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シリーズ:進化し続ける産総研のコーディネーション活動(第32回) |
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知的財産の創出に向けて |
イノベーションコーディネータ 田中 充(たなか みつる) イノベーションコーディネータへの道私は民間会社に入社以来40年近く「知的財産」に携わり、その会社を定年退職後の、2011年7月から産総研にイノベーションコーディネータとして勤務しています。おそらく私にとって、産総研での知的財産の仕事が、知的財産関連の最後の仕事になりそうです。会社での40年の経験がこの最後の仕事に少しでも役に立つととてもうれしく思っています。 コーディネート活動への想い民間会社で長い間「知的財産」に携わっていると、望んではいないのですがいろいろな事件に巻き込まれます。警告状が舞い込む程度は良いほうで、押しの強い強面(こわもて)の特許権者と特許の侵害・非侵害について議論しなければならない場合などもあります。このような事例のご紹介も面白いかと思うのですが、私は40年間一貫して特許出願に携わっており、今までの経験から、実例を挙げ、上手な特許取得の方法についてご紹介したいと思います。 1件目は「US特許第200,521号」(1878. 2. 19)です。この特許は皆さんよくご存じのトーマス・エジソンの「蓄音機」に関する発明です。下図のように、「筒状の録音部(筒状部)の表面に錫(すず)などの金属薄膜を固定し、これに音声振動を物理的に凹凸として刻み、この凹凸を再生用の針で拾って再生用振動膜を震わせて再生する」ものです。エジソンがとても苦労して開発したことは想像に難くないですが、エジソンは後日、「蓄音機の発明が一番好き」と言っているそうなのでとても興味が湧(わ)きます。 でも、これだけでは上手な特許取得の例としてはもの足りないですね。実は、本件には後日談があります。この「蓄音機」の発明が特許登録された数年後、「蠟(ろう)管」(紙筒の表面に蠟をコーティングした記録管)を用いた「蓄音機」がエジソンではない別の人によって特許登録されているそうです。良い技術に改良発明が出てくるのは世の常です。 エジソンの特許は「錫などの金属薄膜・・」と限定されていますので、「蠟管」に権利行使し「差し止め」などをするのは難しいと思います(私見ですが)。この「蠟管」を特許の権利範囲に含むようにするには、「錫箔」と同等の作用を奏する多くの応用例(材質例)を考え、それらすべてを含む(蠟管も含む)表現を考えることになります。このケースは「特許請求の範囲」を考える時の良い案内になります。 もう一つの特許は「日本特許第3054383号」(キューピー株式会社)の「ゆでたまご」に関する特許です。特許請求の範囲を掲載するには紙面が足りないので割愛しますが、以下の私の説明を読んで興味の湧いた方は特許公報を読んでみてください。 卵自体を特異な方法で表現しているのですがとても見事な(面白い)表現です。この「ゆでたまご」は「生卵」と「温泉卵」の中間の状態にある「熱処理卵」のようです。その相違を「割卵した際の卵白と卵黄の落下割合」「リゾチーム不検出」「卵黄膜を切り裂いた場合の卵黄の流動状態」「卵黄の粘度」などで規定しており、「生卵」とも「ゆで卵」とも、また「温泉卵」とも違う「卵」をうまく表現しています(これも私見に過ぎませんが)。つまり、この権利は「生卵」も「ゆで卵」も「温泉卵」も権利に含まれない、とても権利範囲の狭い特許なのですが、とても広い権利の特許と感じるのは私だけでしょうか。この特許は公知技術との差が微妙な発明を特許に導くための考え方としてとても参考になります。 今後の活動に向けて日本有数の頭脳集団である産総研に在籍する間に、素晴らしい発明に遭遇するのは夢ではないと思っています。研究者の発明の権利化の一助になるように努めたいと考えています。
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このページの記事に関する問い合わせ:イノベーション推進本部 https://www.aist.go.jp/aist_j/collab/inquiry/inquiry_coordinator.html
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