仮想化の必要性
サービス産業の生産性は製造業と比べてかなり低く、科学的根拠に基づく生産性向上が望まれています。顧客や従業員の行動を計測し、サービスを分析・再設計したり、より適切なサービスを提供したりすることが生産性向上に有効だと考えられていますが、屋内行動を計測する技術にはまだ決定打がありません。さらに、実験室では既知の環境情報も、サービス現場では計測対象とする必要があります。逆に、屋内環境と顧客・従業員行動の仮想化ができれば、POS(Point Of Sales:販売時点情報管理)システムなどから得られる会計データなどの「結果」と、その結果を生み出した「行動」、さらにはその行動に影響を与えた「環境刺激」から、より網羅的、総合的な見える化、分析などを実現できると考えられます。
3次元モデルの作成
私たちは、センサー・データフュージョン(SDF)と称する行動計測技術および屋内環境幾何モデリング技術の研究開発に取り組んでいます。SDFでは、モバイル自蔵センサーモジュール(加速度・ジャイロ・磁気・気圧)と測位インフラを用いて、顧客や従業員の位置・姿勢を継続的に計測することができます。ベースとなるのは、インフラを使わず自蔵センサーモジュールのみで行う相対位置と絶対姿勢の推定です。これは、私たちの研究チームで別途開発している歩行者用の慣性航法によって行います。ただし、慣性航法では絶対位置が得られない、誤差が蓄積するなどの問題があるので、IMES(屋内GPS)/Wi−Fi(無線ネットワーク)/RFID(無線タグ)/可視光通信(LED照明)などの測位インフラや、3次元環境マップを利用して絶対位置情報を得たり、誤差を抑制したりします。既存の測位インフラに基づく手法で屋内環境をカバーすると莫大(ばくだい)な初期コストやメンテナンスコストが必要ですが、このような連携により、費用対効果が高く、かつ、めりはりのある計測を実現することができます。
屋内環境幾何モデリングの研究では、写真を撮りためることにより、対話的に効率よくサービス現場の3次元モデルが作成できるツールを開発しています。例えば、図1、2で用いられた3次元モデルは、どちらも30時間前後で作成することができました(撮影時間を含む)。さらに、作成されたモデルは、SDFのマップだけではなく、調査支援(図1)、ナビ(図2)などにも適用でき、再利用性の高いものとなっています。産総研一般公開では、来訪者17名(6〜37歳)に3次元モデル作成を体験していただき、良好な評価を得ることができました。
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図1 行動計測に基づく疑似体験映像を用いた回顧型インタビュー支援の事例(協力:城崎温泉)[1] |
図2 G空間EXPO2010での屋内ナビゲーションサービスのデモ風景[2] |
今後の展開
今回紹介した技術群は現在、生産性向上を主眼に水平展開していますが、POSシステムにより流通イノベーションが誘発されたことから類推すれば、さらなるサービスイノベーション誘発を支援するような技術としても発展していくことが期待されます。

石川 智也 いしかわ ともや
