ナノ計測機器の高精度化に向けて
ナノ計測は、暗闇の中、手さぐりで物の形を見定めることと似ています。原子間力顕微鏡(AFM)は、探針(プローブ)を試料表面に弱い力で接触させてなぞり、その形状を二次元走査により画像化します。この場合、プローブの形状や感度により、ナノメートル(nm)スケールの形態を認識できる限界が決まります。この限界を上げるためには、高感度な測定系と鋭いプローブの開発が必要とされ、形状測定精度や再現性を上げるためには、プローブの形状を考慮し、測定時の摩耗を減らし、走査精度を上げる必要があります。
私たちは、AFM計測の信頼性を上げるために、耐摩耗性の高いダイヤモンドプローブ利用技術の開発、標準ナノスケール試料を利用した走査系の校正、AFMプローブの形状特性などを系統的に取り扱う方法を研究し、その成果を、国際学会や国際標準化団体を通じて発信し、機器の性能向上のための利用を推進しています[1]。
高信頼性ナノ計測機器の開発と公開
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図1 (a) 線幅6 nmを実現したグレーティング (b) 凹凸の両対応型プローブキャラクタライザー (c) AFMプローブの特性曲線 |
AFM用の標準試料の作製法としては、ナノ厚の多層膜断面を選択エッチングする方法を開発し、線幅6 nm、線間隔3 nmまでの微細パターンの作製技術を確立しました[2][3]。図1(a)は線幅6 nm、線間隔6 nmのパターンを作製した例です。この技術を利用して、プローブの深さ計測に対する応答特性を評価できる標準試料を開発し、AFMプローブキャラクタライザーと称しています。
図1(b)では、6 nmのナイフエッジの他に、10 nmから100 nmまでのトレンチパターンが形成されています。このパターンを利用すると、AFM計測で最も困難な半導体のナノトレンチ構造を再現性よく計測することが可能です。凹構造に対するAFMプローブの応答特性を計測し、プローブが入る最大深さを図1(c)のように、グラフ化することができます。これを利用して、AFMプローブの制御パラメータを最適化し、走査系(z軸とxy面)の直交性を保証して計測することにより、線間隔60 nm以下でアスペクト比5以上の間隙(かんげき)を測定可能にしました。その一例が図2(a)に示す線幅45 nm(線間隔60 nm)で深さ350 nmのパターンの測定例です。また、図2(b)のように、微粒子の直径(約100 nm)を、AFMプローブの形状を考慮して解析することにより、高さと水平方向の両面から評価することができます。市販のAFMは高さについては十分な精度がありますが、水平方向では高い精度を得ることが困難です。
この技術は、大気中だけでなく、液中での測定パラメータの最適化にも利用可能で、形状・ナノ物性計測の信頼性を上げることができ、粘度の高い液中計測でのプローブ特性を評価するなどの利用も可能になりました。これらは、先端計測機器としてIBEC−ナノテクノロジープラットフォームにて公開され、ユーザーに利用されています。
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図2 (a)ナノトレンチ構造のAFM画像(b)AFMプローブ径を補正した微粒子径の測定 |
計測フロンティア研究部門
活性種計測技術研究グループ
井藤 浩志(いとう ひろし)


