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発表・掲載日:2012/11/05

有機材料を使わない全固体型のリチウム-空気電池

-安全で高エネルギー密度の蓄電池を開発-

ポイント

  • 無機化合物主体の固体だけからなる安全性の高いリチウム-空気電池の作動に成功
  • 分解しやすい電解液を用いた場合に生じる大きな充電時と放電時の電圧差を抑制可能
  • 高い安全性と高エネルギー密度を両立できるため、電気自動車用の大型蓄電池として期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 角口 勝彦】上席研究員 兼 エネルギー界面技術研究グループ 研究グループ長 周 豪慎、エネルギー界面技術グループ 北浦 弘和 研究員は、電解質や電極材料に液体や有機材料を用いずに、無機化合物の固体だけで構成された新型リチウム-空気電池を開発した。

 リチウム-空気電池は、理論的にはリチウムイオン電池の5~8倍の重量エネルギー密度が期待できる。しかしながら、従来のリチウム-空気電池の電解質には有機電解液が用いられているため、液漏れや揮発、発火等の懸念があった。また、有機電解液やバインダーは、充放電中に分解・反応してしまうことがあり充電時と放電時の電圧差が大きくなる原因となっていた。

 今回、電解質として無機固体電解質を用いて、有機電解液等を使わない、安全性の高いリチウム-空気電池を設計・構築し、常温・空気中での作動を確認した。また、電解液に比べて安定な固体電解質を用いることによって、充電時と放電時の電圧差を小さくできた。この新型リチウム-空気電池は、高い安全性と高エネルギー密度を両立できるため、電気自動車用の大型蓄電池への応用が期待される。

 この成果は、2012年8月16日に英国の学術誌Energy & Environmental Scienceにオンライン掲載された。 (Energy & Environmental Science 5, 9077-9084 (2012))

有機電解液を用いた従来のリチウム-空気電池と無機固体電解質を用いた新型リチウム-空気電池のイメージ図
図1 有機電解液を用いた従来のリチウム-空気電池(左)と無機固体電解質を用いた新型リチウム-空気電池(右)のイメージ図

開発の社会的背景

 近年の環境・エネルギーに関する問題意識の高まりから、ハイブリッド自動車、電気自動車の普及が進んでおり、蓄電池としてこれらにリチウムイオン電池が搭載されはじめた。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が他種の電池に比べ格段に大きいことから、携帯電話、ノートPCなどのモバイル機器の電源として用いられてきた。しかしながら、リチウムイオン電池でさえ電気自動車の長距離走行にはエネルギー密度が十分ではないため、より高性能な蓄電池の開発が求められている。

 リチウム-空気電池はリチウムイオン電池の発展型の蓄電池であり、理論的にはリチウムイオン電池の5~8倍の重量エネルギー密度を持つことが期待されている。現在のところ、従来よりリチウムイオン電池に用いられてきた有機電解液などの材料をリチウム-空気電池に用いると充放電中に分解・反応してしまうため、より安定な材料が探索されている。一方、携帯機器用のリチウムイオン電池では発火等の事故例があるが、電池が大型化すると蓄積されるエネルギー量も増大するため、安全性の向上がより重要となる。電気自動車だけでなく、家庭や発電施設等での余剰電力用蓄電池としても期待できるため、高いエネルギー密度と高い安全性を兼ね備えた大型蓄電池の開発が求められている。

研究の経緯

 産総研では、次世代「リチウムイオン電池」の実用化を目指した研究開発を進めてきた。これまでに、電極材料をナノ構造化することで大出力化が期待できることを示した(2008年8月27日 産総研プレス発表)。また、電気自動車用として大幅なエネルギー密度の向上が期待されるリチウム-空気電池(2009年2月24日 産総研プレス発表2011年4月26日2012年10月3日 産総研主な研究成果)の研究開発を続けており、その一環として今回の成果が得られた。

