとともに、生産現場で直面している計測・診断技術における問題解決に取り組んできました。

 このような実績を踏まえて、多数の生産現場が集中する九州地域に本研究センターを設立し、品質・生産性の向上、製品不具合対処、安全確保、環境保全などに資する新たな計測技術を生産現場へオンタイムで提供することを目指します。加えて産総研初の試みとして、企業の生産現場に精通した「マイスター」との連携によって産業界の計測ニーズに沿った研究開発を推進します。


生産計測技術研究センター設立の概要図

背景

 現在、計測技術は開発から廃棄に至る製品のライフサイクルの各局面における評価の基盤となっています。例えば、半導体製造においてはウェハーの欠陥検出精度の向上、部品組み立て工程においてはネジやボルトの締め付け管理などの技術が求められています。また生産計測技術については体系的なデータベースが存在しないことから、生産現場個別の課題解決に終始しているのが現状です。このようなことから生産現場では、品質と生産性向上、製品不具合対処、安全確保、環境保全などに関わる種々の計測課題の解決に役立つ新しい計測技術やデータベースが求められています。

経緯

 産総研九州センターの実環境計測・診断研究ラボでは、応力発光体を用いた応力分布の可視化技術の開発や、高温あるいは生活環境下で振動や圧力が計測可能な圧電素子の開発を進めてきました。例えば、自動車メーカーとの共同研究による構造部品の応力分布可視化技術の開発、超音波を応用した人体内のような柔軟組織の硬さ分布計測技術の開発、エンジン内部など高温環境での圧力・振動センサの開発などを行ってきました。

 同時に、企業がものづくり産業等の現場で直面している計測・診断技術における課題を明らかにしてその解決を図っていくことを目的に、産総研九州センターが中核となり、九州地域の大学、企業や行政機関に呼びかけてコンソーシアム「実環境計測・診断システム協議会」を組織するなど、産学官連携活動を通して産業界に貢献してきました。例えば本協議会では、半導体製造工程における製品の迅速外観検査装置開発などの研究開発プロジェクトを行ってきました。

本研究センターの内容

 本研究センターは、上記のような計測・診断技術における課題解決のために、(1)共通的な課題に基づき新たな計測技術の開発を進めること、(2)民間企業の生産現場における計測の専門家である「マイスター」と連携し、生産現場における個別の計測課題について、これまで醸成してきた研究成果と技術基盤情報をもとに個別課題解決にあたり、それらの解決事例の蓄積により、計測分析技術の評価基準に関するデータベースを構築すること、をミッションとします。

 (1)については、応力発光体を用いた新たなユビキタスセンシングシステムの開発、実時間での状態異常を検出するシステム、応力の履歴をその場で記録するシステム、そしてこれらをネットワーク技術によって統合した新たなセンシングシステムを開発するプロジェクトを進め、個別課題から抽出された共通課題の研究開発を行います。

 (2)は、生産現場が求める計測課題解決のために、本研究センターが「マイスター制度」を創設するというものです。これは企業の生産現場に精通し、民間企業に在籍する「マイスター」から提案された計測課題を、本研究センターと「マイスター」との共同研究で解決を図るという産総研初の試みです。

 これは具体的には、民間企業の生産現場における計測の専門家で、研究に関する知見も併せ持つ技術者(「マイスター」)が在籍する企業と産総研との間で共同研究契約を締結し、「マイスター」から現場の計測課題やニーズに関する情報を提供していただくと同時に、本研究センターとの共同研究において問題解決のための技術開発に取り組んでいただくという新しい制度です。

 この制度の目的は、様々な生産現場と研究開発の場を直結し、ニーズによる研究開発の掘り起こし、および研究開発の現場への直接的かつ迅速な適応によって産業界へ貢献することにあります。「マイスター制度」の下で、製造ライン中に存在する異物や有害物質を製品内の有効成分と区別して迅速に検出できる新しいセンサの開発、および完成した製品の簡易な品質検査方法に関わる計測技術開発などを行う予定です。

 さらには、計測技術やセンサ、計測機器などの情報と共に、それらの実使用による評価結果などの情報も含んだデータベースを構築して、生産現場における計測に関する産業界のニーズに応えていきます。このデータベースは将来の個別課題の迅速な解決をはかるための情報基盤となります。

 本研究センターにより研究開発された新しい計測技術の技術移転により、生産現場における生産効率の向上が期待されます。

 以上のように、産総研は計測技術に関して産業界での現場ニーズと産総研の研究シーズの双方の視点を組み合わせて問題解決を行う、イノベーション・スーパーハイウェイ構想のモデルとして本研究センターを設立しました。

今後の予定

 生産現場における個別・共通課題解決のため、本研究センターと「マイスター」を中心とする産学官が一体となった研究実施体制を築き、新しい計測技術を開発・統合することで、大型構造物の包括的安全管理ネットワークシステムの構築、半導体製造・電子部品製造における新たな検査方法の確立などを実現していきます。さらには、これらの研究を通して、製品認証システムの高度化のための新たな国際規格策定への貢献や、我が国のものづくり産業を実質的に支える中堅・中小企業のための生産計測ツールの創出を目指します。

用語の説明

◆応力発光体
応力発光体とは摩擦、圧縮、曲げ等の外力により発光する物質であり、産業技術総合研究所九州センターが世界に先駆け研究開発を推進しています。応力分布の可視化、部品や構造体の劣化診断予測、さらにはものづくり工程の管理への利用が期待されています。[参照元へ戻る]
◆イノベーション・スーパーハイウェイ構想
科学技術創造立国の実現に向けて、イノベーション(技術革新)を創出する仕組みを強化するため、産学官が連携し、研究と市場の双方向での知の流れの円滑化をはかり、異分野の融合、価値創造との効果的なつながりを構築しようという構想です。その実現のためには研究と市場双方を見渡せる人材の育成・配置が不可欠です。また、研究成果を市場化するためには、従来の多様な機能を組み合わせ、ニーズに最適に対応するための組織的な取り組みが必要です。[参照元へ戻る]