熱電変換素子の現状
電気製品や機器類、工場、自動車などからの廃熱、さらには体温など、環境中に放出される熱エネルギーを熱電変換素子によって電力に変換し、エレクトロニクス製品を駆動させる電源として利用するエネルギーハーベスティング(環境発電)技術の研究開発が注目を集めています。身のまわりに廃熱などの熱エネルギーが放出されている限り電力が得られるため、電池交換や配電を意識することなく、センサーなどの低消費電力機器が利用できるようになるなどの利点があります。
現在、熱電変換素子は、ビスマスやテルルなどのレアメタルを主な原料として作製されているため、素子の低コスト化や大量普及が困難な状況にあります。また、現在用いられている素子は柔軟性に乏しく、平面でない形状の廃熱・放熱源への設置が難しいことや、エネルギーの大量変換のための素子の大面積化が困難である、などの課題があります。
印刷法によりフィルム上に熱電変換素子を形成
このような課題を解決するため、レアメタルを含まず、フレキシブルで、かつ省エネルギー・低コスト・高速な素子製造プロセスである印刷法を適用できる熱電変換材料を探索しました。その結果、カーボンナノチューブ(CNT)と高分子材料を微細に混合させたCNT−高分子複合材料が、高い熱電変換性能を示すことを見いだしました。
高性能な熱電変換材料の条件としては、ゼーベック係数*が大きいことに加え、電気伝導率が高く、熱伝導率が低いことが必要です。CNT−高分子複合材料に高い電気伝導性を与えるためには、CNTがもつ高い凝集能力を阻害し、CNTを高分子中に微細に分散させる必要があります。しかし、CNTの凝集を阻害する試薬(分散剤)を用いる一般的な手法でCNT−高分子複合材料を作成すると、残留した分散剤の影響で電圧の発生能力が低下してしまうという問題があります。
そこで私たちは、分散剤を使用せずに機械的にCNTを高分子溶液中に分散させる技術を開発しました。この分散手法を用いて作製したCNT−高分子複合材料は分散剤による起電圧低下がないため、ゼーベック係数が約0.1 mV/Kとなり、これまでの方法で作製した場合と比較して約3倍向上しました。今回開発したCNT分散高分子溶液をインクとして用い、厚さ20 µmのプラスチックフィルム基板上にステンシル印刷法**でCNT−高分子複合材料のパターンを形成した後、乾燥焼成させることで、フレキシブルな熱電変換素子を作成しました(写真)。試作した熱電変換フィルムは曲率半径5 mm程度に折り曲げても機械的な損傷は見られず、曲面・球面形状への設置に対する高い適応性が確認されました。また、室温と体温程度の温度差でも、良好な温度差発電動作を示し、効率的な熱電変換素子が製造可能なことを実証しました。
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| 印刷法により作製したフレキシブル熱電変換フィルム(左)とその発電能力(右) 約10 ℃のプレート上に設置した試作素子に、手を置くことでプレートとの温度差を加えた結果、108.9 mVの電圧が発生している。 |
製品化に向けて
今後は、CNT−高分子複合材料中の微細構造制御などを通じて材料の高性能化を行うことで、これまでの固体熱電変換材料に匹敵する性能をもち、かつ、フィルム基板上に印刷形成できる熱伝変換材料の実現を目指します。

末森 浩司 すえもり こうじ