産業技術総合研究所における独立行政法人等個人情報保護法に基づく処分に係る審査基準

制定 平成17年4月1日 第13580-20050322-001号

独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号。以下「法」という。)に基づく独立行政法人産業技術総合研究所(以下「研究所」という。)の処分に係る行政手続法(平成5年法律第88号)第5条第1項の規定による審査基準については次のとおりとする。

 

第1章 開示・不開示

第1 開示・不開示の審査基準

法第18条の規定に基づく開示または不開示の決定は、以下により行う。

(開示請求に対する措置)
第十八条 独立行政法人等は、開示請求に係る保有個人情報の全部又は一部を開示するときは、その旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨、開示する保有個人情報の利用目的及び開示の実施に関し政令で定める事項を書面により通知しなければならない。ただし、第四条第二号又は第三号に該当する場合における当該利用目的については、この限りでない。
2 独立行政法人等は、開示請求に係る保有個人情報の全部を開示しないとき(前条の規定により開示請求を拒否するとき、及び開示請求に係る保有個人情報を保有していないときを含む。)は、開示をしない旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。

1 開示決定

開示請求があったときは、不開示決定に該当する場合を除き、法第14条に基づき、原則として開示請求のあった保有個人情報を開示しなければならない。

(保有個人情報の開示義務)

第十四条 独立行政法人等は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない。(以下略)

開示する旨の決定(法第18条第1項)は、次のいずれかに該当する場合に行う。

   a 開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれていない場合

   b 開示請求に係る保有個人情報の一部に不開示情報が含まれている場合であって、当該不開示情報情報の部分を容易に区分して除くこと(部分開示)ができるとき。ただし、この場合には、不開示情報の部分を除いて開示する。

   c 開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれる場合であっても、公益上特に当該保有個人情報を開示する必要があると認めるとき

2 不開示決定

開示をしない旨の決定(法第18条第2項)は、次のいずれかに該当する場合に行う。

a 開示請求に必要としている手続き等に不備がある以下の場合。ただし、当該不備を補正することができると認められる場合は、原則として、開示請求者に補正を求めるものとする。

・ 法第13条第1項の開示請求書の記載事項が記載されていない場合

・ 同項第2号の保有個人情報を特定するに足りる事項の記載が不十分であるため開示請求に係る保有個人情報が特定されていない場合、

・ 開示請求書が日本語以外の言語で記載されている場合(氏名、住所等の固有名詞又は外国語表記の法人文書の名称等であって、本来外国語で記載される場合を除く。)

・ 手数料を納付していない場合

・ 本人確認書類が提示又は提出されていない場合等。

b 開示請求の対象となる保有個人情報に該当しない以下の場合

・ 開示請求に係る保有個人情報を研究所が保有していない場合又は開示請求の対象が法第2条第3項に規定する保有個人情報に該当しない場合

・ 当該保有個人情報に関して開示請求者が開示請求権を有しない場合

・ 他の法令による開示の方法が本法のものと同一であり他の法令による開示の実施との調整措置に該当する場合

・ 開示請求の対象が法第45条に該当し本法における開示請求等の適用除外(保有個人情報の保有に関する特例)に該当するとき

   c 開示請求に係る保有個人情報すべてが不開示情報に該当し、すべて不開示とする場合

d 不開示情報が記録されている部分を、それ以外の部分と容易に区分して除くこと(部分開示)ができない場合

   e 保有個人情報の存否を明らかにするだけで不開示情報を開示することになる場合

f 権利濫用に関する一般法理が適用されるとき

3 判断基準について

前2項の判断に当たっては、それぞれ以下の基準による。

・ 本法の開示請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、「第2 開示請求対象の保有個人情報該当性に関する基準」

・ 開示請求に係る保有個人情報が不開示情報に該当するかどうかの判断は、「第3 不開示情報該当性に関する基準」

・ 部分開示をすべき場合に該当するかどうかの判断は、「第4 部分開示に関する基準」

・ 公益上の理由による裁量的開示を行うかどうかの判断は、「第5 公益上の理由による裁量的開示に関する基準」

・ 保有個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否すべき場合に該当するかどうかの判断は、「第6 保有個人情報の存否に関する情報に関する基準」

なお、権利濫用はどのような場合に適用されるかは、開示請求の様態や開示請求に応じた場合の研究所の業務への支障及び国民一般の被る不利益等を勘案し、社会通念上妥当と認められる範囲を超えるものであるか否かを個別に判断することになる。研究所の事務を混乱、停滞させることを目的とする等開示請求の本来の目的を著しく逸脱したような開示請求は、権利の濫用に当たる。

第2 開示請求対象の保有個人情報該当性に関する基準

本法の開示請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

1 保有個人情報(法2条第3項)についての基準

(定義)

第二条

2 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

3 この法律において「保有個人情報」とは、独立行政法人等の役員又は職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該独立行政法人等の役員又は職員が組織的に利用するものとして、当該独立行政法人等が保有しているものをいう。ただし、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(平成十三年法律第百四十号)第二条第二項に規定する法人文書(同項第三号に掲げるものを含む。以下単に「法人文書」という。)に記録されているものに限る。

(1)「個人情報」(第2項)

a 「個人に関する情報」

「個人に関する情報」とは、個人に関連する情報全般を意味する。したがって、個人の属性、人格や私生活に関する情報に限らず、個人の知的創作物に関する情報、組織体の構成員としての個人の活動に関する情報も含まれる。

(参考1)個人に関する情報の具体例

個人に関する情報の一部を例示すれば、次のとおりである。

○ 内心の状況・・思想、信教、信条、趣味

○ 心身の状況・・体力、健康状況、身体的特徴、病歴

○ 生活、家庭、身分関係・・氏名、住所、本籍、家族関係

○ 社会経済活動・・学歴、犯罪歴、職業、資格、所属団体、財産額、所得、金融取引関係

(参考2)個人情報の外延について

「個人情報」は、通例は特定の個人を識別可能とする情報と当該個人の属性情報からなる「一まとまり」の情報の集合物である(このため、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる」としている。)。この「一まとまり」の範囲は、情報の内容、事務の性質等から総合的に判断されるべきものである。どこまでが開示請求者に関する保有個人情報となるのかは、形式的には決め難い。本法では、開示請求を行う者は、開示請求に係る保有個人情報を特定するに足りる事項を開示請求書に記載することとしており(法第13条第1項第2号)、また、独立行政法人等は、補正の参考となる情報を提供するよう努めることとしている(同条第3項)。このような請求手続の過程において、対象となる保有個人情報の範囲が特定されることが、円滑な運用を図る上で不可欠である。

b 「生存する個人に関する情報」

個人情報は、生存する個人に関する情報であり、死者に関する情報は含まない。

しかし、死者に関する情報であっても、当該情報が遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には、当該遺族等が自己を本人とする個人情報として開示請求等を行うことができる。

例えば、死者の財産を遺族が相続した場合、当該相続財産に関する情報は、相続人である遺族の個人情報であるといえる。また、子供が事故で死亡した場合、近親者固有の慰謝料請求権が発生する場合には、当該事故に関する報告書は、当該近親者自身の個人情報と解することができる。

c 「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」

「その他の記述等」とは、氏名、生年月日以外の記述又は個人別に付された番号その他の符号等をいう。映像、音声も、それによって特定の個人を識別することができる限りにおいて「その他の記述等」に含まれる。

「特定の個人を識別することができる」とは、当該情報の本人である特定の個人が誰であるかを識別することができることをいう。

d 「他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」

当該情報のみでは特定の個人を識別できない場合であっても、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる場合は対象とすることが適当である。

照合の対象となる「他の情報」には、その保有者が他の機関である場合も含まれ、また、公知の情報や、図書館等の公共施設で一般に入手可能なものなど一般人が通常入手し得る情報が含まれる。特別の調査をすれば入手し得るかもしれないような情報については、通例は「他の情報」には含めて考える必要はない。しかし、事案によっては、個人の権利利益を保護する観点からは、個人情報の取扱いに当たって、より慎重な判断が求められる場合がある。

(2)「保有個人情報」(第3項)

保有個人情報の要件は、基本的に情報公開法における法人文書の定義と整合性がとれるようにしているものである。

a 「独立行政法人等の役員又は職員が職務上作成し、又は取得した個人情報であって、当該独立行政法人等の役員又は職員が組織的に利用するものとして、当該独立行政法人等が保有しているもの」

「独立行政法人等の役員又は職員が職務上作成し、又は取得した」とは、研究所の役職員が当該役職員に割り当てられた仕事を遂行する立場で、すなわち公的立場において作成し、又は取得したことをいう。

