産総研 - ニュース お知らせ

お知らせ記事2018/04/23

ラストマイル自動走行の実証評価(永平寺町)に係る利用者受容性評価を開始

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)情報・人間工学領域 端末交通システム研究ラボ 加藤 晋 研究ラボ長、橋本 尚久 主任研究員らは、平成30年4月23日から福井県吉田郡永平寺町において「ラストマイル自動走行の実証評価」として、地域の住民の方々に遠隔型自動走行システムによる自動運転車両に試乗していただき、実証評価を開始いたします。ここでは、実運用に近い状況で運行し、特に移動手段としての有用性や安全性といった観点で、自動運転車両が移動サービスとして利用者に受け入れられるかなどの評価(利用者受容性評価)を行います。

産総研は、経済産業省および国土交通省の平成30年度「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業:専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」を幹事機関として受託し、ヤマハ発動機株式会社、株式会社日立製作所、慶應義塾大学SFC研究所、豊田通商株式会社などと共に、研究開発と実証を進めています。

端末交通システムとは、基幹交通システム(鉄道やバスなど)と自宅や目的地との間、地域内といった短中距離を補完するラストマイルモビリティとも呼ばれる次世代の交通システムです。本事業では、公共的な利用を前提とし、地域の活性化などにつながる端末交通システムとして、自動走行技術を取り入れた運行管理システムなどの研究開発を行っています。また、研究開発された端末交通システムの社会実装に向けて、平成30年度に実際に端末交通システムが求められている地域の環境で実証評価を行うこととし、平成28年度に自治体や地域団体を公募し、選定地の一つとして福井県吉田郡永平寺町の協力を得られることになりました。

永平寺町では、実証環境の特徴から同町を過疎地モデルと分類し、えちぜん鉄道の廃線跡地の町道である永平寺参ろーどを走路とし、高齢住民、通勤・通学者や観光客の移動手段としての端末交通システムを、歩行者などとの共存空間における自動走行や遠隔監視・操作の技術で実現することにより、少子高齢化地域の活性化を目指した社会実験を行っています。

平成30年3月からは、小型電動カートを用いて、遠隔監視・操作技術と自動走行技術を組み合わせた遠隔型自動走行システムとなる端末交通システムの社会実装に向けた技術実証として、積雪路面での自動走行や通信状態の検証などを進めてきました。また、4月5日からは、遠隔型自動走行の実証実験を開始し、今回、利用者による利用者受容性評価に至りました。

今回の実証評価では、実運用に近い状況での利用者受容性評価を開始します。これまで他の実証地域で同様の遠隔型自動走行システムを用いて進めてきた実証評価の実績を活かし、当該地域の環境に合わせたシステムの構築を行い、地元住民などの利用者の試乗による受容性評価を継続的に行い、その結果にもとづくシステムの改良を含めて、事業性の高いより良い交通手段の実現を目指しています。利用者の継続的な試乗による実証実験は、本事業としては他の地域に先駆けての開始となり、今後の社会実装に向けた移動サービスの実現に対する高い受容性の評価が得られれば、遠隔型自動走行システムの事業性を大きく高められるものと期待されます。

実験にあたっては、平成30年2月23日に国土交通省 中部運輸局より遠隔自動運転車両の基準緩和の認定を受けました。また、本認定を基に警察庁が策定した「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」における福井県警察本部福井警察署による走行審査を3月1日に受け、公道実証実験に関する道路使用許可を3月23日に得ました。今回の走路は、永平寺町所有の「自転車歩行者専用道」の公道ですが、自動運転車両として走行許可を永平寺町から受けた車両で実証を行っています。これにより、歩行者や自転車と共存する公道において、自動運転のレベル4の機能を持った車両と遠隔型自動走行を組み合わせた実証評価を推進し、安全性や受容性の向上と自動運転サービスの早期実現を目指します。

また、永平寺町での受容性評価から得られる成果を、他の実証評価地域(石川県輪島市、沖縄県中頭郡北谷町)における今後の実証評価に活かし、端末交通システムの改良を行い技術実証を行うとともに、移動サービスの事業性評価など、総合的な端末交通システムの社会実装に資する評価を行っていく予定です。

本実証評価を通じて端末交通システムの社会実装が加速され、少子高齢化が進む過疎地の活性化に資する交通弱者の安心な交通手段の確保や、観光施設までの新たな交通手段としての活用で沿道施設の利用による観光客の需要促進などが期待されます。

用語の説明

◆遠隔型自動走行システム
車両内にはドライバーは存在しないものの、車両外(遠隔)にドライバーに相当する者が存在し、その者の監視などに基づく自動走行システムのこと。[参照元へ戻る]
◆受容性評価
製品、サービス、新しい技術などがユーザーや社会に受け入れられるのかどうか(受容性)を評価すること。端末交通システムのように、新しい交通システムには利害関係者(ステークホルダー)が多く存在する。本事業では、利用者だけでなく、交通事業者や周辺住民、周辺施設関係者、自治体を含めた社会的な受容性の高い交通システムを目指しており、それらの評価を受け、システム改善などを進めていく予定である。[参照元へ戻る]
◆自動運転のレベル4
自動運転には、運転タスクの一部やすべてを運転者やシステムが実施するのかなどによってレベル分けが定義されている。本事業では、政府が「官民ITS構想・ロードマップ2017」で採用している、SAE(Society of Automotive Engineers) International のJ3016(2016 年9 月)の自動運転レベルの定義を指している。すなわち、SAE レベル4は、システムがすべての運転タスクを実施(限定領域内)するもので、作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されないものと定義されている。現在、日本の公道においては、道路占有などの規制をかけない状態での自動運転のレベル4での走行実験は認められていないが、今回の実験では、レベル4相当の機能を持った車両を用いて、遠隔型自動走行で行うことが許可されている。[参照元へ戻る]

関連写真

写真1
実証用車両(スマートEカート)

写真2
遠隔監視・操作用モニターの画面

写真3
遠隔監視・操作の様子

写真4
除雪車の轍での走行状態検証(2018年3月)

写真5
最大25 cm程度の積雪でも誘導線を検知。状態により走行可(2018年3月)