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非磁性相変化固体メモリーから巨大磁気抵抗効果

[ PDF:988KB
常温で2,000 %を越える磁気抵抗比を実現

富永 淳二の写真富永 淳二 とみなが じゅんじ
富永連絡先
ナノエレクトロニクス研究部門
上席研究員
(つくばセンター)

1991年英国クランフィールド大学でPh.D(材料科学)。1997年に民間企業から旧工業技術院に転職。2003年から2009年まで産総研近接場光応用工学研究センター長。専門は材料科学、特にカルコゲン化合物、相変化メモリー材料。最近はカルコゲン薄膜の新しい物理現象(トポロジカル絶縁体)の応用を中心に研究しています。

不揮発性メモリーの現状

 次世代の不揮発性メモリーとして、化合物の結晶と非晶質(アモルファス)状態との電気抵抗値の差を利用した相変化メモリー(PCRAM)や、磁性合金の磁気による電気抵抗値の差を利用する磁気抵抗メモリー(MRAM)、酸化物に強い電場を加え結晶状態を変化させて抵抗値の差を利用する抵抗変化メモリー(RRAM)などが注目されています。PCRAMとMRAMはすでに実用化されていますが、PCRAMでは比較的消費電力が大きいこと、MRAMではメモリーセルの面積が大きいこと、また、RRAMでは記録・消去の繰り返し回数が少ないというそれぞれの欠点がありました。

相変化構造膜の開発

 産総研が研究開発を推進する低消費電力型PCRAMのメモリー層は、これまでの合金層とは異なり、ゲルマニウム−テルル結晶層とアンチモン−テルル結晶層とが互いに積層された配向性の高い積層膜から構成されています。各化合物層の厚さを第一原理シミュレーションに基づいて精密に制御することで、異なる化合物からなる超格子状の相変化構造膜が作製できます。この超格子膜は実際にPCRAMデバイスに組み込まれ、すでに従来比10分の1以下の電力で動作できることが実証されています。

 この超格子相変化構造膜のPCRAMデバイスを用いて、磁場による抵抗変化を室温で測定したところ、0.1テスラの磁場で抵抗値が2,000 %以上変化する巨大磁気抵抗効果を示すことを発見しました(図1)。さらに、シリコン基板上に超格子相変化構造膜を作製し、ラシュバ効果に伴う表面スピン分極電流の違いを室温で測定したところ、バンドギャップ付近の波長の光ではなく、可視光領域(波長400 nmから800 nm)の光でも、磁場を加えると、波長に依存することなく光の反射率が変化することも発見しました(図2)。

 この研究は、超格子相変化構造膜を用いれば、室温以上でトポロジカル絶縁性を機能させることができ、電場または磁場によってスピンを制御できる全く新しいスピントロニクスの可能性を示した世界で初めての成果です。

図1
図1 超格子相変化膜を備えたPCRAMデバイスのスイッチ動作
磁場のない初期動作が赤色、磁場がある場合が青色、磁場を取り除いて動作させたものが灰色。
図2
図2 シリコン基板上に作製した超格子変化膜の反射率の変化(R*はN極磁場を与えたときとS極磁場を与えたときの光反射率の差)
磁場のない状態に比べて、磁場を加えると反射率が変化する (図ではS極を与えた方が、反射率が高いことを示す)。

今後の予定

 この成果は、超格子相変化構造膜が次世代ハードディスク用ヘッドなど、メモリーを越えた新規デバイスの創成につながることが期待できます。

 今回の発見は、消費電力の削減だけでなく、外部電場と磁場を独立に変化させた相変化を可能にし、それに伴う電気抵抗を制御できます。これまでPCRAMとMRAMは全く異質のメモリーと考えられてきましたが、今回の発見によって将来的にPCRAMとMRAMが融合した超高密度固体メモリーの創成が期待できます。今後、この成果を踏まえてPCRAMとMRAMを統合した全く新しいメモリーの研究開発を推進します。


関連情報:
  • 共同研究者
    アレキサンダー コロボフ、ポール フォンス(産総研)
  • 用語説明
    *超格子型相変化構造膜:従来型のゲルマニウム−アンチモン−テルルからなる3元合金薄膜を用いるのではなく、ゲルマニウム−テルル、ゲルマニウム−アンチモンから構成される2種類の2元合金薄膜を、結晶配向性を揃えながら交互に成長させることで、溶融せずに相変化できる相変化膜。溶融を経ることがないため、相変化に必要なエネルギーを大幅に削減できる。
  • プレス発表
    2011年10月14日「相変化固体メモリーから巨大磁気抵抗効果が出現
  • この研究開発は、内閣府の最先端研究開発支援プログラムの支援を受けて行っています。

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