「組織的に利用する」とは、作成又は取得に関与した役職員個人の段階のものではなく、組織の業務上必要な情報として利用されることをいう。

「独立行政法人等が保有している」とは、情報公開法における法人文書の保有の概念と同様である。すなわち、当該個人情報について事実上支配している(当該個人情報の利用、提供、廃棄等の取扱いについて判断する権限を有している)状態をいう。したがって、例えば、個人情報が記録されている媒体を書庫等で保管し、又は倉庫業者等をして保管させている場合は含まれる。また、個人情報の電子計算機処理を民間委託しても、研究所が当該情報の利用、提供、廃棄等について決定する権限を留保している場合には、研究所が保有する情報といえる。一方、民間事業者が管理するデータベースを利用する場合は含まれない。

b 「法人文書(略)に記録されているものに限る。」

個人情報には、紙等の媒体に記録されたものと、そうでないもの(口頭によるもの等)があるが、文書、図画、電磁的記録等何らかの媒体に記録されていることを前提とし、法人文書に記録されているものに限っている。したがって、役職員が単に記憶しているにすぎない個人情報は、保有個人情報に該当しない。また、情報公開法は、官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの等を法人文書の定義から除いているが、これらに記録されている個人情報も、保有個人情報に該当しないことになる。

2 開示請求権(法第12条)についての基準

(開示請求権)

第十二条 何人も、この法律の定めるところにより、独立行政法人等に対し、当該独立行政法人等の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。

2 未成年者又は成年被後見人の法定代理人は、本人に代わって前項の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)をすることができる。

(1)開示請求権(第1項)

a 「何人も」とは、日本国民のみならず外国人も含むすべての自然人である。

b 研究所が保有していない保有個人情報の開示請求が行われれば、開示請求に係る保有個人情報を保有していないことを理由として開示しない旨の決定を行うことになる。

c 「本人」とは、法第2条第5項において、「個人情報によって識別される特定の個人をいう。」としており、同条第2項において、「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの」としており、同項で定義される個人情報により識別されることとなる特定の個人を「本人」と定義している。

d 開示請求をすることができる情報は、「自己を本人とする保有個人情報」のみである。

したがって、自己以外の者に関する情報については、たとえ配偶者に関するものであっても開示を請求することはできない。

(2) 未成年者又は成年被後見人の法定代理人の開示請求権(第2項)

a 「未成年者又は成年被後見人の法定代理人」

「未成年者」とは、年齢が成年すなわち満二十年に達しない者をいう(民法第3条)。

「成年被後見人」とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者であって、法定の手続に伴い家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者をいう(民法第七条)。

「法定代理人」とは、民法上の法定代理人である。民法上、本人の信任に基づかないで生ずる代理を法定代理といい、その代理人を法定代理人という。

「未成年者の法定代理人」は、第一次的には親権者(民法第818条等)、第二次的には未成年後見人(民法第838条第1号等)である。

「成年被後見人の法定代理人」は、成年後見人である(民法第843条等)。

b 「本人に代わって前項の規定による開示の請求(略)をすることができる。」

法定代理人は任意代理とは異なり、本人の利益のために代理行為を行う義務はあっても、代理行為に本人の同意を要しない。本法の開示請求も、本人の意思と独立して行うことができる。

「本人に代わって」とは、法定代理人が未成年者又は成年被後見人である本人の保有個人情報について開示請求をすることができるということであり、本人が開示請求権を行使していない場合にのみ法定代理人が請求権を行使できるということではない。

なお、法定代理人に開示することにより本人の権利利益を侵害するおそれがあるときは、法第14条第1号により不開示とすることができる。

未成年者の法定代理人の開示請求権行使については、父母による親権の共同行使は要件とはせず、父母それぞれが単独で開示請求権を行使することができる。

3 他の法令による開示の実施との調整(法第25条)についての基準

(他の法令による開示の実施との調整)

第二十五条 独立行政法人等は、他の法令の規定により、開示請求者に対し開示請求に係る保有個人情報が前条第一項本文に規定する方法と同一の方法で開示することとされている場合(開示の期間が定められている場合にあっては、当該期間内に限る。)には、同項本文の規定にかかわらず、当該保有個人情報については、当該同一の方法による開示を行わない。ただし、当該他の法令の規定に一定の場合には開示をしない旨の定めがあるときは、この限りでない。

2 他の法令の規定に定める開示の方法が縦覧であるときは、当該縦覧を前条第一項本文の閲覧とみなして、前項の規定を適用する。

(1)他の法令による開示の実施との調整(第1項)

a 「他の法令の規定により」

「他の法令」とは、法律、政令、府省令その他行政機関の命令(会計検査院規則、人事院規則等)をいう。本条の調整の対象となる規定は、何人にも開示することとされているものであって、ただし書により一定の場合には開示をしない旨の定めがないものに限られている。府省令その他行政機関の命令については、委任命令であると実施命令(執行命令)であるとを問わない。

b 「開示請求者に対し」

本法では、法定代理人による開示請求も認めていることから(法第12条第2項)、本人のほか、法定代理人も含む。

c 「前条第一項本文に規定する方法と同一の方法で開示することとされている場合」

「前条第一項本文に規定する方法と同一の方法」については、他の法令の規定による開示の方法が法第24条第1項の本文の開示の方法と同一である場合に限って、当該同一の方法による開示をしないこととするものである。

例えば、他の法令において閲覧の方法による開示が規定されている場合、閲覧の方法による開示については、本法では行わず、他の法令によることとなり、写しの交付の方法による開示については、本法に基づき、開示請求を行い、開示決定があれば、法第24条第3項の規定により写しの交付の方法を申し出ることができる。

他の法令の規定により開示を行う主体は、開示請求に係る行政機関、他の行政機関あるいは独立行政法人等かを問わない。

d 「(開示の期間が定められている場合にあっては、当該期間内に限る。)」

他の法令における開示規定の中には、開示の期間が定められているものがあり、この場合には、当該期間内に限り、本条の調整措置の対象となるものである。

すなわち、当該期間内においては、他の法令の規定に定める開示の方法が法第24条第1項本文に規定する開示の方法と同一の方法である場合には、本法では、当該同一の方法による開示を行わない。当該期間の前後においては、他の法令の規定に定めがないことから、本法に基づく開示請求を行い、不開示情報に該当するか否かの判断を経た上で、開示決定があった場合には、希望する開示の実施の方法を申し出ることが可能である。

e 「ただし、当該他の法令の規定に一定の場合には開示をしない旨の定めがあるときは、この限りでない。」

他の法令の規定において、開示請求者に保有個人情報を開示することとされてはいるものの、例えば、「正当な理由がなければこれを拒むことができない」、「おそれがあるときは、閲覧を拒むことができる」とされているなど、一定の場合に開示をしない旨の定めがあるときは、本法に基づき開示請求した場合の開示の範囲と必ずしも同一にはならないことから、本条の調整措置の対象とはならない。

f 保有個人情報の内容が免許証、許可証等の書類に記載され、これらが本人に交付されるべきものとされている場合

例えば、運転免許証のように、他の法令の規定により、保有個人情報の内容が免許証、許可証等の書類に記載され、これらが本人に交付されるべきものとされている場合は、開示請求者が免許証等の交付の方法による開示の実施を申し出ても、研究所は、これらの方法による開示の実施をすることを要しない。免許証等の交付は、当該免許証等の交付について定めた法令に規定された手続によって行われるのが当然だからである。

(2)他の法令に定める開示の方法が縦覧であるとき(第2項)

「縦覧」は、本法第24条第1項本文において、開示の方法として規定されていないが、個々人に保有個人情報の内容が明らかに分かるように示し、見せるものであり、閲覧と同視される開示の形態であることから、他の法令の規定に定める開示の方法が縦覧であるときは、法第24条第1項本文の閲覧とみなして、本条では、閲覧の方法による開示は行わないこととするものである。

4 適用除外(法第45条)についての基準

(保有個人情報の保有に関する特例)
第四十五条 
保有個人情報(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第五条に規定する不開示情報を専ら記録する法人文書に記録されているものに限る。)のうち、まだ分類その他の整理が行われていないもので、同一の利用目的に係るものが著しく大量にあるためその中から特定の保有個人情報を検索することが著しく困難であるものは、前章(第四節を除く。)の規定の適用については、独立行政法人等に保有されていないものとみなす。

