独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.12(2012) 一覧 > Vol.12 No.09 > レーザーパルス分子操作技術を用いた質量分析技術

レーザーパルス分子操作技術を用いた質量分析技術


質量分析について

 質量分析はいろいろな物質の成分分析、微量原子分子検出、さらに分子構造解析のため、分析化学やライフサイエンスの分野で広く用いられている分析手法です。質量分析技術の高機能化として、分子の質量と構造の同時決定は中心的な課題です。そこで、光による分子操作技術を用いて、これまでの質量分析技術の質的な転換や高機能化の可能性を探る研究を展開しています。

位相制御レーザーパルスによる分子のトンネルイオン化を利用した分子配向操作

 分子を質量分析するとき、まず分子から電子を剥ぎ取ってイオン化します。その際、分子の方向をそろえたり、あるいは、方向のそろった分子だけを測定すると、解析可能な情報量は飛躍的に増えて精密な計測が可能となります。最近、私たちは、位相を精密に制御したレーザー光(位相制御レーザーパルス)を用いて、ランダムな方向を向いている気体分子の中から特定の方向を向いている分子だけをイオン化することに成功しました[1]

 原子や分子のようなミクロの世界では、電子は波のように原子や分子全体に広がっており、外場をかけるとトンネル効果で電子が浸みだして、原子や分子がイオン化することがあります。位相制御レーザーパルスによる最先端の分子操作技術を用いると、トンネル効果を利用して、分子のどの部分から電子を剥ぎ取るかを制御することができます。図(a)のように、一酸化炭素のような非対称分子が、基本波とその第二高調波から構成される位相制御レーザーパルスの非対称光電場によってイオン化される場合を考えます。非対称光電場によるトンネルイオン化によって、最外殻電子の電子密度の空間的に広がった方から電子が剥ぎ取られる確率が高くなるため、ランダムな方向を向いている気体分子の中から図(b)の破線丸内に示される向きの「頭と尻尾を区別した分子」(配向分子)だけを選択的にイオン化できることを見いだしました[2]

 配向分子の分解生成物の飛び散り方は、もともとの分子の立体構造を反映します。そこで質量分析で位相制御レーザーパルスによる分子配向操作を行えば、質量だけでなく分子構造も推定できる高機能な分析が可能となります[3]

基礎から応用へ:汎用性を探る研究展開

 これまでに私たちの気体分子の配向選択分子イオン化は、(1)物質の種類に依存しない手法であること、(2)複雑な多原子分子でも配向操作が可能であり、適応範囲の広い汎用的な手法であること、を明らかにしました[4]。位相制御レーザーパルスを用いた新しい方法論に基づく計測分析手法として、光による高度な分子操作技術の基礎研究から装置の開発まで研究開発を展開します。

位相制御レーザーパルスによるトンネルイオン化の制御とそれによって引き起こされる配向選択分子イオン化の概略図
(a)位相制御レーザーパルスによるトンネルイオン化の制御と(b)それによって引き起こされる配向選択分子イオン化の概略図

計測フロンティア研究部門
イオン化量子操作研究グループ
大村 英樹(おおむら ひでき)


参考文献

[1] H. Ohmura et al.: Phys. Rev. Lett. 96, 173001 (2006).
[2] H. Ohmura et al.: Phys. Rev. A, 83, 063407 (2011).
[3] 特許第4423388号 配向分子質量分析方法
[4] 大村英樹:Molecular Science, Vol.5, A0039 (2011).

関連記事

AIST Today 5 (3), 32 (2005).
AIST Today 6 (12), 44 (2006).

このページの記事に関する問い合わせ:計測フロンティア研究部門 http://unit.aist.go.jp/riif/index.html

前頁

戻る産総研 TODAY Vol.12 No.09に戻る