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発表・掲載日:2011/04/26

金属触媒を使わないグラフェン空気極を用いたリチウム-空気電池

-低コストで安定な空気極触媒-

ポイント

  • 貴金属や金属酸化物の触媒を使わずグラフェンのみの空気極を作製
  • グラフェン空気極は酸化されにくく、50サイクルの充放電でも安定
  • 白金を20 wt%含むカーボンブラックの空気極に近い高い酸素還元活性

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】エネルギー界面技術研究グループ 周 豪慎 研究グループ長、劉 銀珠 研究員は、貴金属や金属酸化物の触媒を使わず、グラフェンだけを空気極に用いた新型リチウム-空気電池を開発した。

 従来のリチウム-空気電池の空気極は、貴金属や金属酸化物の触媒などを原料とし、複雑なプロセスにより作られている。今回、そのような触媒を一切含まないグラフェン空気極を用いて「金属リチウム/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/グラフェン空気極」という構造のリチウム-空気電池を開発した。このグラフェン空気極は、白金(Pt)を20 wt%含むカーボンブラックからなる空気極に近い酸素還元活性を持っている。開発したリチウム-空気電池を0.5 mA/cm2の電流で50回程度繰り返し充放電しても電位がほとんど劣化せず、安定した繰り返し充放電が可能であった。

 この研究成果は、2011年3月25日に米国の化学学術誌ACS Nano電子版に掲載された。

図1
図1 グラフェンだけからなる空気極を用いたリチウム-空気電池の構造図(左)。 グラフェンによる酸素還元のイメージ図(中)。グラフェン空気極を用いたリチウム-空気電池の0.5 mA/cm2における充放電サイクル曲線(右)。

開発の社会的背景

 近年、化石燃料の消費に伴う二酸化炭素排出量の増加や原油価格の激しい変動などを背景に、自動車のエネルギー源をガソリンや軽油から電気エネルギーへ転換する技術開発が注目されている。電気自動車の実用化は進みつつあり、長距離走行のために蓄電池であるリチウムイオン電池の大容量化や高エネルギー密度化が求められている。しかし、現状のリチウムイオン電池では、電池容量に制約があり長距離走行が困難である。そこで、理論上、リチウムイオン電池よりも大容量で高いエネルギー密度を持つリチウム-空気電池が電気自動車用の次世代電池として注目され、実用化を目指した研究が活発に行われている。

研究の経緯

 産総研 エネルギー技術研究部門では、次世代「リチウムイオン電池」の実用化を目指して、電極材料をナノ構造化することで大出力化が期待できることを示してきた(2005年1月18日2007年11月19日2008年8月27日 産総研プレス発表)。また、ハイブリッド電解液を用いて、電気自動車用として大幅なエネルギー密度の向上が期待されるリチウム-空気電池(2009年2月24日産総研プレス発表)の研究開発を行ってきた。

研究の内容

 これまで産総研が開発してきたハイブリッド電解液を用いるリチウム-空気電池では、触媒を固定した空気極を使用している。その空気極は、高温焼結によって作製された貴金属や金属酸化物などの超微粒子触媒と土台として高い比表面積を持つ炭素材料を接着剤のバインダーなどで混合した触媒層と、撥水処理した空気拡散層から構成され、その作製プロセスは非常に複雑である。

 今回、グラフェンがO2+2H2O+4e- → 4OH-のように空気中の酸素を還元する触媒効果を持つことを新たに見いだした。この発見を基に、グラフェンを空気極とし、金属リチウムの負極、ハイブリッド電解液(有機電解液/固体電解質/水溶性電解液)と組み合わせて「金属リチウム/有機電解液/固体電解質/水溶性電解液/グラフェン空気極」という構造を持つリチウム-空気電池を開発した。グラフェン空気極の性能を確認するため、グラフェン、従来型の燃料電池で使われているPtを20 wt%含むカーボンブラック、アセチレンブラック、の各種炭素材料からなる空気極を用いたリチウム-空気電池を作製し、その放電電圧の比較をした(図2)。今回開発したグラフェン空気極がアルカリ性水溶液において、数十時間の放電後もPtを20 wt%含むカーボンブラック空気極に近い触媒活性を持つことが確認できた。さらに、水素を4 %含んだアルゴン雰囲気で熱処理したグラフェンを空気極として、同じ構造のリチウム-空気電池を作製した。図3に示すように空気中で0.5 mA/cm2の電流で50回程度繰り返し充放電しても、充電電位と放電電位には大きな変化が見られず、安定な充放電サイクル特性を持つことが確認できた。

図2
図2 グラフェン、Ptを20 wt%を含むカーボンブラック、アセチレンブラック、それぞれを空気極としたリチウム-空気電池の放電時におけるセル電圧の時間変化

図3
図3 グラフェン、熱処理したグラフェン、アセチレンブラック、それぞれを空気極としたリチウム-空気電池充放電時の繰り返しサイクルに伴う電池セル電圧の変化。
写真はシート状のグラフェンの透過電子顕微鏡像(黄枠内は電子線の回折パターン)。

今後の予定

 安価かつ安定な触媒としてグラフェンを用いて、酸性条件における酸素還元触媒活性、さらに表面を修飾したグラフェンやカーボンナノチューブの触媒活性も視野に入れつつ研究開発を進める予定である。

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
エネルギー技術研究部門 エネルギー界面技術グループ
研究グループ長 周 豪慎 E-mail:周連絡先

エネルギー技術研究部門
研究部門長 長谷川 裕夫 E-mail:長谷川連絡先


用語の説明

◆触媒
化学反応に関与して、反応速度を高めたり反応選択性を変えたりできる材料。触媒自体は化学反応で消費されない。[参照元に戻る]
◆グラフェン
グラフェンは、鉛筆の芯にも使われる黒鉛の単層部分からなる2次元のシート状物質で、炭素原子が蜂の巣状に六角形のネットワークを形成している。[参照元に戻る]
◆リチウム-空気電池
金属リチウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質として、構成した電池。リチウムは金属のうち最もイオンになりやすくこれを負極として用いると、正極との電位差が大きく、高い電圧が得られる。また原子の大きさが小さいため質量あたりの電気容量が大きくなる。正極の活物質である酸素は電池セルに含める必要がないため、理論上リチウムイオン電池よりも大きな容量を期待でき、自動車用電池として研究されている。[参照元に戻る]
◆リチウムイオン電池
現行の電池の中で最も高い作動電圧(3~4 V)を有し、コバルト酸リチウムに代表される遷移金属酸化物を正極、黒鉛系炭素材料を負極として、非水系電解液を構成材料とした電池。充電時に正極から負極へ、放電時に負極から正極へリチウムイオンが移動することにより電池として作動する。1990年代初めに実用化され、電池体積あるいは重量当たりに取り出せるエネルギー(エネルギー密度)が他の電池系に比べ格段に大きいことから、携帯電話、ノートPCなどのモバイル機器の電源として必要不可欠なものとなっている。生産は主として日本の電池メーカーが行っているが、韓国、中国などの海外メーカーの追い上げも激しい分野となっている。[参照元に戻る]
◆ハイブリッド電解液
電解液として、負極側に有機電解液、正極側に水性電解液、また、負極側有機電解液と正極側水性電解液の間にリチウムイオンだけを通す固体電解質セパレーター(分離壁)を設置する構造を持つ電解液である。[参照元に戻る]
◆アセチレンブラック
カーボンブラックの一種である、アセチレンという炭化水素の熱分解によって製造されている。導電性が優れているため、電池の電極に導電助剤として使われている。[参照元に戻る]

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