同一の利用目的に係る定型的な保有個人情報を分類・整理しないまま著しく大量に保有することがある。これらについて、仮に本法の開示請求があっても、開示請求に係る保有個人情報を検索することが現実的には困難な状態にある場合がある。

このように、職員がその中から特定の保有個人情報を検索することが著しく困難な状態にある保有個人情報は、第四章の規定の適用について、研究所に保有されていないものとみなすこととしている。これらはいずれ整理されることが予定されているものであり、整理された段階で第四章の規定が適用されることになる。

本項の対象となる保有個人情報を「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第五条に規定する不開示情報を専ら記録する法人文書に記録されているものに限る」としているのは、保有個人情報が記録されている法人文書を情報公開法に基づき開示請求をされた場合、「不開示情報を専ら記録する法人文書に記録されているもの」であれば当該法人文書は不開示となるものであり、本法とのバランスを考慮しているためである。

第3 不開示情報該当性に関する基準

   開示請求に係る保有個人情報が不開示情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。なお、当該判断は、開示・不開示の決定を行う時点における状況に基づき行う。

(参考) 情報公開法の不開示情報との異同

情報公開法においては、開示請求者に開示されるという仕組みでありながら、不開示情報に該当するか否かの判断は開示請求の対象である法人文書が国民一般に公開されることを前提としている。

これに対し、本法においては、不開示情報に該当するか否かの判断は特定の開示請求者に対する開示を前提としている。それに伴い、研究所は開示請求者が当該開示請求の対象となる保有個人情報の本人であるか否かを確認する。ただし、ある特定者に関する保有個人情報が、同時に、他者の個人情報、法人に関する情報等としての意味内容を有することは少なくない。このような考え方から法第14条においては、保有個人情報の本人の利益を保護しようとする特別の不開示情報といえる同条第1号を除き、基本的に情報公開法第5条各号との整合性を保持している。

1 個人に関する情報(法第14条第1号、第2号)についての基準

第十四条(個人に関する情報)

一 開示請求者(第十二条第二項の規定により未成年者又は成年被後見人の法定代理人が本人に代わって開示請求をする場合にあっては、当該本人をいう。次号及び第三号、次条第二項並びに第二十三条第一項において同じ。)の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報

二 開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

イ 法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報

ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報

ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第二項に規定する特定独立行政法人及び日本郵政公社の役員及び職員を除く。)、独立行政法人等の役員及び職員、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人の役員及び職員をいう。)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分

(1)本人の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報(第1号)

本法の開示請求権制度は、本人に対して当該本人に関する保有個人情報を開示するものであり、通例は本人の権利利益を害するおそれはないものと考えられる。しかし、開示が必ずしも本人の利益にならない場合もあり得ることから、そのような場合には不開示とすることができるようにする必要がある。

例えば、不治の病気に関する情報であって、本人がそれを知ることにより、精神状態、病状の進行状態等から、開示が病状等の悪化をもたらすことが予見される場合もあり得る。また、児童虐待の場合のように、虐待の告発等の児童本人に関する情報を親が法定代理人として開示請求する場合も想定される。

本号が適用される局面は、開示することが深刻な問題を引き起こす可能性がある場合であり、その運用に当たっては、具体的ケースに即して慎重に判断する必要がある。

(2)開示請求者以外の個人に関する情報(第2号本文)

開示請求に係る個人情報の中に、本人以外の第三者(個人)の情報が含まれている場合があるが、第三者に関する情報を本人に開示することにより当該第三者の権利利益が損なわれるおそれがあることから、第三者に関する情報は不開示情報としている。

なお、「個人に関する情報」には、生存する個人に関する情報のほか、死亡した個人に関する情報も含まれる。

a 「(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)」

「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、個人に関する情報に含まれるが、当該事業に関する情報であるので、法人等に関する情報と同様の要件により不開示情報該当性を判断することが適当であることから、本号の個人に関する情報から除外している。

b 「開示請求者以外の特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの」

保有する個人に関する情報の中には、匿名の作文や、無記名の個人の著作物のように、個人の人格と密接に関連したり、公にすれば財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがあると認められるものがある。特定の個人を識別できない場合であっても、当該個人の同意なしに第三者に流通させることが、なお個人の権利利益を害するおそれがある場合について、不開示情報として規定している。

(3)「法令の規定により又は慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている情報」(第2号イ)

開示請求者以外の個人に関する情報であっても、あえて不開示情報として保護する必要性に乏しいものについては、ただし書により、本号の不開示情報から除いている。

a 「法令の規定により開示請求者が知ることができ」

「法令の規定」には、何人に対しても等しく当該情報を開示すること又は公にすることを定めている規定のほか、特定の範囲の者に限り当該情報を開示することを定めている規定が含まれる。

b 「慣行として開示請求者が知ることができ」

慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく、事実上の慣習として知ることができ、又は知ることが予定されていることで足りる。

当該保有個人情報と同種の情報について、本人が知ることができた事例があったとしても、それが個別的な事例にとどまる限り「慣行として」には当たらない。また、情報公開法第5条第1号イの「慣行として公にされ」る情報も、慣行として開示請求者が知ることができる情報に含まれる。

「慣行として開示請求者が知ることができ」る情報に該当するものとしては、請求者の家族構成に関する情報(妻子の名前や年齢、職業等)などが考えられる。

c 「知ることが予定されている」

実際には知らされていないが、将来的に知らされることが予定されている場合である。

「予定」とは将来知らされることが具体的に決定されていることは要しないが、当該情報の性質、利用目的等に照らして通例知らされるべきものと考えられるものである。

例えば、複数の者が利害関係を有する事項についての調査結果を当事者に通知することが予定されている場合において、開示請求の時点においては、未だ調査結果の分析中であったため通知されていなかった場合が想定される。

(4)「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」(第2号ロ)

不開示情報該当性の判断に当たっては、開示することの利益と開示されないことの利益との調和を図ることが重要であり、開示請求者以外の個人に関する情報について、開示することにより害されるおそれがある開示請求者以外の個人の権利利益よりも、開示請求者を含む人の生命、健康等の保護の必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないこととするものである。現実に、人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性の高い場合も含まれる。

この比較衡量に当たっては、個人の権利利益にも様々なものがあり、また、人の生命、健康、生活又は財産の保護にも、保護すべき権利利益の程度に差があることから、個別の事案に応じた慎重な検討が必要である。

(5)公務員等の職務の遂行に関する情報(第2号ハ)

公務員等の職務の遂行に関する情報は、情報公開法第5条第1号ハにおいて、不開示情報から除外されている。本法も、情報公開法と同様に、不開示情報から除外している。

a 「当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき」

「職務の遂行に係る情報」とは、公務員等が行政機関その他の国の機関、独立行政法人、地方公共団体又は地方独立行政法人の一員として、その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する。例えば、苦情相談に対する担当職員の応対内容に関する情報などがこれに含まれる。

b 「当該情報のうち,当該公務員などの職および当該職務遂行の内容にかかわる部分」

公務員等の職務の遂行に関する情報には、当該公務員等の氏名、職名及び職務遂行の内容によって構成されるものが少なくない。このうち、その職名と職務遂行の内容については、情報公開法では、諸活動を説明する責務が全うされるようにする観点から不開示としないこととされているが、本法においても、同様に不開示とはしないこととしている。

c 公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名の取扱い

公務員等の職務遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の氏名については、開示した場合、公務員等の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから、私人の場合と同様に個人情報として保護に値すると位置付けた上で、本号イに該当する場合には例外的に開示される。

人事異動の官報への掲載その他行政機関等により職名と氏名を公表する慣行がある場合や、行政機関等により作成され、又は行政機関等が公にする意思をもって(あるいは公にされることを前提に)提供した情報を基に作成され、現に一般に販売されている職員録に職と氏名が掲載されている場合には、「慣行として開示請求者が知ることができ、又は知ることが予定されている」場合に該当する。

2 法人等に関する情報(法第14条第3号)についての基準

第十四条(法人等に関する情報)

三 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下この号において「法人等」という。)に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報を除く。

イ 開示することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

ロ 独立行政法人等の要請を受けて、開示しないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの

(1)「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下この号において「法人等」という。)に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報」(第3号本文)

a 「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下この号において「法人等」という。)に関する情報」

株式会社等の商法上の会社、財団法人、社団法人、学校法人、宗教法人等の民間の法人のほか、政治団体、外国法人や法人ではないが権利能力なき社団等も含まれる。

一方、国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人については、その公的性格にかんがみ、法人等とは異なる開示・不開示の基準を適用すべきであるので、本号から除き、その事務又は事業に係る不開示情報は、第5号において規定している。

