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発表・掲載日:2008/10/10

首都圏直下に潜むプレートの断片と地震発生

-首都圏直下に100km四方の断片(関東フラグメント)を確認-


概要

 関東地域の地震の震源データ、メカニズム解析、地震波トモグラフィーなどを3次元的に解析し、首都圏直下の約40 km -100kmの深さに厚さ約25kmで、 100 km x100kmの大きさのプレート断片(関東フラグメントと命名)が存在することを突き止めました。関東フラグメントは地震の起こり方や地震波の伝わる速度などが太平洋プレートによく似ています。この関東フラグメントは太平洋プレートの折れ曲がり、および海嶺(かいれい:海底山脈)の沈み込みに伴って、200-300万年前に太平洋プレートの一部が首都圏直下ではがれて取り残されたものと推定しました。その過程およびほかのプレートとの接触・熱構造によって、現在の火山や活断層の分布、関東平野の地形発達も大局的に説明可能です。さらに「地震の巣」といわれる活発な地震発生集中域や首都圏直下型大地震(例:1855年安政江戸地震)などが従来のモデルよりも合理的に説明できます。


詳細

 首都圏を抱く関東平野は火山フロントと太平洋に挟まれた日本列島最大の平野で、日本の全人口の約1/4が住んでいます。東京(江戸)は、江戸幕府成立以降の約400年間、1703年元禄(げんろく)地震、1855年安政江戸地震、1923年大正関東地震(関東大震災、死者行方不明 10万5千人)などにより大きな地震被害を受けてきました。また、関東平野では普段から有感地震が多く発生しており日本列島の中でも最も地震活動が活発な地域ともいえるでしょう。

 では、なぜ首都圏では地震が多いのでしょうか? それは南東方約300kmの海底に、地球の表面を覆う約20のプレートのうち3つが接触する「三重会合点」が存在するからだと考えられています。南からは伊豆ー小笠原諸島をのせたフィリッピン海プレートが、東からは太平洋プレートが、関東平野をのせたユーラシアプレートの下に沈み込んでいます。前2者のプレートは普段は陸のユーラシアプレートを地下に引きずり込みますが、陸のユーラシアプレートは長年蓄積されたひずみに耐えられなくなり、ときおり(数10-400 年程度)跳ね返って大きな地震が発生します。

図1

図1 3枚のプレートの会合点(三重点)周辺の地形。地形は鉛直方向に約4倍誇張されています。フィリッピン海プレートは西北西に向かって移動し、駿河トラフと相模トラフで本州の下に潜り込むとともに、関東平野南部をいくぶん隆起させている。 また、伊豆-小笠原弧をのせている部分はいくぶん浮力があり、富士山の北で本州と衝突し、周辺地域を大きく変形させています。一方、古くて冷たい太平洋プレートは北西に移動し、日本海溝で本州の下に、伊豆海溝沿いでフィリッピン海プレートの下に沈み込んでいます。図の右側には太平洋プレート上に複数の海山がみられ、一部は現在も沈み込んでいます。われわれはこれらの海山列が太平洋プレート上部の破断やユーラシアプレートの関東平野周辺の変形に寄与してきたと解釈しました。

 ほかのプレートの下に沈み込んだプレートを「スラブ」と いいます。そのスラブの上面で大地震は発生します。われわれの研究グループは独立行政法人防災科学技術研究所および気象庁の保有する約30万個の地震データを3次元可視化システム上で調べました。特に地震波の伝わる速度の違いを利用して、X線CTスキャンで頭部を透視するように、地下の構造を可視化しました。(3次元イメージを示したアニメーションは以下のサイトからご覧ください。
(http://depremraporu.com/kantofragment/download.html

