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発表・掲載日:2005/08/11

神経細胞成長抑制因子の調製技術及び諸因子の高感度検出法を開発

-神経疾患治療に向けて加速する技術-

ポイント

  • 脳神経疾患治療における神経栄養因子(BDNF)が注目されてきたがその機能変異の研究は進んでいなかった。
  • BDNFの一塩基多型(SNP)の研究を通して、逆に神経細胞の成長を抑制するBDNFの変異体(変異体BDNF)を見いだし、このリコンビナント蛋白質の大量調製技術を開発した。
  • このリコンビナント蛋白質を用いて神経細胞の成長にかかわるドラッグのスクリーニングに道を拓くと期待される。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) セルエンジニアリング研究部門【部門長 湯元 昇】は、神経疾患治療の鍵をにぎる神経栄養因子(BDNF)の変異体の生化学的な大量調製に成功し、これが本来の神経栄養因子とは逆の活性があることを見いだした。この技術によって、神経栄養因子活性に重要なドラッグのスクリーニングのスピードを大幅に速めることができると期待される。この変異体の増加は我々の神経疾患の病因のひとつと考えられる。そこで、この変異体を高感度にかつ定量的に測定できる酵素免疫測定法(ELISA技術を開発した。この検出法は神経疾患診断法の一つとして応用が可能と考えられる。

 また、この研究成果は、平成17年7月26日から28日に開催された日本神経科学学会で発表した。

コントロール
画像1
正常型BDNF
画像2
変異型BDNF
画像3
前脳基底野コリン作動性神経細胞に対する変異型BDNFの効果
正常型BDNFを添加した群に比べて変異型BDNFを添加した群の著しい神経突起の減少が観察される。


研究の背景

 神経栄養因子(BDNF)は神経回路形成と神経機能発達に不可欠な神経細胞の成長を促進する重要な脳内の蛋白質であり、まだその方法が確立されていない神経疾患治療に応用できる蛋白質として注目されている。

研究の経緯

 我々はBDNFの一塩基多型(SNP)が我々の神経機能にどのような影響を与えるかを研究してきた(2003, Cell)。そのなかで神経細胞の成長を抑制するBDNFのSNPが見出されたことがこの研究のきっかけとなった。しかしBDNFをはじめとする成長因子は構造的に活性体を得ることが困難であったため、その活性調節機能、大量調製方法の開発が十分でなく、神経疾患治療への応用への道は十分には拓かれていなかった。

研究の内容

 我々は、BDNFの一塩基多型(SNP)の研究を通して、逆に神経細胞の成長を抑制するBDNFの変異体(変異体BDNF)を見出し、このリコンビナント蛋白質の大量調製技術を開発した。変異体BDNFはアルツハイマー病脳で脱落する前脳基底野コリン作動性 ニューロン神経突起変性を起こすこと、BDNFに配列がほぼ一致する蛋白質proBDNFが生体脳に存在することを明らかにした。proBDNFの増加は神経疾患病因のひとつと予想される。我々はproBDNFを高感度にかつ定量的に測定できる酵素免疫測定法(ELISA)も同時に開発した。

今後の予定

 変異体BDNFのリコンビナント蛋白質を用いて神経変性疾患に対する薬物のスクリーニングに活用し、開発した酵素免疫測定法(ELISA)を用いて神経疾患進行の予防と診断に活用していきたい。

用語の説明

◆神経栄養因子(BDNF)
神経栄養因子BDNFは神経細胞の生存・成長・シナプスの機能亢進といった神経細胞の成長を一生にわたって調節する神経系の液性蛋白質であり、神経疾患治療に応用できる蛋白質として注目されている。[参照元に戻る]
◆スクリーニング
数十万種あると言われるタンパク質や化学物質の中から医薬品等の候補など産業的に有用な物質を高度に選別する技術[参照元に戻る]
◆酵素免疫測定法(ELISA
測定したい物質(被検物質)に特異的に反応する抗体1を固相化したマイクロプレートに、測定したい物質、測定したい物質(被検物質)に特異的に反応する酵素標識抗体2を加え、その酵素活性を吸光光度法で測定して被検物質の濃度を決定する方法。[参照元に戻る]
◆一塩基多型(SNP)
我々のDNA配列は、平均数百塩基に一個の頻度で、各人で異なることが最近わかってきた。これを一塩基多型SNP (スニップ:Single Nucleotide Polymorphism) と呼ぶ。 例として、AさんBさんのSNPを赤色青色で示した

Aさん TCATTGGCTGACACTTCGAACACGTGATAGAAGAGCTGT

Bさん TCATTGGCTGACACTTCGAACACATGATAGAAGAGCTGT

この配列の違いは、例えば、クスリの効き方や病気になりやすさに個人差を生み出し、個人別治療法の開発に応用できると期待されている。しかし、SNPが蛋白質機能にどのように影響しているかについてはまだ研究が進展していない。[参照元に戻る]
◆リコンビナント蛋白質
相同的組み換え、部位特異的を含むさまざまなDNAの組み換え技術と大腸菌等による蛋白質の発現系をもちいて調製した蛋白質のこと。[参照元に戻る]
◆前脳基底野コリン作動性
アルツハイマー病脳において選択的脱落が見られ、記憶や学習機能において中心的役割を果すアセチルコリンを神経伝達物質とする神経細胞で、新皮質の全ての部位に投射し認知や知覚処理のメカニズムに関係する。[参照元に戻る]
◆ニューロン
脳に存在する細胞で生体のあらゆる情報処理をつかさどる。各ニューロンは他の多数のニューロンから信号を受け取りそれらを統合して次のニューロンに伝達する。[参照元に戻る]
◆神経突起変性
神経疾患や神経機能異常に伴う神経突起の機能的変性[参照元に戻る]
◆proBDNF
脳由来神経栄養因子BDNFの前躯体蛋白質である。プロセッシング酵素によって成熟型BDNFに変換される。[参照元に戻る]

関連情報

2003年1月24日発表(プレス・リリース)
一塩基遺伝子変異(SNP)した神経特異的蛋白質機能の可視化に成功
 -ごくわずかの遺伝子の違いが脳の機能に影響を及ぼすことを解明-

2003.04 Vol.3 No.4(AIST Today)
SNP配列から脳機能を理解する [ PDF:411KB ]

問い合わせ先

小島 正己(こじま まさみ)
小島連絡先
セルエンジニアリング研究部門


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