「法人その他の団体に関する情報」は、法人等の組織や事業に関する情報のほか、法人等の権利利益に関する情報等法人等と関連性を有する情報を指す。

なお、法人等の構成員に関する情報は、法人等に関する情報であると同時に、構成員各個人に関する情報でもある。

b 「開示請求者以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報」

「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は、事業に関する情報であるので、aに掲げた法人等に関する情報と同様の要件により、事業を営む上での正当な利益等について不開示情報該当性を判断する。

(2)「ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、開示することが必要であると認められる情報を除く。」(第3号ただし書)

本号のただし書は、第2号ロと同様に、当該情報を開示することにより保護される人の生命、健康等の利益と、これを開示しないことによって保護される法人等又は事業を営む個人の権利利益を比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないとするものである。

現実に人の生命、健康等に被害が発生している場合に限らず、将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれる。なお、法人等又は事業を営む個人の事業活動と人の生命、健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくとも、現実に人の生命、健康等に対する被害等の発生が予想される場合もあり得る。

(3)「開示することにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(第3号イ)

a 「権利」

信教の自由、集会・結社の自由、学問の自由、財産権等、法的保護に値する権利一切を含む。

b 「競争上の地位」

正当な利益の例の一つであるが、法人等又は事業を営む個人の公正な競争関係における地位を指す。

c 「その他正当な利益」

ノウハウ、信用等法人等又は事業を営む個人の運営上の地位を広く含むものである。

     なお、例えば、市場に出ている商品の品質・性状は秘匿すべき合理的理由がないことから、消費者センター等の試験結果が開示されることにより当該商品の製造会社が不利益を被ることがあっても、それは「正当な利益」を侵害するとはいえない。

d 「害するおそれ」

「害するおそれ」があるかどうかの判断に当たっては、法人等又は事業を営む個人には様々な種類、性格のものがあり、その権利利益にも様々のものがあるので、法人等又は事業を営む個人の性格や権利利益の内容、性質等に応じ、当該法人等又は事業を営む個人の権利の保護の必要性、当該法人等又は事業を営む個人と行政との関係等を十分考慮して適切に判断する必要がある。なお、この「おそれ」の判断に当たっては、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が求められる。

(4)「独立行政法人等の要請を受けて、開示しないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」(第3号ロ)

法人等又は事業を営む個人から開示しないとの条件の下に任意に提供された情報については、当該条件が合理的なものと認められる限り、不開示情報として保護しようとするものであり、情報提供者の信頼と期待を基本的に保護しようとするものである。なお、研究所の情報収集能力の保護は、別途、第5号等の不開示情報の規定によって判断されることとなる。

a 「独立行政法人等の要請を受けて、開示しないとの条件で任意に提供されたもの」

研究所の要請を受けずに、法人等又は事業を営む個人から提供された情報は含まれない。ただし、研究所の要請を受けずに、法人等又は事業を営む個人から提供申出があった情報であっても、提供に先立ち、法人等又は事業を営む個人の側から開示しないとの条件が提示され、研究所が合理的理由があるとしてこれを受諾した上で提供を受けた場合には、含まれる。

「要請」には、法令に基づく報告又は提出の命令は含まないが、研究所が報告徴収権限を有する場合でも、当該権限を行使することなく、任意に提出を求めた場合は含まれる。

「開示しない」とは、本法や情報公開法に基づく開示請求に対して開示しないことはもちろんであるが、第三者に対して当該情報を提供しないという意味である。また、特定の目的以外の目的には利用しないとの条件で情報の提供を受ける場合も通常含まれる。

「条件」については、研究所の側から開示しないとの条件で情報を提供して欲しいと申し入れる場合も、法人等又は事業を営む個人の側から研究所の要請があったので情報は提供するが開示しないでほしいと申し出る場合も含まれるが、いずれにしても双方の合意により成立するものである。

また、条件を設ける方法については、黙示的なものを排除するものではない。

b 「法人等又は個人における通例として開示しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」

「法人等又は個人における通例」とは、当該法人等又は個人の個別具体的な事情ではなく、当該法人等又は個人が属する業界における通常の取扱いを意味し、当該法人等又は個人において開示することとしていないことだけでは足りない。

開示しないとの条件を付すことの合理性の判断に当たっては、情報の性質に応じ、当該情報の提供当時の諸般の事情を考慮して判断するが、必要に応じ、その後の変化も考慮するものである。開示しないとの条件が付されていても、現に当該情報が公になっていたり、同種の情報が既に開示されているなどの事情がある場合には、本号には当たらない。

3 審議、検討等に関する情報(法第14条第4号)についての基準

第十四条(審議、検討等に関する情報)

四 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、開示することにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

a 「国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間」

「国の機関」とは、国会、内閣、裁判所及び会計検査院(これらに属する機関を含む。)を指し、これらの機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人について、それぞれの機関の内部又は他の機関との相互間の意味である。

b 「審議、検討又は協議に関する情報」

国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の事務及び事業について意思決定が行われる場合に、その決定に至るまでの過程においては、例えば、具体的な意思決定の前段階としての政策等の選択肢に関する自由討議のようなものから、一定の責任者の段階での意思統一を図るための協議や打合せ、決裁を前提とした説明や検討、審議会等又は行政機関が開催する有識者等を交えた研究会等における審議や検討など、様々な審議、検討及び協議が行われており、これら各段階において行われる審議、検討又は協議に関連して作成され、又は取得された情報をいう。

c 「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」

開示することにより、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合を想定するもので、適正な意思決定手続の確保を保護法益としている。

d 「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」

未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報などを開示することにより、誤解や憶測を招き、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある場合をいう。適正な意思決定を行うことそのものを保護するのではなく、情報が開示されることによる国民への不当な影響が生じないようにするものである。

e 「特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」

尚早な時期に、あるいは事実関係の確認が不十分なままで情報を開示することにより、不正な投機を助長するなどして、特定の者に不当に利益を与え又は不利益を及ぼす場合を想定したもので、dと同様に、事務及び事業の公正な遂行を図るとともに、国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。

f 「不当に」

「不当に」とは、審議、検討等途中の段階の情報を開示することの必要性を考慮してもなお、適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度のものであることを意味する。予想される支障が「不当」なものかどうかの判断は、当該情報の性質に照らし、開示することによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される。

g 意思決定後の取扱い等

審議、検討等に関する情報については、意思決定が行われた後は、一般的には、当該意思決定そのものに影響が及ぶことはなくなることから、本号の不開示情報に該当する場合は少なくなるものと考えられるが、当該意思決定が全体として一つの政策決定の一部の構成要素であったり、当該意思決定を前提として次の意思決定が行われる等審議、検討等の過程が重層的、連続的な場合には、当該意思決定後であっても、政策全体の意思決定又は次の意思決定に関して本号に該当するかどうかの検討が行われるものであることに注意する必要がある。また、審議、検討等が終了し、意思決定が行われた後であっても、当該審議、検討等に関する情報が開示されると、国民の間に混乱を生じさせたり、将来予定されている同種の審議、検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがあれば、本号に該当し得る。

4 事務又は事業に関する情報(第14条第5号)についての基準

第十四条(事務又は事業に関する情報)

五 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

イ 国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ

ロ 犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ

ハ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ

ニ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ

ホ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ

ヘ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ

ト 国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害する恐れ

(1)「次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(第5号本文)

a 「次に掲げるおそれ」

「次に掲げるおそれ」としてイからトまでに掲げたものは、共通的にみられる事務又は事業に関する情報であって、その性質上、開示することによって、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる典型的な支障を挙げたものである。これらの事務又は事業の他にも、同種のものが反復されるような性質の事務又は事業であって、ある個別の事務又は事業に関する情報を開示すると、将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの等、「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があり得る。

b 「当該事務又は事業の性質上」

当該事務又は事業の本質的な性格、具体的には、当該事務又は事業の目的、その目的達成のための手法等に照らして、その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうかを判断するものである。

c 「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」

本規定は研究所の恣意的判断を許容する趣旨ではなく、各規定の要件の該当性は客観的に判断される必要があり、また、事務又は事業の根拠となる規定・趣旨に照らし、個人の権利利益を保護する観点からの開示の必要性等の種々の利益を衡量した上で「適正な遂行」といえるものであることが求められる。

「支障」の程度は、名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性でなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。

