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壊れやすい試料に対応した薄片作製技術

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水を使わない「乾式研磨法」の開発と展望


地質の研究に不可欠な技術

 地質標本館の地質試料調製グループでは、「地質の調査」研究に不可欠な岩石試料などの薄片・研磨片などの作製を行い地質調査総合センターの研究を支援しています。作製依頼される試料はここ数年多様化しており、そのニーズに応えられるよう、薄片を作製する技術の開発を積極的に行っています。

乾式研磨法の特徴と成果

 岩石薄片は通常「湿式」と呼ばれる方法で作製されます。湿式では薄片作製の工程において試料の切断や研磨時に水や油を使用した作業を含むため、試料によっては膨潤・収縮などの悪影響を被ることがあります。このような壊れやすい(脆弱)試料のために、「乾式」による研磨技術を開発しました。乾式では耐水研磨紙を貼った可変自動研磨機で水・油を使わずに試料を研磨します(図1)。この過程では、摩擦によって発生する熱は回転速度の調整によって極力抑えます。

 海域の地質調査によって得られた脆弱な鉄マンガンクラスト試料に対して乾式研磨法を適用し、水分による膨潤などの影響を受けていない高精度な薄片を作製することができました。これにより他機関と産総研の共同研究に貢献しました。成果概要が「海底の鉄マンガンクラストの形成年代と成長速度を推定−世界で初めて0.1 mm単位で地球磁場逆転記録を復元−」としてプレス発表され、この中で薄片技術の貢献が明示されています [1]

 その後さらに新しい技術を加え、1962年に新鉱物として発見されて以来50年もの間薄片作製が不可能とされていたイモゴライト(土中に堆積した火山灰中に含まれる天然ナノチューブ)の薄片を完成させました(図2)。この成果を「乾式法によるイモゴライトの薄片試料作製」というタイトルで学術誌に公表しました[2]

図1 図2
図1 乾式で岩石試料を研磨する様子
図2 乾式で作製したイモゴライトの薄片(スライドガラスのサイズ:49 mm x 29 mm)

今後の展望

 今後も乾式による薄片作製技術を発展させていくことで、試料観察・分析手法の進展に伴う研究者の多様なニーズに対応し、支援することができると考えています。そして、高水準の薄片作製技術の維持・向上を通して研究の進展に寄与していきたいと思います。


大和田 朗と佐藤 卓見と平林 恵理の写真

大和田 朗 おおわだ あきら(右)
大和田連絡先
地質標本館
地質試料調製グループ
グループ長
(つくばセンター)

1981年に入所以来、31年にわたって岩石鉱物の薄片、研磨片の作製に関する業務に携わっています。近年においては、それまで避けることができなかった加熱による変形や液体による膨潤から試料を保護し、30 マイクロメートル厚に調製する新たな手法を開発し、産総研独自の研磨法として高い評価を得ています。

佐藤 卓見 さとう たくみ(左)
佐藤連絡先
所属は同上
主査
(つくばセンター)

1986年に旧地質調査所北海道支所入所以来、地質の調査研究に不可欠な岩石鉱物の薄片、研磨片の作製業務に携わっています。今後も試料調製業務に欠かせない技術と創意工夫に努めていきます。

平林 恵理 ひらばやし えり(中央)
平林連絡先
所属は同上
テクニカルスタッフ
(つくばセンター)

薄片を作製する技術の研鑽に努めると同時に、地質標本館で行われるイベントなどの広報活動および社会への貢献を通し、薄片技術の普及にも積極的に取り組んでいます。


関連情報:

● 参考文献
[1]産総研プレス発表資料(2011年2月28日発表), http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110228/pr20110228.html
[2]鈴木正哉ほか:粘土科学, 50(2), 63–68 (2011).


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