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発表・掲載日:2011/06/21

夏季における計画停電の影響と空調節電対策の効果を評価

- 業務・家庭2部門のエアコンを始めとする最大電力需要を同時に評価 -

ポイント

  • 最大電力需要の3割を占める空調需要の要因である気温を地域別に予測
  • 都市気象-ビルエネルギー連成モデルによる気温上昇と空調需要増の悪循環を考慮
  • 業務と家庭の2部門を同時に計算することで全体の最大電力需要を評価

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)安全科学研究部門【研究部門長 四元 弘毅】社会とLCA研究グループ 井原 智彦 研究員、素材エネルギー研究グループ 玄地 裕 研究グループ長らは、夏季の計画停電やエアコンを中心とした各種の節電対策が、最大電力需要や室内温度などに与える影響・効果を定量化した。

 気温が著しく高くなり、最大電力需要が予測される日は、電力需要のうち空調(エアコン)が3割を占めると予想されている。電力需要は産業・業務・家庭3部門の積み上げであるにもかかわらず、個別の部門での節電対策の評価しか存在せず、足し合わせて節電になるかどうかが懸念事項となっていた。そこで、猛暑日を対象に、空調需要が見込まれる業務(事務所)・家庭(戸建住宅、集合住宅)の2部門の電力需要を同時に評価した(電力需要が気温に依存しない産業部門は除いた)。その結果、3時間ずつの輪番停電を実施しても、戸建住宅の屋内温度は35 ℃超となり、業務と家庭の合計では9%の最大電力需要の削減にとどまることがわかった。また、窓面の日射遮蔽や空調設定温度の見直しは、それぞれ家庭で10%弱、業務で5%弱最大電力需要を削減することが示された。また、サマータイムなどの節電対策によっては、運用次第で最大電力需要をかえって引き上げてしまう可能性があることも示唆された。

 この評価の詳細は、2011年7月22~24日に茨城県つくば市で開催される「第6回日本ヒートアイランド学会大会」で発表される。

図
図 3時間計画停電シナリオ下での16:00における13:00-16:00停電グループの空調室
(13:00までは空調されていた部屋)の温度分布

開発の社会的背景

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故により、この夏は、全国的に電力需要が切迫すると予測されている。そのため、東京電力管内ではすべての需要家に15%の節電が要請されたのを始め、各地で節電の要請が相次いでいる。このような節電要請に基づき、政府や民間から種々の節電対策が発表されている。しかしながら、電力需要は産業・業務・家庭3部門の積み上げであるにもかかわらず、個別の部門での節電対策の評価が大部分であり、各部門の電力需要を足し合わせても節電になるかどうかが1つの課題であった。

研究の経緯

 産総研は、地球温暖化やヒートアイランド現象に伴う都市高温化による環境問題に着目し、緑化や高反射率塗料など各種の方法による気温低減効果や、気温上昇がエネルギー消費や睡眠障害などに与える影響を研究してきた(2008年6月5日 産総研ホームページ「主な研究成果」記事)。このうち気温低減方策の効果を評価するために、明星大学や岡山理科大学などとの共同研究で、都市気象-ビルエネルギー連成モデルAIST-CM-BEMの開発を行ってきた。

 また、最大電力需要の3割を占める空調需要を削減する効果は、気温や建築物によって大きく変化するため、本来、気象計算や建築熱負荷計算に基づいた検討が必要である。本研究は、社会全体で有効な節電対策を見極めるため、気象計算と建物熱負荷計算を連成させることで節電効果の定量化を行った。

研究の内容

 シミュレーションに用いたAIST-CM-BEM(図1参照)は、気象や街区構造によって変化する気温、湿度と空調需要を計算でき、また空調排熱に伴う気温上昇および気温上昇と湿度変化に伴う空調電力需要増のフィードバックを考慮できる数値モデルである。このため、猛暑日には3割以上を占めるといわれる空調需要を推定でき、各種の空調節電対策の効果について街区構造による変化も評価できるという特徴を持つ。

図1
図1 AIST-CM-BEMの概略図

 AIST-CM-BEMでシミュレーションを行うためには、上空の気象条件(数百m以上)と都市の街区構造の情報が必要である。上空の気象条件は、米国大気研究センター(NCAR)が開発したWRFを用いて明星大学の亀卦川幸浩 准教授が計算した東京の夏季における結果を用いた。都市の街区構造は、地理情報システム(GIS)の東京都のデータを基にデータベースを作成した。計算領域は、東京23区および多摩地域の一部を約500 m × 約500 mの区画(4次メッシュ)に分割し、そのうち建物が存在しない区画などを除いた3,162区画(図2参照)とした。気象条件は、最高気温35 ℃以上の猛暑日であった2007年8月5日の条件を用いた。

図2
図2 計算対象領域(計3,162メッシュ)