(2)国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ(第5号イ)

a 「国の安全が害されるおそれ」

「国の安全」とは、国家の構成要素である国土、国民及び統治体制が害されることなく平和で平穏な状態に保たれていること、すなわち、国としての基本的な秩序が平穏に維持されている状態をいう。具体的には、直接侵略及び間接侵略に対し、独立と平和が守られていること、国民の生命が国外からの脅威等から保護されていること、国の存立基盤としての基本的な政治方式及び経済・社会秩序の安定が保たれていることなどが考えられる。

「国の安全が害されるおそれ」とは、これらの国の重大な利益に対する侵害のおそれ(当該重大な利益を維持するための手段の有効性を阻害され、国の安全が害されるおそれがあると考えられる場合を含む。)をいう。

b 「他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ」

「他国若しくは国際機関」(我が国が承認していない地域、政府機関その他これに準ずるもの(各国の中央銀行等)、外国の地方政府又は国際会議その他国際協調の枠組みに係る組織(アジア太平洋経済協力、国際刑事警察機構等)の事務局等を含む。以下「他国等」という。)との間で、相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に支障を及ぼすようなおそれをいう。例えば、開示することにより、他国等との取決め又は国際慣行に反することとなる、他国等の意思に一方的に反することとなる、他国等に不当に不利益を与えることとなるなど、我が国との関係に悪影響を及ぼすおそれがある情報が該当すると考えられる。

c 「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」

他国等との現在進行中の又は将来予想される交渉において、我が国が望むような交渉成果が得られなくなる、我が国の交渉上の地位が低下するなどのおそれをいう。例えば、交渉(過去のものを含む。)に関する情報であって、開示することにより、現在進行中の又は将来予想される交渉に関して我が国が採ろうとしている立場が明らかにされ、又は具体的に推測されることになり、交渉上の不利益を被るおそれがある情報が該当すると考えられる。

(3)犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ(第5号ロ)

a 「犯罪の予防、鎮圧又は捜査」

「犯罪の予防、鎮圧又は捜査」は、「公共の安全と秩序の維持」の例示である。

「犯罪の予防」とは、犯罪の発生を未然に防止することをいう。

「犯罪の鎮圧」とは、犯罪が正に発生しようとするのを未然に防止したり、犯罪が発生した後において、その拡大を防止し、又は終息させることをいう。

「犯罪の捜査」とは、捜査機関が犯罪があると思料するときに、公訴の提起などのために犯人及び証拠を発見・収集・保全することをいう。犯罪捜査の権限を有する者は、刑事訴訟法によれば、検察官、検察事務官及び司法警察職員であり、司法警察職員には、一般司法警察職員と特別司法警察職員がある。

b 「公共の安全と秩序の維持」

「公共の安全と秩序の維持」とは、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持及び刑の執行に代表される刑事法の執行を中心としたものを意味する。

刑事訴訟法以外の特別法により、臨検、捜索、差押え、告発等が規定され、犯罪の予防・捜査とも関連し、刑事司法手続に準ずるものと考えられる犯則事件の調査、独占禁止法違反の調査等や、犯罪の予防・捜査に密接に関連する破壊的団体(無差別大量殺人行為を行った団体を含む。)の規制、暴力団員による不当な行為の防止、つきまとい等の規制、強制退去手続に関する情報であって、開示することにより、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるものは、本号ロに含まれる。

また、開示することにより、テロ等の人の生命、身体、財産等への不法な侵害や、特定の建造物への不法な侵入・破壊を招くおそれがあるなど、犯罪を誘発し、又は犯罪の実行を容易にするおそれがある情報や、被疑者・被告人の留置・勾留に関する施設保安に支障を生ずるおそれのある情報も本号ロに含まれる。

(4)「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」(第5号ハ)

a 「監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収」

「監査」とは、主として監察的見地から、事務又は事業の執行及び財産の状況の正否を調べることをいう。

「検査」とは、法令の執行確保、会計経理の適正確保、物資の規格、等級の証明等のために帳簿書類その他の物件等を調べることをいう。

「取締り」とは、行政上の目的による一定の行為の禁止、又は制限について適法、適正な状態を確保することをいう。

「試験」とは、人の知識、能力等又は物の性能等を試すことをいう。

「租税」には、国税、地方税がある。「賦課」とは、国又は地方公共団体が、公租公課を特定の人に割り当てて負担させることをいい、「徴収」とは、国又は地方公共団体が、租税その他の収入金を取ることをいう。

b 「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」

上記の監査等は、いずれも事実を正確に把握し、その事実に基づいて評価、判断を加えて、一定の決定を伴うことがある事務である。

これらの事務に関する情報の中には、例えば、監査等の対象、実施時期、調査事項等の詳細な情報のように、事前に開示すると、適正かつ公正な評価や判断の前提となる事実の把握が困難となったり、行政客体における法令違反行為又は法令違反には至らないまでも妥当性を欠く行為を助長したり、巧妙に行うことにより隠蔽をするなどのおそれがあるものがあり、このような情報については、不開示とするものである。また、事後であっても、例えば、監査内容等の詳細についてこれを開示すると今後の法規制を免れる方法を示唆することになるようなものは該当し得ると考えられる。

(5)「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」(第5号ニ)

a 「契約、交渉又は争訟」

「契約」とは、相手方との意思表示の合致により法律行為を成立させることをいう。

「交渉」とは、当事者が、対等の立場において相互の利害関係事項に関し一定の結論を得るために協議、調整などの折衝を行うことをいう。

「争訟」とは、訴えを起して争うことをいう。訴訟、行政不服審査法に基づく不服申立てその他の法令に基づく不服申立てがある。

b 「国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」

国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が一方の当事者となる上記の契約等においては、自己の意思により又は訴訟手続上、相手方と対等な立場で遂行する必要があり、当事者としての利益を保護する必要がある。

これらの契約等に関する情報の中には、例えば、用地取得等の交渉方針や用地買収計画案を開示することにより、適正な額での契約が困難になり財産上の利益が損なわれたり、交渉や争訟等の対処方針等を開示することにより、当事者として認められるべき地位を不当に害するおそれがあるものがあり、このような情報については、不開示とするものである。

(6)「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」(第5号ホ)

国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う調査研究(ある事柄を調べ、真理を探究すること)の成果については、社会、国民等にあまねく還元することが原則であるが、成果を上げるためには、従事する職員が、その発想、創意工夫等を最大限に発揮できるようにすることも重要である。

調査研究に係る事務に関する情報の中には、例えば、(1)知的所有権に関する情報、調査研究の途中段階の情報などで、一定の期日以前に開示することにより成果を適正に広く国民に提供する目的を損ね、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれのあるもの、(2)試行錯誤の段階の情報で、開示することにより、自由な発想、創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ、減退するなど、能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるものがあり、このような情報を不開示とするものである。

(7)「人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(第5号へ)

国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う人事管理(職員の任免、懲戒、給与、研修その他職員の身分や能力等の管理に関すること)に係る事務は、当該機関の組織としての維持の観点から行われ、一定の範囲で当該機関の自律性を有するものである。

人事管理に係る事務に関する情報の中には、例えば、勤務評定や人事異動、昇格等の人事構想等を開示することにより、公正かつ円滑な人事の確保が困難になるおそれがあるものがあり、このような情報を不開示とするものである。

(8)「国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ」(第5号ト)

国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関連する情報については、企業経営という事業の性質上、第3号の法人等に関する情報と同様な考え方で、企業経営上の正当な利益を保護する必要があり、これを害するおそれがあるものを不開示とするものである。ただし、正当な利益の内容については、経営主体、事業の性格、内容等に応じて判断する必要があり、情報の不開示の範囲は第3号の法人等とは当然異なり、より狭いものとなる場合があり得る。

第4 部分開示に関する基準

   開示請求にかかる保有個人情報について、法第15条に基づき部分開示をすべき場合に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(部分開示)

第十五条 独立行政法人等は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合において、不開示情報に該当する部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。

2 開示請求に係る保有個人情報に前条第二号の情報(開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、開示しても、開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。

(1)不開示情報が含まれている場合の部分開示(第1項)

a 「開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合」

開示請求について審査した結果、開示請求に係る保有個人情報に、不開示情報に該当する情報が含まれている場合を意味する。

法第14条では、保有個人情報に全く不開示情報が含まれていない場合の開示義務を定めているが、本項の規定により、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合に、部分的に開示できるか否かの判断を行わなければならない。

b 「容易に区分して除くことができるとき」

・ 当該保有個人情報のどの部分が不開示情報に該当するかという区分けが困難な場合だけでなく、区分けは容易であるがその部分の分離が技術的に困難な場合も部分開示の義務がないことを明らかにしたものである。

