リボソームの機能
リボソーム*は全生物に存在する細胞小器官で、遺伝情報の「翻訳」という重要な生体機能を担っています。この機能は多くの生物で共通である一方、細菌とヒトではリボソームの構造が異なるため、細菌リボソームに選択的な阻害剤は、ヒトに対する毒性の低い感染症治療薬となり、その開発が期待されています。こうした阻害剤の開発には、リボソームの機能についての詳細な解析が必要です。
リボソームの解析と改変
産総研では、新規微生物やそれに含まれる有用酵素の探索と利用など、微生物に関する研究を幅広く行っています。現在、大腸菌をプラットフォームとしたリボソームの解析・改変を通じて細胞機能の理解と利用を進めています。
大腸菌のRNA分解酵素T2(RNase T2)を精製すると、RNase T2の生理的な役割とは無関係と思われるリボソームに結合した形で分離されます。しかし、この結合を生じさせる相互作用の生理的意味やRNase T2の阻害様式などの詳細な分子機構については不明でした。今回、長年の間未解決となっていた「RNase T2 −リボソーム相互作用」の実態解明を行いました。
RNase T2とリボソームの複合体形成メカニズムや生理的意義を解明するために、大腸菌リボソーム変異体の解析を試みました。種々の微生物より16S rRNA**遺伝子をクローニングし、大腸菌の16S rRNA遺伝子と置き換えたところ、大腸菌の16S rRNA遺伝子とは80 %程度の配列相同性しかない進化系統がかけ離れた微生物由来の16S rRNAで置換しても、大腸菌が生育できることがわかりました。これらの大腸菌変異株について、その生育をより詳細に観測すると、定常期において死滅しやすくなることが判明しました。また定常期に細胞内のRNAを抽出したところ、RNase T2の阻害部位に変異を含む大腸菌(KT103/Rpi、図1の赤色部分の構造が大腸菌(Eco)のものからほかの細菌(Rpi)由来のものに置き換わっている)では、RNAが分解されていることが確認されました(図2のレーン2)。
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図1 リボソーム30Sサブユニットの立体構造 緑色の部分が16S rRNA、赤色部分はRNase T2と相互作用する16S rRNAのうちのhelix41領域。helix41領域が他の生物のものと入れ替わるとRNaseT2に対する阻害活性を失う。白色部分はリボソームタンパク質。 |
図2 細胞内RNA分解を指標としたRNase T2阻害活性の評価
レーン1(KT103/Eco)、レーン2(KT103/Rpi)、レーン3(KT103 rna-/Rpi)。レーン2(KT103/Rpi)ではRNAの分解(23S rRNAと16S rRNAのバンドがない)がみられる。KT103 rna-はRNaseT2を欠いた大腸菌のため、ヘリックス41の種類によらずRNAの分解は見られない。 |
今後の予定
これまで、遺伝情報からタンパク質を合成する「翻訳装置」とされていたリボソームの新たな役割を発見したことで、リボソームにはほかにも生理的に重要な機能が隠されている可能性があります。今後、リボソームの機能解析を継続することで、それら未知の機能の有無についても解明していき、毒性の低い感染症治療薬への応用についても探っていきたいと考えています。

宮崎 健太郎 みやざき けんたろう
