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ジスプロシウムを使わない等方性焼結磁石

[ PDF:984KB
新たな焼結技術で高性能磁石の資源問題解決に貢献

高木 健太の写真高木 健太 たかぎ けんた
高木連絡先
サステナブルマテリアル研究部門
相制御材料研究グループ
研究員
(中部センター)

専門は粉末冶金(やきん)学で、組成傾斜構造をもつセラミック遮熱被膜や圧電セラミックの作製・評価の研究を行ってきました。また、単分散球形粒子量産法の開発やその粒子の3次元アセンブリによる新規マイクロデバイスの研究にも従事しました。産総研では主に重希土類フリー焼結磁石の開発を担当しています。

高性能磁石の現状

 高性能磁石はさまざまなハイテク機器に利用されており、また、ハイブリッド車や電気自動車のモーターへも適用できるため、今後利用が増加するものと考えられます。

 現在、最高の性能をもつ磁石材料であるネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系磁石は、ジスプロシウム(Dy)を添加することによって保磁力を高めていますが、Dyは重希土類元素であり、資源埋蔵量が少ない上に、採掘できる地域が限られているため、輸入価格が高騰しています。

 このためNd-Fe-B系磁石に次ぐ高い磁石特性をもつサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末は、Dyを使用しない高性能磁石材料として期待されています。しかし、磁石粉末としての特性は高いものの、500 ℃以上の高温で焼結すると磁石特性を失ってしまうため、これまでは高性能の焼結磁石が作製できませんでした。

高精度焼結技術による磁石の開発

 今回、私たちはSm-Fe-N系磁石粉末の磁石性能の低下を防ぐために、400 ℃程度の低温での焼結で、しかも高い相対密度の焼結磁石を作製するために、パルス電流によって焼結するパルス通電焼結法に、荷重制御をするためのサーボプレスを組み合わせた焼結法を用いました(図1)。

 パルス通電焼結法は、粉末の入った金型にパルス電流を流して焼結を行います。通電焼結法は、粉末自身を直接加熱する手法であるため、短時間での昇温が可能で結晶構造の変化を防ぐことができ、これにパルス電流を使うと、粉体の温度を上げることなく粉末界面での結合を促進することができます。また、パルス通電焼結の際に、サーボプレスによってプログラム荷重制御を行うことで、さらなる緻密(ちみつ)化を促進できます。さらに、金型に超硬合金を使用すると、サーボプレスによる荷重を大きくでき、相対密度の増大につながります。これらによって、稠密(ちゅうみつ)な焼結体を低温で作製することができます。

 今回、私たちは等方性Sm-Fe-N系磁石の粉末を使用し、焼結温度400 ℃、保持時間1分で90 %以上の高い相対密度の等方性焼結磁石を作製できました。作製した等方性Sm-Fe-N系焼結磁石の特性は残留磁束密度0.91 T(9.1 kG)、保磁力770 kA/m(9.68 kOe)、最大エネルギー積129 kJ/m3(16.2 MGOe)となりました。これは、等方性の磁石としては世界最高レベルになります。図2は、今回作製した焼結磁石に鉄球を磁着させた例です。

図1 図2
図1 パルス通電焼結法の概略図 図2 今回開発した重希土類元素を含まない高性能焼結磁石(Sm-Fe-N系)
高性能焼結磁石を2段重ねにしたものに、鉄球30個が磁着している

今後の予定

 今回作製した等方性Sm-Fe-N系焼結磁石は、材料特性の改善や結晶制御によって、さらに性能を高めることが期待できます。今後は、異方性のSm-Fe-N系磁石粉末を用いて異方性焼結磁石を開発するとともに、焼結技術だけではなく、磁石粉末自体の研究開発を行い、さらに高性能なSm-Fe-N磁石の開発を目指します。


関連情報:
  • 参考文献
    K. Takagi et al.: Journal of Magnetism and Magnetic Materials,324(7),1337-1341(2012).
  • 共同研究者
    尾崎 公洋(産総研)
  • 用語説明
    *等方性磁石、異方性磁石:等方性磁石は異方性磁石ほど高い磁性にはならないが、どの方向にも均等な磁性をもつため、着磁の方向を選ばない。異方性磁石は一方向に強い磁性をもち、ほかの方向には低磁性となるため、高い磁性を必要とする場合に有効である。
  • プレス発表
    2011年7月6日「ジスプロシウムを使わない高性能な等方性焼結磁石
  • この研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「希少金属代替材料開発プロジェクト・Nd-Fe-B系磁石を代替する新規永久磁石の研究」(平成21年度〜22年度)の支援を受けて行ったものです。

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