「区分」とは、不開示情報に該当する部分とそれ以外の部分とを概念上区分けすることを意味し、「除く」とは、不開示情報に該当する部分を、当該部分の内容が分からないように墨塗り、被覆等を行う等、加工することにより、情報の内容を消滅させることをいう。

・ 保有個人情報に含まれる不開示情報を除くことは、当該保有個人情報が記録されている文書の複写物に墨を塗り再複写するなどして行うことができ、一般的には容易であると考えられる。

一方、録音テープ、ビデオテープ、磁気ディスクに記録された保有個人情報については、区分して除くことの容易性が問題となる。例えば、複数の人の発言が同時に録音されているが、そのうちの一人から開示請求があった場合や、録画されている映像中に開示請求者以外の者が映っている場合などがあり得る。このような場合には、不開示情報を容易に区分して除くことができる範囲で、開示すべき部分を決定することになる。

なお、電磁的記録に記録された保有個人情報については、紙に出力した上で、不開示情報を区分して除いて開示することも考えられる。電磁的記録をそのまま開示することを求められた場合は、不開示情報の部分のみを削除することの技術的可能性等を総合的に判断する必要がある。既存のプログラムでは行えない場合は、「容易に区分して除くことができる」に該当しない。

c 「当該部分を除いた部分につき開示しなければならない」

本項は、義務的に開示すべき範囲を定めているものである。なお、部分開示の実施に当たり、具体的な記述をどのように削除するかについては、本法の目的に沿った合目的的な判断に委ねられている。すなわち、不開示情報の記録部分の全体を完全に黒く塗るか、文字が判読できない程度に被覆するか、当該記録中の主要な部分だけ塗り潰すかなどの方法の選択は、不開示情報を開示した結果とならない範囲内において、当該方法を講ずることの容易さ等を考慮して判断することとなる。その結果、観念的には一まとまりの不開示情報を構成する一部が開示されることになるとしても、実質的に不開示情報が開示されたと認められないのであれば、不開示義務に反するものではない。

なお、情報公開法では、不開示情報を除いた部分に有意な情報が記録されていないと認められるときは、部分開示義務を免除しているが、本法にはそのような規定はない。従って、不開示情報を除いた部分が有意の情報であるか否かを問わずに部分開示する必要がある。

(2)個人識別性の除去による部分開示(第2項)

a 「開示請求に係る保有個人情報に前条第2号の情報(開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。)が含まれている場合」

・ 第1項の規定は、保有個人情報のうち、不開示情報でない部分の開示義務を規定しているが、不開示情報のうち一部を特に削除することにより不開示情報の残りの部分を開示することの根拠規定とはならない。

個人識別情報は、通例は特定の個人を識別可能とする情報と当該個人の属性情報からなる「一まとまり」の情報の集合物であり、他の不開示情報の類型が各号に定められた「おそれ」を生じさせる範囲で不開示情報の大きさを捉えることができるのとは、その範囲の捉え方を異にするものである。このため、第1項の規定だけでは、個人識別情報については全体として不開示となることから、氏名等の部分だけを削除して残りの部分を開示しても個人の権利利益保護の観点から支障が生じないときには、部分開示とするよう、個人識別情報についての特例規定を設けたものである。

・ 「開示請求者以外の特定の個人を識別することができるものに限る。」こととしているのは、「特定の個人を識別することはできないが、開示することにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(法第14条第2号の後半部分)については、特定の個人を識別することとなる記述等の部分を除くことにはならないので、他の不開示情報の類型と同様に不開示情報に該当する部分を除いた部分につき開示することとなるためである。

b 「当該情報のうち、氏名、生年月日その他の開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、開示しても、開示請求者以外の個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるとき」

個人を識別させる要素を除去し誰の情報であるかが分からなくなっても、開示することが不適当であると認められる場合もある。例えば、作文などの個人の人格と密接に関連する情報や、個人の未発表の論文等開示すると個人の権利利益を害するおそれのあるものも想定される。

このため、個人を識別させる部分を除いた部分について、開示しても個人の権利利益を害するおそれのないものに限り、部分開示の規定を適用することとしている。

c 「当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する」

第1項の規定により、部分開示の範囲を決定するに当たっては、個人識別情報のうち、特定の個人を識別することができることとなる記述等は、個人の権利利益を害するおそれがない限り、法第14条第2号に規定する不開示情報ではないものとして取り扱うことになる。したがって、他の不開示情報の規定に該当しない限り、当該部分は開示されることになる。

また、第1項の規定を適用するに当たっては、容易に区分して除くことができるかどうかが要件となるので、個人を識別させる要素とそれ以外の部分とを容易に区分して除くことができない場合は、当該個人に関する情報は全体として不開示となることになる。

 

第5 公益上の理由による裁量的開示に関する基準

公益上の理由による裁量的開示(法第16条)を行うかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(裁量的開示)

第十六条 独立行政法人等は、開示請求に係る保有個人情報に不開示情報が含まれている場合であっても、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示することができる。

法第14条各号の不開示情報に該当する情報であるが、個人の権利利益を保護するため特に必要があると認めるときは、研究所の高度な判断により、開示することができるとしているものである。

法第14条各号においても、当該規定により保護する利益と当該情報を開示することによる利益との比較衡量が行われる場合があるが、本条では、法第14条の規定を適用して不開示となる場合であっても、なお開示する必要性があると認められる場合には、開示することができるとするものである。

 

第6 保有個人情報の存否に関する情報に関する基準

   開示請求に対し、保有個人情報が存在を明らかにしないで当該開示請求を拒否すべき場合(法第17条)に該当するかどうかの判断は、以下により行う。

(保有個人情報の存否に関する情報)

第十七条 開示請求に対し、当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、独立行政法人等は、当該保有個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。

 

a 「当該開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるとき」

開示請求に係る保有個人情報が実際にあるかないかにかかわらず、開示請求された保有個人情報の存否について回答すれば、不開示情報を開示することとなる場合をいう。開示請求に含まれる情報と不開示情報該当性が結合することにより、当該保有個人情報の存否を回答できない場合もある。例えば、犯罪の容疑者等特定の個人を対象とした内偵情報について、本人から開示請求があった場合等が考えられる。 

b 「当該保有個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる」

存否を明らかにしないで拒否することが必要な類型の情報については、常に存否を明らかにしないで拒否することが必要であり、例えば、保有個人情報が存在しない場合に不存在と答えて、保有個人情報が存在する場合にのみ存否を明らかにしないで拒否したのでは、開示請求者に当該保有個人情報の存在を類推させることになる。

 

第2章 訂正・不訂正

第7 訂正・不訂正の審査基準

   法第30条の規定に基づく訂正又は不訂正の決定は、以下により行う。

(訂正請求に対する措置)

第三十条 独立行政法人等は、訂正請求に係る保有個人情報の訂正をするときは、その旨の決定をし、訂正請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。

2 独立行政法人等は、訂正請求に係る保有個人情報の訂正をしないときは、その旨の決定をし、訂正請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。

1 訂正決定

訂正する旨の決定(法第30条第1項)は、次のいずれかの場合に行う。

a 訂正請求に係る請求内容について、保有個人情報の内容が事実でないことが判明し、訂正請求に理由があると認められるとともに当該個人情報の利用目的に照らして、請求どおりに訂正を行う場合。

b 訂正請求に係る請求内容について、その一部の訂正を行う場合。

2 不訂正決定

訂正をしない旨の決定(法第30条第2項)は、次のいずれかの場合に行う。

a 訂正請求に必要としている手続き等に不備がある以下の場合。ただし、当該不備を補正することができると認められる場合は、原則として、訂正請求者に補正を求めるものとする。

・ 法第28条第1項の訂正請求書の記載事項が記載されていない場合

・ 同項第2号の保有個人情報を特定するに足りる事項の記載が不十分であるため訂正請求に係る保有個人情報が特定されていない場合

・ 同項第3号の訂正請求の趣旨及び理由が明確でないため訂正の部分や訂正の内容(追加又は削除を含む)等が明確でない場合

・ 訂正請求書が日本語以外の言語で記載されている場合(氏名、住所等の固有名詞又は外国語表記の行政文書の名称等であって、本来外国語で記載される場合を除く。)

