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発表・掲載日:2008/12/26

ミトコンドリアのタンパク質に新説

-バクテリアとの違い、鮮明に-

ポイント

  • これまで100種類以上あると考えられてきたミトコンドリア β型外膜タンパク質の数が、実際は6種類程度しかないことをつきとめた。
  • ミトコンドリア タンパク質の全体像を見直す必要性を指摘した。
  • ミトコンドリアの異常は、癌や糖尿病などさまざまな疾患を引き起こし、これらの病気の根本原因解明にも重要な関わりを持つ。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報工学研究センター 【研究センター長 浅井 潔】配列解析チーム 研究チーム長 ポール ホートン、今井 賢一郎 産総研特別研究員、分子機能計算チーム マイケル グロミハ主任研究員らは、データベースに存在する各種生物のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の遺伝子配列を解析した結果、これまで100種類以上の外膜タンパク質が存在すると考えられてきたが、わずか6種類程度しか存在しないことをつきとめた。

 これまで、ミトコンドリアには、その祖先とされるバクテリア同様、100種類以上のβ型外膜タンパク質が存在すると考えられていたが、現在明らかになっているすべてのミトコンドリア タンパク質のアミノ酸配列を解析した結果、わずか6種類程度しかないことがわかった。本研究によりミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類は、これまでの予想と大きく異なることがわかり、ミトコンドリア タンパク質の全体像を見直す必要性が出てきた。

 本研究成果は、2008年12月26日に米科学誌“Cell”に掲載される。Cell誌は、“Nature“、“Science”と共に三大有名誌であるが、理論的な研究論文が載ることは極めて異例である。

図1
ミトコンドリアは、生化学的、分子生物学的性質の大部分がバクテリアに類似

研究の背景

 ミトコンドリアは、二重の細胞膜(外膜、内膜)で囲まれ、環状のDNAを持っているなど、生化学的、分子生物学的性質において、バクテリアとの類似点が多いことから、好気性バクテリアがミトコンドリアの祖先だと考えられている。したがって、ミトコンドリアとバクテリアのもつタンパク質の全体像もおおよそ似ていると予想されてきた。特に、β型外膜タンパク質と呼ばれる外膜に存在するタンパク質は、バクテリア同様、100種類以上存在すると予想されていた。

 現時点で確認されているミトコンドリアβ型外膜タンパク質はわずか5種類しかなく、確認されていないものが数多く存在すると予想される。しかし、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質を調べる実験は難しく、新たに発見することは困難である。また、どのようにして外膜に組み込まれるのかなど解明されていない部分が多い。そのため、共通する特徴はまったく見つかっておらず、同定するための手がかりも非常に少なかった。

 この状況を打破するきっかけを与えたのは、Kutikらの論文である (Cell, March 2008)。Kutikらは、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質が外膜に組み込まれる際に重要な8つのアミノ酸残基で特徴づけられる共通のアミノ酸配列を発見し、βシグナルと名付けた。βシグナルの発見は、コンピュータを使った未知のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の探索を可能とした。

研究の経緯

 Kutikらがβシグナルについて指摘したのは、現在明らかになっている5種類のミトコンドリアβ型外膜タンパク質のうち、4種類であった。そこで、産総研のホートンらは、まず、Kutikらが解析していなかったミトコンドリアβ型外膜タンパク質Mmm2のアミノ酸配列の解析を行い、Mmm2もβシグナルを持つことを確認した。これにより、βシグナルが既知の5種のミトコンドリアβ型外膜タンパク質すべてに共通することが確認できた。そこで、データベース上に存在する生物のすべてのミトコンドリア タンパク質のアミノ酸配列を対象に、新規のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の探索を行った。

研究の内容

 Kutikらは既知の5種類のミトコンドリアβ型外膜タンパク質のうち、4種類でしかβシグナルの存在を指摘していなかった。そこで、残る1つであるMmm2がβシグナルをもつかどうかを確かめるべく、多くの生物についてMmm2のアミノ酸配列の解析を行った。

 その結果、Mmm2も他の4種類と同様、あらゆる生物種の間でβシグナルの配列パターンが共通であり、生物が進化しても変化することなく配列が保存されていることがわかった。これにより、現在わかっているすべてのミトコンドリアβ型外膜タンパク質がβシグナルという共通の特徴を持つことを確認できた。

