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室温で光による液化−固化を繰り返す材料

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熱をかけずにとかしたり固めたりして再利用できる

秋山 陽久の写真秋山 陽久 あきやま はるひさ
秋山連絡先
ナノシステム研究部門
スマートマテリアルグループ
主任研究員
(つくばセンター)

機能性をもった液晶材料や高分子材料の設計・合成・評価を専門に行っています。これまでにない性能をもった新材料を生み出すことで、省エネルギー、省資源化を進め、産業の発展に貢献できる画期的な産業技術の開発を目指しています。

有機系材料の成形における課題

 情報機器や家電、輸送機器などには、多種多様な有機系材料が広く使われていますが、これらの有機系材料は、その成形時に液体状態から固体へと加工するのが一般的です。省資源・省エネルギー化のために、液体−固体や固体−液体の相転移のような基本的な物性変化を、可逆的かつ精密に制御する技術が強く望まれています。しかし、これまで加熱や冷却を行わずに、室温で光照射だけで液化−固化の変化を繰り返すことができる単一物質の例はありませんでした。

可逆的な光液化と光固化を繰り返す新材料

 今回私たちは、温度一定の室温状態で、光を照射するだけで液化と固化を繰り返し起こす材料を開発しました(図1)。この材料は、糖アルコール骨格と複数のアゾベンゼン**基を組み合わせた液晶性物質を用いたもので、加熱や冷却をしなくても、波長制御した光を照射するだけで液化と固化を繰り返す新しい光反応性材料です。

図1
図1 紫外光を照射すると固体粉末が溶けて液滴となり、可視光を照射すると再度固まる。

 アゾベンゼンは、光で棒状構造と折れ曲がり構造の間で可逆的に変化(異性化)を起こす(図2左)ことが知られていますが、結晶状態では、結晶性が高く、構造変化に必要な自由体積空間が少ないため、この異性化反応を示す例はまれです。今回開発した材料は、複数のアゾベンゼン部位の末端部分を、中央で密につなぎ合わせた構造ももっています(図2右)。合成直後は粉末(固体)として得られますが、熱処理を行うと加熱状態で液晶状態をとることが知られています。

図2
図2 アゾベンゼンの光による構造変化(左)と今回用いた化合物の光による構造変化(右)

 この材料の光反応性を調べた結果、固体状態でも良好な異性化反応性を保持していることがわかりました。具体的には、黄色粉末である原料に紫外光(LED光源:中心波長 365 nm、光量 40 mW cm-2)を照射すると、異性化反応の進行によりオレンジ色の液体に変化しました。続いて、この液体に可視光(LED光源:中心波長 510 nm、光量 20 mW cm-2)を照射すると、アゾベンゼン部位が異性化して分子全体として元の棒状構造に戻ることに伴い、再び初期の黄色い固体になりました。この光液化と光固化の反応は何度でも繰り返し行うことができます。

今後の予定

 光による接着制御をはじめ、新しい特性に適した応用分野での幅広い用途開発を進めていきます。また、合成法が量産化に適していることから、外部への試料提供や共同研究を実施していきます。併せて、さらに性能を向上させた新しい光反応材料の探索と開発も行っていく予定です。これについては、2010年に光で溶ける有機材料を発表している電子光技術研究部門と共同で研究を進めていきます。


関連情報:
  • 共同研究者
    吉田 勝(産総研)
  • 参考文献
    H. Akiyama, M. Yoshida: Adv. Mater., 24, 2353–2356 (2012).
  • 用語説明
    *糖アルコール:環状構造が開環した状態で、分子内カルボニル基(C=O)が還元されて水酸基(OH)になった糖類。
    **アゾベンゼン:二つのベンゼン環をN=N(アゾ基)で結合した構造をもつ化合物。
  • プレス発表
    2010年12月2日「光で溶ける有機材料を開発
    2012年4月6日「室温で光による液化−固化を繰り返す材料
  • この研究開発は、科研費基盤Cの支援を受けて行いました。

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