以上の計算条件と数値モデルを用い、節電対策を行わない基準シナリオおよび仮想的な計画停電シナリオの下での最大電力需要や屋内外温度を算出するとともに、各種の節電方策を導入した場合の最大電力需要の削減効果(節電効果)を定量化した。

その結果、計画停電における3時間輪番停電 (20%削減相当) シナリオでは、停電中に屋内に蓄えられた熱を除去するため、復電後、一斉にエアコンがフル稼働となるので、家庭ではかえって電力需要が増大した。そのため、業務と家庭の合計では9%の最大電力需要削減にとどまった(図3参照)。なお、このシナリオは都心を含む全地域を停電対象として、需要の1/5を順に3時間ずつ停電させる。1/5を停電させるため20%の削減率が見込まれる対策である。

図3
図3 3時間輪番停電シナリオ(需要の1/5を順に3時間停電)の電力需要
(破線は節電対策を行わない基準シナリオの電力需要)

窓日射遮蔽は家庭では7~8%、業務では3%の節電効果があった。通風換気は、最大電力需要日では35 ℃を超えるため、換気できる条件にはなかったが、16時以降は効果があった。エアコンの設定温度を住宅平均の24.5 ℃・事務所平均の26 ℃からそれぞれ28 ℃に引き上げると、家庭では6~10%程度、業務では2%の節電効果があった(ただし、すべての住宅・事務所が引き上げた場合)。家庭では、上記の3つの節電対策、業務ではさらに機器・照明の節電も追加すれば、15%の節電が達成できた。

朝夕の打ち水は温熱環境を緩和させるものの、昼間に大規模に打ち水しても節電効果は小さいことがわかった。サマータイムにより、すべての人々が生活時間を1時間前倒しすると、14時の電力需要が抑えられる一方、帰宅によって16時に家庭での電力需要が増加し、業務と住宅を合計した最大電力需要は引き上げられる可能性があることがわかった。

今後の予定

 今回のシミュレーション結果は検証が十分ではないが、社会的重要性を鑑み、速報として発表する。今後、値の検証や数値モデルの精緻化を進め、更新した評価結果を随時、下記の安全科学研究部門ウェブサイト上で発表していく。

 (「安全科学研究部門 夏季における計画停電の影響と空調節電対策の効果(速報)」)

謝辞

 シミュレーションの実施にあたっては、東京都 都市整備局 都市づくり政策部 土地利用計画課より東京都のGISデータを使用させて頂いた。また、WRFによる上空気温の計算結果を明星大学 大学院理工学研究科 環境システム学専攻の亀卦川 幸浩 准教授より提供して頂いた。ご協力頂いた皆様に感謝の意を表する。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ
研究員 井原 智彦 E-mail:井原連絡先

素材エネルギー研究グループ
研究グループ長 玄地 裕 E-mail:玄地連絡先


用語の説明

◆産業・業務・家庭の電力需要
ここでの電力需要の分類は、産業は工場や鉄道など、業務は事務所・ビル・デパート・飲食店・学校・病院など、家庭は家庭用(電灯)とした。資源エネルギー庁の分類「夏期最大電力使用日の需要構造推計(東京電力管内)」【PDF:398 KB】に従っている。[参照元に戻る]
◆サマータイム
サマータイムは夏時間制度とも呼ばれ、昼間の明るい時間が長い期間(例えば4月~10月)、全国の時刻を標準時より1時間進める制度である。現在、世界の中高緯度諸国において導入されている。その総数は、70カ国以上で、OECD加盟29カ国中、日本、韓国、アイスランド以外のすべての国において実施されている。アジアではパキスタンを除き、導入されていない。[参照元に戻る]
◆ヒートアイランド現象
「ヒートアイランド現象とは、都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象であり、近年都市に特有の環境問題として注目を集めている。」(ヒートアイランド対策大綱、ヒートアイランド対策関係府省連絡会議、平成16年3月)と定義されている。気象庁の観測データを基にすると、1900年から2000年にかけての100年間、東京の気温上昇は、全国平均の気温上昇より約2.0 ℃大きい。[参照元に戻る]
◆高反射率塗料
高反射率塗料とは、通常の塗料に比べて日射に対する反射率を向上させた塗料のことである。太陽熱高反射塗料や遮熱塗料とも呼ばれる。高反射塗料を建築物外壁面に塗装すると、壁体を通じての日射熱の侵入を防げるため、冷房需要を削減できる。また、日射熱を建築物に蓄えないため、都市気温の低下も図れ、ヒートアイランド対策の1つとして位置付けられている。近年は、可視光線に対する反射率を据え置いたまま、日射の半分を占める近赤外線に対する反射率のみを向上させることによって、さまざまな色の高反射率塗料が開発されている。[参照元に戻る]



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