 そこで、βシグナルを用い、データベースに存在する各種生物のミトコンドリア タンパク質すべてを対象に探索を行った。その結果、新しいミトコンドリアβ型外膜タンパク質の候補としてUth1を発見した。Uth1は、ミトコンドリア外膜に存在するとの実験報告があるだけで、詳細はわかっていない。現在、実験的に確認中であるが、もし、β型外膜タンパク質なら6番目のミトコンドリアβ型外膜タンパク質となる。

 しかし、何よりも重要なのは、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質に共通する特徴をもとに現在知られているすべてのミトコンドリア タンパク質(9000個以上)に対して網羅的な探索を行ったにもかかわらず、これまで明らかになっている5種以外に、新規の候補が一つしか見つからなかったことである。以前の予想では、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質の数は、100種類以上あると言われていた。しかし、実際は、6種類程度しかないということを本研究結果は示している。この結果により、バクテリアと似ていると考えられていたミトコンドリアのタンパク質の全体像自体も見直す必要性が出てきたのである(下図)。

図2
ミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類に関するこれまでの予想と本研究による解析結果

 ミトコンドリアは生体のエネルギー分子の合成や、アポトーシスなど重要な生命現象に係わっている。またミトコンドリアの異常は、癌や糖尿病などさまざまな疾患を引き起こすことが分かってきている。その原因を解明するには、ミトコンドリアというシステムを動かすタンパク質の理解が不可欠である。それらの機能は、ミトコンドリア内で様々なタンパク質が複雑に関係し合うことで引き起こされるが、未だに不明な部分が多い。本研究によって、これまで100種類以上も存在すると思われたミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類を1桁台に減らし、ミトコンドリア タンパク質の全体像を見なおす必要性を指摘できたことは、今後のミトコンドリアの理解に向けて大きな意味を持つ。

今後の予定

 本研究で得られたMmm2とUth1についての配列解析結果については、現在、名古屋大学の遠藤斗志也教授の研究室により、確認実験が行なわれている。Mmm2に関しては、その機能はほとんど不明であり、今回の確認実験を機にその機能解明の手がかりがつかめるかもしれない

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
生命情報工学研究センター 配列解析チーム
研究チーム長  ポール ホートン
〒135-0064 東京都江東区青海2-42  臨海副都心センター別館
TEL:03-3599-8080 FAX:03-3599-8081 E-mail:mail

用語の説明

◆ミトコンドリア
動物、植物と酵母などの真核生物細胞に含まれる細胞内小器官。二重の生体膜に包まれている。酸素呼吸などの重要な機能を司る。[参照元に戻る]
◆膜タンパク質
タンパク質は水溶性タンパク質と膜タンパク質に分類される。膜タンパク質は細胞やミトコンドリアなどを囲む生体膜を貫通するタンパク質。[参照元に戻る]
◆β型膜タンパク質
膜タンパク質は構造の特徴により、α型とβ型膜タンパク質に分類される。膜タンパク質の大半はα型であるが、バクテリア、ミトコンドリア、葉緑体の外膜にはβ型膜タンパク質が存在する。[参照元に戻る]
◆好気性バクテリア
生育において酸素を必要とするか、または利用できるバクテリア。[参照元に戻る]
◆βシグナル
ミトコンドリアβ型外膜タンパク質が外膜に組み込まれる際に重要な共通のアミノ酸配列 。[参照元に戻る]
◆Mmm2
ミトコンドリアβ型外膜タンパク質のひとつ。ミトコンドリアの形態維持に関わるとの報告があるが、その機能はよくわかっていない。[参照元に戻る]
◆Uth1
ミトコンドリアに存在するタンパク質。外膜に存在するという実験報告がある。また、マイトファジー(ミトコンドリアを液胞に輸送し、分解するミトコンドリア分解システム)に関与しているとの報告もある。[参照元に戻る]
◆アポトーシス
プログラムされた細胞死。多細胞生物の細胞に備わった、役割を終えた細胞や生存すればかえって有害となる細胞自身が「自殺」する現象。アポトーシスは発生と癌抑制において中心的な役割を担っている。[参照元に戻る]



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