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ナノテクノロジーのための陽電子計測分析技術


原子空孔やナノ空間評価の重要性

 材料のもつ、機械的強度、電気的絶縁性、分子透過性といったさまざまな特性は、材料を形作る元素の組み合わせだけでなく、結晶材料中の原子空孔やナノボイド、非晶質材料中の分子間空隙(ナノ空間)など、原子〜ナノメートルサイズの微小空隙構造に左右されます。特にナノテクノロジー分野では、金属、半導体、セラミックス、高分子など各種素材を表面処理したり、薄膜形成したりすることで、目的とする特性を付与し機能性部材とする場合が多く、これら材料の研究開発では表面近くの局所的な原子空孔やナノ空間の大きさを精密に解析することが重要です。しかし、原子空孔やナノ空間の大きさの定量評価を、試料の表面近くの局所領域に限って選択的に行うことは一般に困難であるため、新たな計測ツールの開発が望まれていました。

陽電子ビームが可能にするナノ計測分析

 素粒子の一種である陽電子は、自然界にはほとんど存在していませんが、放射性同位元素や電子加速器を用いて生成することができます。陽電子は物質中に入射すると高エネルギーの光(ガンマ線)を放出して消滅しますが、入射から消滅までの時間(陽電子寿命)は原子空孔やナノ空間のサイズと相関していることから、寿命を測定することにより空孔やナノ空間の大きさを評価することができます。しかし、生成直後の陽電子は、エネルギーがふぞろいで放出の指向性もないことから、材料の表面近くの局所領域に選択的に入射させることは困難で、そのままではデバイス材料や機能性材料における原子空孔やナノ空間の計測に用いることはできませんでした。そこで、陽電子の指向性をそろえて集束ビームとし、入射エネルギーを調整し、材料中の任意の位置に入射し陽電子寿命を計測することで、局所的な原子空孔やナノ空間サイズを非破壊的に定量評価する装置を開発しました[1]。この装置は、陽電子プローブマイクロアナライザー(図1)と呼ばれ、ナノテクノロジー分野を支えるデバイス材料や機能性材料の開発に利用されています(図2)。

真空中での測定から大気中での測定へ

 材料によっては、空孔やナノ空間の特性が使用環境中のガスの種類や湿度に影響を受けると考えられています。しかし、これまで陽電子ビームの利用は、真空内での測定に限定されていたので、大気中の使用環境下にある材料については、空孔やナノ空間の評価はできませんでした。この問題を解決するため、最近、陽電子ビームを真空中から大気中に取り出して試料に入射し、陽電子寿命を計測する装置(環境制御陽電子プローブマイクロアナライザー)を開発しました[2]。試料設置部に、湿度制御されたさまざまなガスを導入することで、多様な使用環境を模擬できます。今後は、幅広いデバイス材料や機能性材料の原子空孔やナノ空間の評価を大気中の使用環境下でも進めていくことで、効率的な先端材料開発支援を行っていきます。

陽電子プローブマイクロアナライザーの写真
図1 陽電子プローブマイクロアナライザー

ガラス試料中のイオン照射欠陥パターンの検出例の図
図2 ガラス試料中のイオン照射欠陥パターンの検出例

計測フロンティア研究部門
極微欠陥評価研究グループ
大島 永康(おおしま ながやす)


参考文献

[1] N. Oshima et al.: Appl. phys. Lett. 94, 194104 (2009).
[2] W. Zhou et al.: Appl. phys. Lett. 101, 014102 (2012).

このページの記事に関する問い合わせ:計測フロンティア研究部門 http://unit.aist.go.jp/riif/index.html

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