・ 本人確認書類が提示又は提出されていない場合等

b 訂正請求の対象となる保有個人情報に該当しない以下の場合

・ 法に基づく保有個人情報の開示を受けていない場合

・ 開示を受けた日から90日を過ぎている場合

・ 当該保有個人情報に関して訂正請求者が訂正請求権を有しない場合

・ 当該保有個人情報の訂正に関して他の法令により特別の手続きが定められているとき

c 訂正請求に理由があると認められない等の以下の場合

・ 保有個人情報の内容が事実であることが判明し、訂正請求に理由があると認められない場合

・ 判明した事実が、請求時点において実際に記録されていた内容とも、請求の内容とも異なることが判明した場合。ただし、必要な場合は職権で訂正を行うこととする。

・ 保有個人情報の内容が事実であるか否か判明せず、訂正請求に理由があるかどうか明らかでない場合。ただし、必要な場合は、その事実関係が明らかでない旨がわかるように、その旨を注記すること等を行うこととする。

・ 保有個人情報の内容が事実でないことが判明し、訂正請求に理由があると認められるが、当該訂正が利用目的の範囲を超える場合

3 判断基準について

前2項の判断に当たっては、それぞれ以下の基準による。

    ・ 訂正請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、「第8 訂正請求対象の保有個人情報該当性に関する基準」

   ・ 訂正請求に係る保有個人情報が訂正に該当するかどうかの判断は、「第9 訂正情報該当性に関する基準」

 

第8 訂正請求対象の保有個人情報該当性に関する基準

  本法の訂正請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(訂正請求権)

第二十七条 何人も、自己を本人とする保有個人情報(次に掲げるものに限る。第三十六条第一項において同じ。)の内容が事実でないと思料するときは、この法律の定めるところにより、当該保有個人情報を保有する独立行政法人等に対し、当該保有個人情報の訂正(追加又は削除を含む。以下同じ。)を請求することができる。ただし、当該保有個人情報の訂正に関して他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。

一 開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報

二 第二十二条第一項の規定により事案が移送された場合において、行政機関個人情報保護法第二十一条第三項に規定する開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報

三 開示決定に係る保有個人情報であって、第二十五条第一項の他の法令の規定により開示を受けたもの

2 未成年者又は成年被後見人の法定代理人は、本人に代わって前項の規定による訂正の請求(以下「訂正請求」という。)をすることができる。

3 訂正請求は、保有個人情報の開示を受けた日から九十日以内にしなければならない。

(1)訂正請求権(第1項)

a 「自己を本人とする保有個人情報(次に掲げるものに限る。法第36条第1項において同じ。)」

本法の訂正請求権の対象は、自己を本人とする保有個人情報すべてではなく、本法等の開示決定により自己を本人とする保有個人情報として開示を受ける範囲が確定された以下のものに限ることとしている。

・ 開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報(第1号)

本法第18条第1項の開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報をいう。

・ 法第22条第1項の規定により事案が移送された場合において、行政機関個人情報保護法第21条第3項に規定する開示決定に基づき開示を受けた保有個人情報(第2号)

法第22条第1項の規定により事案の移送を受けた行政機関が、行政機関個人情報保護法第21条第3項に規定する開示決定に基づき開示をした保有個人情報をいう。

・ 開示決定に係る保有個人情報であって、法第25条第1項の他の法令の規定により開示を受けたもの(第3号)

本法の開示決定に係るものであれば、他の法令の規定により開示を受けたものであっても、開示を受けた範囲は確定していることから対象にしているものである。

b 「内容が事実でないと思料するとき」

本条は、法第6条の「正確性の確保」の趣旨を実効あらしめようとするものであることから、訂正請求をすることができるのは、「内容が事実でないと思料するとき」に限られる。

なお、訂正請求を行うに当たっては、本人は、請求の「趣旨及び理由」を記載した書面を研究所に提出しなければならない。「訂正請求の趣旨」は、「○○を△△に訂正せよ。」のように、当該請求においてどのような訂正を求めるかについての簡潔な結論であり、「理由」は、それを裏付ける根拠である。「訂正請求の趣旨及び理由」は、請求の内容をなす重要なものであり、その記載は明確かつ具体的である必要がある。

(参考)「評価」に関する情報の取扱いについて

訂正は、保有個人情報の「内容が事実でない」場合に行われるものであり、「評価」に関する情報は訂正請求の対象外である(評価に関する情報についての訂正請求があった場合は、訂正をしない旨の決定をすることとなる。)。本法における訂正請求権制度のねらいは、データ内容の正確性を向上させることにあり、個人情報を保有し、利用している研究所の判断を直接的に是正することにまで及んでいない。なお、評価した行為の有無、評価に用いられたデータ等は事実に当たる。

c 「保有個人情報の訂正(追加又は削除を含む。)」

訂正には、追加、削除を含む。具体的には、情報の誤りを正しくすること、情報が古くなって事実と異なる場合それを新しくすること、情報が不完全である場合に不足している情報を加えること、情報が不要となった場合それを除くことをいう。

d 「ただし、当該保有個人情報の訂正に関して他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。」

保有個人情報の訂正について、他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められているときは、当該手続により同様の目的を達成することができるので、その法律又は命令の定めるところによることとしたものである。当該保有個人情報が個人情報ファイル簿に掲載されている個人情報ファイルに記録されている時は、訂正について他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められている旨を個人情報ファイル簿に掲載し、公表することとしている(法第11条第1項第8号)。

(2)未成年者又は成年被後見人の法定代理人の訂正請求権(第2項)

本人の権利利益の保護の観点から、未成年者及び成年被後見人の法定代理人について代理請求を認めている。

(3)訂正請求の期限(第3項)

保有個人情報は、利用目的の範囲内において日々更新されたり、保存期間の満了により廃棄されることがあることから、制度の安定的な運営の観点から、保有個人情報の開示を受けた日から訂正請求を行うことができる期間を90日としている。

 

第9 訂正情報該当性に関する基準

   訂正請求に係る保有個人情報が訂正情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(保有個人情報の訂正義務)

第二十九条 独立行政法人等は、訂正請求があった場合において、当該訂正請求に理由があると認めるときは、当該訂正請求に係る保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内で、当該保有個人情報の訂正をしなければならない。

a 「当該訂正請求に理由があると認めるとき」

「請求に理由がある」とは、研究所による調査等の結果、請求どおり保有個人情報が事実でないことが判明したときをいう。

なお、評価・判断は個人情報の内容のみで行われるものでなく、様々な要素を総合的に勘案してなされる。したがって、本法における訂正請求の対象は「事実」に止まり、評価・判断には及ばない。

ただし、評価・判断の内容そのものは「事実」に含まれないが、「個人Aが○○と評価・判断された。」、「評価者Bが○○と評価・判断した。」という情報は事実に含まれる。

b 「利用目的の達成に必要な範囲内で、訂正をしなければならない」

訂正請求権制度は、法第6条の「独立行政法人等は、利用目的の達成に必要な範囲内で、保有個人情報が過去又は現在の事実と合致するよう努めなければならない。」とする「正確性の確保」を受けて、本人が関与し得る制度として設けるものであり、本条は法第6条と同様に、利用目的の達成に必要な範囲内での訂正を義務付けるものである。訂正請求に係る保有個人情報の利用目的に照らして、訂正の必要がないときは、訂正する義務はない。

つまり、個人情報は、その利用目的に沿って利用されるとともに、利用目的の達成に必要のない個人情報は、法第3条第2項で保有を制限されている。したがって、利用目的の達成に必要な範囲で正確性が求められる。利用目的によっては、例えば、(1)過去の一定時点の事実のみで足りる場合、(2)現在の事実を必要とする場合、(3)過去の事実と現在の事実の両方を必要とする場合があり得ることから、それぞれの利用目的に応じて、その必要な範囲内で正確性を確保する。

具体例としては、過去の事実を記録することが利用目的であるものについて現在の事実に訂正することを請求するような場合は、訂正する必要がないことが考えられる。

c 調査の結果事実関係が明らかにならなかった場合の対応について

適切な調査等を行ったにもかかわらず、事実関係が明らかにならなかった場合、研究所としては、訂正決定を行うことはできない。ただし、運用上、事実関係が明らかではない旨を追記する等の適切な措置を講じる。

 

第3章 利用停止・不利用停止

 

第10 利用停止・不利用停止の審査基準

   法第39条の規定に基づく利用停止又は不利用停止の決定は、以下により行う。

(利用停止請求に対する措置)

第三十九条 独立行政法人等は、利用停止請求に係る保有個人情報の利用停止をするときは、その旨の決定をし、利用停止請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。

2 独立行政法人等は、利用停止請求に係る保有個人情報の利用停止をしないときは、その旨の決定をし、利用停止請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない。

