軟X線領域におけるX線吸収分光法の必要性
化合物半導体や触媒など先端材料では、機能を発現させるためには微量の不純物が必要で、不純物の結合状態は機能と密接に関係しています。吸収端近傍の吸収率を詳細に測定するX線吸収分光法を用いると、微量不純物の電子状態・配位数・結合距離を元素選択的に測定できます。このため、X線吸収分光法はこれら先端材料の分析に欠かせないツールとなっています。しかし、これまで、Li(リチウム)、 Be(ベリリウム)、B(ホウ素)、 C(炭素)、 N(窒素)、 O(酸素)、 F(フッ素)などの軽元素は測定が困難でした。軽元素の吸収端はエネルギー1 keV以下の軟X線領域にありますが、軟X線領域で透過率を測定するには試料の厚さを1 µm以下にする必要があり、ほとんどの試料で透過率の測定が不可能です。そこで透過率の代わりに、二次電子や蛍光X線の強度が測定されています。しかし、二次電子はあらゆる元素から放出されるために微量元素の成分を抽出できません。また軟X線では蛍光X線の収率が低く、さまざまな元素の特性X線が重なり合うため、高感度かつ高分解能の分光器が必要です。しかし、半導体検出器や回折格子分光器は、高いエネルギー分解能と感度を同時に実現できず、微量軽元素のX線吸収分光は不可能でした。
超伝導トンネル接合検出器を用いたX線吸収分光
そこで私たちは、超伝導トンネル接合検出器に着目しました。超伝導トンネル接合検出器を用いると、半導体検出器より高いエネルギー分解能が得られます。また多数の画素を集積することにより、高い感度が得られます。そこで100画素の超伝導トンネル接合検出器アレイを用いた分光装置を製作しました[1-3](図1)。現在の性能は、エネルギー分解能が10〜15 eVで、この分解能は最先端の半導体検出器に比べて3倍以上、一般的な製品に比べると5倍以上優れています。有感面積は約1 mm2で、半導体検出器に迫る感度です。この装置を用いて初めて、炭化ケイ素(SiC)中の窒素やダイヤモンド半導体中のホウ素など、軽元素ドーパントの吸収スペクトルが測定できるようになりました。今後、さまざまな先端材料の製造手法の研究が加速されると期待されます。
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| 図1 超伝導検出器を用いた軟X線領域の蛍光収量法によるX線吸収分光装置 | |
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| 図2 超伝導検出器の顕微鏡写真 | 図3 SiC中の窒素ドーパント(300 ppm)の吸収スペクトル |
今後の展開
軟X線領域には、軽元素のK線のほか、3d遷移元素のL線や重金属のM線など、多くの特性X線がひしめき合っており、この装置で初めて分析できる元素の組み合わせは数多くあります。現在は共同研究の形で依頼試料を受け入れていますが、将来はIBEC*などを通じて装置を公開し、あらゆる材料の研究開発をサポートします。

志岐 成友 しき しげとも

