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CNTの生体イメージングのための分子プローブ技術


生体イメージング

 生体イメージングには、18F標識や蛍光標識による感度の高い方法がありますが、18F標識では、天然には存在しない18Fをサイクロトロン(加速器)によって作り出す必要があります。また、蛍光標識では、生体の深部の計測ができないという欠点があります。非侵襲イメージング手法としてはMRIが有名ですが、計測フロンティア研究部門では、炭素材料に焦点を当てて、フッ素プローブを用いた新規生体イメージング手法の開発を目指しています。

ナノ物質の体内動態

 フラーレン類やカーボンナノチューブ(CNT)の相次ぐ発見で、炭素材料は飛躍的に種類を増やし、ナノテクノロジーの中核的な材料として注目を浴びるようになっています。特にCNTは、単層から多層までの階層性に、長さや太さといったサイズやチューブの巻き方(キラリティー)の違いが加わって極めて多様な性能を出せる材料として期待が高まっています。

 一方、CNTはアスベストとの形態の類似性が指摘されています(繊維仮説)。アスベストの毒性は、暴露器官に残留して刺激を与え続けることによると考えられていますが、CNTはアスベストのような無機化合物とは異なり、さまざまな有機反応に関与することが知られていて、暴露器官にどの程度滞留するか、さらに、暴露器官からほかの器官への移動を含めた体内動態に関心が及んでいます。残念ながら、現時点ではCNTの体内動態試験を行うための方法論は確立されていません。

CNTの体内動態解析手法の開発

 現在、CNTの体内動態解析用無侵襲イメージング手法の開発に加え、CNTの分散技術の開発を同時に行っています。後者については、1 µm程度の短いCNTから、繊維仮説が問題としている10 µm程度の長さのCNTまでを、化粧品用界面活性剤400種余りからスクリーニングして見いだした低毒性の界面活性剤を用いて、1mg/ml程度の高濃度で分散できるようになっています。前者については、図に示した構造の極安定パーフルオロアルキルラジカル(PFR)と呼ばれる物質に注目し、PFRをマウスの腹腔(ふくこう)内に投与して電子スピン共鳴(ESR)イメージングが可能であることを確認しました。ただし、CNTの標識化のためにPFRを用いてピーポッド化を行うと、ESRシグナルのブロードニング現象が観察されました。このことは、PFRが芳香族系の化合物と電荷移動錯体を形成するという予想外の発見につながりましたが、CNTの標識法としては原理的に問題があることが判明しました。現在は、鏡映面、対称心、n回回転軸などの対称性で関係づけられ、磁気的に等価なトリフルオロメチル基を多数もつパーフルオロカーボンの分子設計を行い、これを用いたCNTの標識化により、19F-NMRイメージングによるCNTの動態解析手法の開発研究を行っています。

 原子力発電所の未曾有(みぞう)の事故など科学技術への信頼がゆらぐ中、CNTの安全性評価を目指してより説得力がある信頼のおけるフロンティア計測手法の開拓を継続しています。

極安定ラジカルの構造式
図 極安定ラジカル(PFR)の構造式

計測フロンティア研究部門
ナノ標識計測技術研究グループ
小野 泰蔵(おの たいぞう)


このページの記事に関する問い合わせ:計測フロンティア研究部門 http://unit.aist.go.jp/riif/index.html

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