 その結果、首都圏直下の約40km-100kmの範囲に横たわっている厚さ約25km、幅約100kmの独立した岩盤ブロックの存在を突き止めました。これまでは、このブロックは南から沈み込んだフィリッピン海プレートの先端と解釈されていました。今回、地震波速度や微小地震分布、地震を起こす圧力のかかり具合などから、このブロックが太平洋プレートと同じ性質を持つことがわかりました。東から沈み込む太平洋プレートの破片が関東平野直下に横たわっていると解釈し、「関東フラグメント(Kanto fragment)」と名付けました。太平洋プレート上の海底には海嶺(かいれい)が多く存在し、それらが日本列島に沈み込んでいます。われわれは、約200~300万年前に大きな2つの海嶺(かいれい)が同時に沈み込もうとしたため、抵抗が大きくなり太平洋プレートの一部が破断したのではないかと推定しました。現在、関東フラグメントはフィリッピン海プレートと太平洋プレートに地下深くで挟み込まれています。

図2

図2 従来のプレートモデル(左)とここで提案する新しいプレートモデル(右)。それぞれの等深度線と数字はプレート上面の深さを表します。


図3

図3 フィリッピン海プレートと太平洋プレートに挟み込まれる関東フラグメントの透視図。北東から南西を望む。プレート(スラブ)正面 に引かれた線は等深線とその深さ(km)。 ▲は活火山。火山は太平洋プレートの上面の深さ約120-140kmの位置とほぼ一致する。右図は左図の拡大版で、点は個々の地震に対応し、 深さごとに着色しています。関東フラグメント上面では線状の地震の分布が観測され、ユーラシアプレートとの擦り合う方向(相対運動の方向)を示しています。

 われわれの提案した「関東フラグメント」は首都圏直下で頻発している深い地震の源にもなっています。関東平野でふだん感じる有感地震の大半は「地震の巣」といわれる特定の地震発生域から生じています。例えば、2005年夏に東京に震度5の揺れをもたらしたマグニチュード6の地震もその1つです。「地震の巣」はもとより、江戸直下で発生した1855 年安政江戸地震(マグニチュード7.0-7.3)もこの関東フラグメントが関係した地震であったと推定しています。プレート境界型地震は「海溝型地震」とも言われるように通常は海域で発生します。しかし、上述のように関東では陸域直下で発生することになります。また、3枚のプレートに加え、関東フラグメントを1枚余計に挟むことに よりプレートどうしの接触面が増え、 東北や伊豆以西などほかのプレート境界部分よりも地震が多く発生することになります。このような沈み込むプレートの断片化現象は世界のほかの地域にも存在する可能性があります。今回の発見は日本の密な地震観測網のおかげではないかと考えられます。

図4
図4 プレート構造の模式断面図と被害地震の想定図。従来のモデル(上)と我々の新しいモデル(下)

図5
図5 1885年以降のプレート境界型地震の震源の分布と関東フラグメントとの関係。関東地域だけがプレート境界型地震が陸域直下で発生することになります。

 なお、われわれのモデルも1つの仮説です。地球科学ではモデルの検証は難しい問題です。地下数10kmの構造をじかにみることはできないので、現在の技術では実証することは基本的に不可能です。ただし、この新しいモデルでは、従来複雑な説明を要した現象が比較的すっきりと説明できます。地震発生の仕組みの解明と地震災害軽減に少しでも貢献できればと思います。

謝辞:地震の解析には独立行政法人防災科学技術研究所、気象庁の地震カタログを使用させて頂きました。また、東北大学地震・噴火予知研究観測センターの長谷川 昭名誉教授、中島淳一助教には地震波トモグラフィー解析に関してご教示頂きました。

 なお、論文は10月6日付けネイチャー・ジオサイエンス電子版に掲載されました。

 Toda, S., R. S. Stein, S. H. Kirby, and S. B. Bozkurt, A slab fragment wedged under Tokyo and its tectonic and seismic implications, Nature Geoscience, doi:10.1038/ngeo318, November 2008.

問い合わせ

(研究担当者)
独立行政法人 産業技術総合研究所
活断層研究センター
遠田 晋次
E-mail:遠田連絡先




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