1 利用停止決定

利用停止をする旨の決定(法第39条第1項)は、以下のいずれかに該当する場合に行う。

a 利用停止請求に係る請求内容について、法第36条第1項各号に規定する事由に該当することが判明し、利用停止請求に理由があると認められるとともに、研究所において個人情報の適正な取扱いを確保するために必要であり、請求どおりに利用停止を行う場合

b 利用停止請求に係る請求内容について、その一部の利用停止を行う場合。

2 不利用停止決定

利用停止をしない旨の決定(法第39条第2項)は、以下のいずれかの場合に行う。

a 利用停止請求に必要としている手続き等に不備がある以下の場合。ただし、当該不備を補正することができると認められる場合は、原則として、利用停止請求者に補正を求めるものとする。

・ 法第37条第1項の利用停止請求書の記載事項が記載されていない場合

・ 同項第2号の保有個人情報を特定するに足りる事項の記載が不十分であるため利用停止請求に係る保有個人情報が特定されていない場合

・ 同項第3号の利用停止請求の趣旨及び理由が明確でないため利用停止の部分や利用停止の内容(消去又は提供の停止を含む)等が明確でない場合

・ 利用停止請求書が日本語以外の言語で記載されている場合(氏名、住所等の固有名詞又は外国語表記の行政文書の名称等であって、本来外国語で記載される場合を除く。)

・ 本人確認書類が提示又は提出されていない場合等。

b 利用停止請求の対象となる保有個人情報に該当しない以下の場合。

・ 法に基づく保有個人情報の開示を受けていない場合

・ 開示を受けた日から90日を過ぎている場合

・ 当該保有個人情報に関して利用停止請求者が利用停止請求権を有しない場合

・ 当該保有個人情報の利用停止に関して他の法令により特別の手続きが定められているとき

c 利用停止の事由に該当しない等の以下の場合

・ 法第36条第1項各号に規定する事由に該当しないことが判明し、利用停止請求に理由があると認められないとき

・ 判明した事実が、法第36条第1項第1号に規定する「適法に取得されたものでない」かどうか判明せず、利用停止請求に理由があるかどうか明らかでない場合。ただし、必要なときは、その事実関係が明らかでない旨がわかるように、その旨を注記すること等を行うこととする。

・ 利用停止をすることにより「当該保有個人情報の利用目的に係る事務の性質上、当該事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるとき」

3 判断基準について

2項の判断に当たっては、それぞれ以下の基準による。

    ・ 利用停止請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、「第11 利用停止請求対象の保有個人情報該当性に関する基準」

    ・ 利用停止請求に係る保有個人情報が利用停止に該当するかどうかの判断は、「第12 利用停止情報該当性に関する基準」

第11 利用停止請求対象の保有個人情報該当性に関する基準

   本法の利用停止請求の対象となる保有個人情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(利用停止請求権)

第三十六条 何人も、自己を本人とする保有個人情報が次の各号のいずれかに該当すると思料するときは、この法律の定めるところにより、当該保有個人情報を保有する独立行政法人等に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、当該保有個人情報の利用の停止、消去又は提供の停止(以下「利用停止」という。)に関して他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。

一 第三条第二項の規定に違反して保有されているとき、第五条の規定に違反して取得されたものであるとき、又は第九条第一項及び第二項の規定に違反して利用されているとき 当該保有個人情報の利用の停止又は消去

二 第九条第一項及び第二項の規定に違反して提供されているとき 当該保有個人情報の提供の停止

2 未成年者又は成年被後見人の法定代理人は、本人に代わって前項の規定による利用停止の請求(以下「利用停止請求」という。)をすることができる。

3 利用停止請求は、保有個人情報の開示を受けた日から九十日以内にしなければならない。

(1)利用停止請求権(第1項)

a 「自己を本人とする保有個人情報が次の各号のいずれかに該当すると思料するときは、(略)当該各号に定める措置を請求することができる。」

利用停止を請求することができるのは、開示を受けた保有個人情報が、適法に取得されたものでない、利用目的の達成に必要な範囲を超えて保有されている、又は所定の事由に該当しないにもかかわらず利用目的以外の目的で利用又は提供されていると思料するときに限られる。

なお、利用停止請求を行うに当たっては、本人は、請求の「趣旨及び理由」を記載した書面を研究所に提出しなければならない。「利用停止請求の趣旨及び理由」(第3号)とは、法第36条第1項第1号又は第2号により求める措置の内容と、その原因となる違反の事実についての簡潔な結論であり、その記載は明確かつ具体的である必要がある。

b 利用の停止又は消去(第1号)

・ 「第三条第二項の規定に違反して保有されているとき」とは、いったん特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を保有している場合をいう。なお、法第3条第3項に違反して、当初の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて利用目的の変更を行っている場合も、本号により利用停止請求の対象となる。

・ 「第五条の規定に違反して取得されたものであるとき」とは、例えば、暴行、脅迫等の手段により取得した場合、個人情報の取得について定めた個別法規に違反して取得した場合等をいう。

・ 「第九条第一項及び第二項の規定に違反して利用されているとき」とは、本法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を利用している場合をいう。

・ 「利用の停止」とは、利用の全面的な停止だけではなく、一部停止を含む。また、「消去」とは、当該保有個人情報の全部又は一部を記録媒体から消し去ることをいう。保有個人情報を匿名化することもこれに含まれる。

c 提供の停止(第2号)

・ 「第九条第一項及び第二項の規定に違反して提供されているとき」とは、本法が許容する限度を超えて利用目的以外の目的で保有個人情報を提供している場合をいう。

・ 「提供の停止」とは、爾後の提供行為を停止することをいう。

・ なお、本号は、既に提供した保有個人情報の回収についてまで求めるものではない。しかし、違法な提供があったことにかんがみ、提供先と連携をとりつつ、個人の権利利益侵害の拡大防止のため、適切な措置を講じる必要がある。

d 「ただし、利用停止に関して他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められているときは、この限りでない。」

当該保有個人情報が個人情報ファイル簿に掲載されている個人情報ファイルに記録されているときは、利用停止について他の法律又はこれに基づく命令の規定により特別の手続が定められている旨を個人情報ファイル簿に掲載し、公表することとしている(法第11条第1項第8号)。

(2)未成年者又は成年被後見人の法定代理人の利用停止請求権(第2項)

本人の権利利益の保護の観点から、未成年者及び成年被後見人の法定代理人について代理請求を認めている。

(3)利用停止請求の期限(第3項)

請求を行う期間を保有個人情報の開示を受けた日から90日としている。たとえ請求期間が徒過したとしても、再度開示請求を行えば利用停止請求をすることが可能である。

 

第12 利用停止情報該当性に関する基準

   利用停止請求に係る保有個人情報が利用停止情報に該当するかどうかの判断は、以下の基準により行う。

(保有個人情報の利用停止義務)

第三十八条 独立行政法人等は、利用停止請求があった場合において、当該利用停止請求に理由があると認めるときは、当該独立行政法人等における個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で、当該利用停止請求に係る保有個人情報の利用停止をしなければならない。ただし、当該保有個人情報の利用停止をすることにより、当該保有個人情報の利用目的に係る事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、この限りでない。

(1)「当該利用停止請求に理由があると認めるとき」

「理由がある」とは、法第36条第1項第1号又は第2号に該当する違反の事実があると認めるときである。その判断は、事実を基に客観的に行われる必要がある。

(2)「当該独立行政法人等における個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で」

「個人情報の適正な取扱いを確保する」とは、法第36条第1項第1号又は第2号に該当する違反状態を是正する意味である。

「必要な限度」とは、例えば、利用停止請求に係る保有個人情報について、そのすべての利用が違反していればすべての利用停止を、一部の利用が違反していれば一部の利用停止を行う必要があるということである。

また、例えば、利用目的外の利用を理由として、本人から保有個人情報の消去を求められた場合、個人情報の適正な取扱いを確保する観点から、当該利用目的外の利用を停止すれば足り、当該保有個人情報を消去する必要はない。仮に、消去してしまうと、本来の利用目的内での利用も不可能となってしまい、適当でない。

(3)「ただし、当該保有個人情報の利用停止をすることにより、当該保有個人情報の利用目的に係る事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、この限りでない。」

利用停止請求に理由があることが判明した場合であっても、利用停止を行うことにより保護される本人の権利利益と、損なわれる公共の利益との比較衡量を行った結果、後者が優るような公共の利益の観点からみて適当でない場合にまで利用停止を行う義務を課すことは適当でない。このため、「当該保有個人情報の利用停止をすることにより、当該保有個人情報の利用目的に係る事務の又は事業性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるとき」は、利用停止を行う義務を負わない。

 

附則

この審査基準は、平成17年4月1日から施行する。