 なお、本研究の一部は泉科学技術振興財団の助成を受けて実施した。

研究の内容

 リチウム-空気電池は空気中の酸素を電気化学反応に利用して発電する電池であり、理論反応では放電時は空気極(正極)中でリチウムイオンと酸素が反応してリチウム酸化物を生成し、充電時はリチウム酸化物が分解される。放電時は酸素が活性な状態となり、空気極中に活性な酸素と反応しやすい物質が存在するとリチウム酸化物以外の化合物が生成してしまうため、充電時に全ての生成物を分解するために必要な電圧が大きくなってしまう。すなわち、放電時と充電時の電圧の差が大きくなりエネルギー効率が悪くなってしまう。これまでに、リチウムイオン電池で一般的に用いられてきた有機電解液と、電極材料粉末を電極中に固定化する高分子材料であるバインダーは、活性な酸素と反応しやすいことがわかっており、安定な材料の探索が焦点となっている。

 燃えやすく反応しやすい有機電解液の代わりに、燃えにくく安定な固体電解質を用いると、性能や安全性の向上が期待できる。また、液体の電解質を用いない場合、電極材料を電極に保持するためのバインダーが不要となるため、これも性能向上につながると考えられる。今回、固体電解質材料として安定な無機化合物であるLi1+xGe2-yAlyP3O12(LAGP)に着目した。LAGP固体電解質は空気中で安定であり、10-4 S cm-1台の比較的高いリチウムイオン伝導度を持つ。

 一方、空気極全体を有効に使うためには、反応に関わるリチウムイオンと電子、空気(酸素)の通る経路を空気極全体に作る必要がある。今回、固体電解質とカーボンナノチューブを空気極の材料として用いた。固体電解質とカーボンナノチューブを混合し焼結することで、固体電解質同士が接触している部分をリチウムイオンが通り、カーボンナノチューブ同士が接触している部分を電子が通り、各粒子間の隙間を空気が通る構造とした。構築した空気極の断面の電子顕微鏡観察から(図2左上)断面に凹凸があって、必要な空気を取り込むのに適した構造(図2右上)となっていることが確認できた。また、リチウムイオンの経路となる固体電解質の粒子と外部回路からの電子の経路となるカーボンナノチューブが、空気極中にある程度分散できており、空気極全体にリチウムイオンと電子の経路を作ることができていることもわかった。

今回開発した全固体型リチウム-空気電池の断面の電子顕微鏡写真と模式の図
図2 今回開発した全固体型リチウム-空気電池の断面の電子顕微鏡写真(左)と模式図(右)
リチウムはイオンになって固体電解質中をリチウム負極から空気極内の反応サイトまで移動し、空気は空気極内の空隙を通り、電子はカーボンナノチューブによって空気極内を伝導する。

 この空気極を用い、LAGPを有機電解液の代わりの固体電解質として全固体型のリチウム-空気電池を作製した。リチウムイオン電池では最初に充電が必要なのに対し、リチウム-空気電池は負極にリチウムを用いているため、作製時に充電せずに放電することができる。この電池は最初の放電の初期には約2.5Vの電圧を示し、放電が進むと徐々に電圧が低下し、2.0Vに達した時点で放電を終了させた(図3)。その時点での放電容量は約1700 mAh/gであり、比較となるリチウムイオン電池で同様の条件での放電容量が150~200 mAh/gであることから、今回開発したリチウム-空気電池はリチウムイオン電池に比べて大きな放電容量を示すことがわかった。

 一方、放電後にこの電流値で充電する際は3.6V以上の電圧が必要であることがわかり、約900 mAh/gと放電時の半分程度の容量が回復することもわかった。これらのことから、固体電解質を用いた全固体型のリチウム-空気電池が、常温、空気中で放電と充電が可能であった。今後は充電性能の向上が課題である。  

一定の電流で放電と充電を行った時の充放電特性図
図3 一定の電流(500 mA/g)で放電と充電を行った時の充放電特性
まず放電電流を流し、電池電圧の時間変化を測定し電圧が2.0Vに達するまで放電した。その後、充電電流を流し、4.2Vに達するまで充電した。横軸の容量は電流を流した時間(h)と電流の大きさ(mA/g)の積であり、電流値が一定であるため時間変化と同意義。この測定により、電池から500 mA/gの電流を取り出した時に、2.0V以上の電圧が得られる状態で使える容量(時間)がわかる。また、充電に必要な電圧と回復する容量(次回使える時間)がわかる。

