発毛サイクルにおける休止期
毛は成長期、退行期、休止期の3相を周期的に繰り返します(毛成長周期)。この周期が適切に制御されることで、一生にわたって動物の体毛や頭髪が維持されます。これまでに成長期を制御する分子は複数見つかっていますが、幹細胞の静止を伴う休止期を生理的に維持するシグナル分子*については、これまで個体レベルで明確に示されたものはありませんでした。休止期を維持する機構を解明し、これを阻害または促進する技術を開発できれば、脱毛症の治療やむだ毛の成長抑制に有用であると期待されます。
FGF18の生理的機能
細胞の増殖や分化を制御するシグナル分子群の一員であるFGF18**が、休止期の毛包幹細胞領域で発現することは、すでに発見されていました。しかし、FGF18の遺伝子を欠失させた実験動物では健康な個体が成長できないため、FGF18の生理的機能は十分にわかっていませんでした。
私たちは今回、皮膚細胞のFGF18の遺伝子を特異的に欠失させたマウス(遺伝子ノックアウトマウス)を作成しその性質を調べることで、FGF18が毛成長周期の休止期を維持するシグナル分子であることを初めて示しました。
この皮膚特異的FGF18遺伝子ノックアウトマウスの若齢個体(図1上)では、第1休止期(図2上の↓*1に相当する期間)が、対照個体(図1下)に比べて顕著に短縮していました。また、より加齢した皮膚特異的FGF18遺伝子ノックアウトマウスの背部の毛を週に一度刈ると、毛成長周期の相がそろった毛包が整列しつつ速やかに毛成長が進行して、縞(しま)状のパターンが見られました。この縞状のパターンができる原因は、毛成長周期が短期間で繰り返し起こり、また、マウス背部の皮膚の毛成長周期は、首に近いほど短く、尾に近いほど長いという差があるため、マウスが加齢するほど発毛部位が波状の模様になることによります。
また、多数の個体で毛成長周期を詳細に解析すると、休止期が顕著に短くなっていました(図2上)。野生型マウス(図2下)では休止期は3週間から数ヶ月にわたって持続するのに対し、皮膚特異的FGF18遺伝子ノックアウトマウスでは、休止期は1週間前後にまで短くなり、わずか3〜4週間で1回の毛成長周期を完了して、速やかに次の毛成長周期に移行することがわかりました。
これらの結果から、野生型マウスに見られるような長期間に及ぶ休止期が生理的に維持されるためには、FGF18が必要であるという新たな分子機構が明らかになりました。FGF18とその受容体は休止期の毛包幹細胞領域に高いレベルで発現していることから、FGF18は毛包幹細胞の静止期の維持に極めて重要な因子であると考えられます。
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| 図1 マウスの背部の毛成長では、皮膚特異的FGF18遺伝子ノックアウトマウス(上)の第1毛成長周期の休止期は、対照群(下)よりも短い。 | 図2 皮膚特異的FGF18遺伝子ノックアウトマウス(上)では、野生型マウス(下)に比べて毛成長休止期と周期全体が短縮する。 |
今後の予定
今後、ヒトの毛髪関連疾患とFGF18との関係などをより詳細に解析し、関連疾患の診断、予防、治療などへの応用や創薬につなげることが可能かを調べます。また、FGF18とほかのシグナル分子による毛包幹細胞の静止期を制御する機構などを明らかにすることにより、再生医療への応用につなげることを目指します。

今村 亨 いまむら とおる