 次に、この電池が実際に放電時の電圧と充電時の電圧の差を小さくすることができるか確かめるために、電流の大きさを変化させて、充放電時の電池の電圧変化を観測した(図4)。この測定により各電流を使用した時の、電池の放電時と充電時の電圧差がわかる。従来の電解液を用いたリチウム-空気電池では、電解液の分解などが原因で1.3V以上の充放電時の電圧差が報告されている。今回開発した全固体型リチウム-空気電池では、液体に比べ固体中をリチウムイオンが移動しにくく電池の抵抗が大きくなるため、電流値が大きくなると分極も大きくなるが、電流値が小さく分極がほとんどない場合には、最小で0.2Vの電圧差であった。このことは、安定な無機固体電解質を用いることで、活性な酸素による分解・反応を抑制でき、放電時と充電時の電圧差を小さくできる可能性があることを示している。すなわち、今回開発した全固体型のリチウム-空気電池は、安全性を向上でき、従来のリチウム-空気電池で問題となっていた充放電時の電圧差が大きいという問題を解決できる電池として有望である。

電流値を変化させた時の電池の電圧変化の図
図4 電流値を変化させた時の電池の電圧変化
点線枠内表示の電流値(緑)でそれぞれの容量(時間)(20~50 mAh/g)を設定して放電を行い、放電終了後同じ様に充電を行った。放電時のグラフと充電時のグラフを重ねて表示することで、各電流値での放電時と充電時の電圧差がわかる。

今後の予定

 今回作製した電池はまだ実験の初期段階のため、充電性能や分極などの問題があるが、従来のリチウム-空気電池が抱えている問題を解決できる可能性が示唆された。今後は、反応機構の詳細な分析と共に、リチウムイオン伝導度の高い固体電解質材料の適用、空気極材料と電極構成の最適化、作動環境の検討などを行い、より優れた性能のリチウム-空気電池の開発を目指す。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
エネルギー技術研究部門
上席研究員 兼 エネルギー界面技術研究グループ長 周 豪慎  E-mail:周連絡先
エネルギー界面技術研究グループ 研究員 北浦 弘和  E-mail:北浦連絡先


用語の説明

◆リチウム-空気電池
金属リチウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質として構成した電池。リチウムは金属のうち最もイオンになりやすくこれを負極として用いると、正極との電位差が大きく、高い電圧が得られる。またリチウムと酸素はどちらも軽い元素であるため、電池の軽量化や大容量化が期待でき、自動車用電池として研究されている。[参照元に戻る]
◆無機固体電解質
外部から加えられた電場によってイオン(帯電した物質)を移動させることができる無機材料からなる固体。金属や半導体では主に電子の移動によって電流が流れるのに対して、固体電解質では主にイオンの移動によって電流が流れる。移動する荷電粒子がイオンであるという点では電解質の溶液と同様であるが、媒体が固体であるためイオンの移動速度が小さく、低温での導電性は一般的に低い。全固体リチウム電池ではリチウムイオンが移動する固体電解質が用いられる。[参照元に戻る]
◆リチウムイオン電池
現行の電池の中で最も高い作動電圧(3~4 V)を有し、コバルト酸リチウムに代表される遷移金属酸化物を正極、黒鉛系炭素材料を負極として、有機電解液を構成材料とした電池。充電時に正極から負極へ、放電時に負極から正極へリチウムイオンが移動することにより電池として作動する。[参照元に戻る]
◆エネルギー密度
電池の重量あるいは体積あたりの貯蔵・取り出し可能な電気エネルギー量。電気エネルギーは、電池の平均電圧と電池容量との積で表される。この値が大きいほど、一定の電気エネルギーを必要とする際に必要とされる電池の大きさや重量が軽減され、実用化に有利である。[参照元に戻る]
◆空気極
燃料電池や空気電池において、正極活物質である酸素の反応場となる電極。従来のリチウム-空気電池では貴金属や遷移金属酸化物等の触媒と電子伝導性を付与するための炭素材料、それらを金属集電体に固定化するためのバインダーで構成されている。[参照元に戻る]
◆エネルギー効率
広義には投入したエネルギーに対して回収(利用)できるエネルギーとの比をさす。ここでは、電池を充電するのに要したエネルギーに対して、放電できたエネルギーとの比をさしている。[参照元に戻る]
◆分極
外部回路に電流が流れることによって電極電位がずれる現象。原因は様々で、電解質や電極の電気抵抗に起因する抵抗分極や電極反応の活性化エネルギーに起因する活性化分極などがある。[参照元に戻る]

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