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高真空・超高真空の定量測定へ向けて

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標準コンダクタンスエレメントの開発

吉田 肇の写真吉田 肇 よしだ はじめ
吉田連絡先
計測標準研究部門 力学計測科
圧力真空標準研究室 研究員
(つくばセンター)

2005年入所以来、真空標準の開発・維持・供給に従事しています。「真空を測る」ということは、究極的には、気体分子1個1個の挙動を理解することに他ならず、絶対測定の難しさに悩むとともに、興味をもって取り組んでいます。また、今日、真空技術は、一部の専門家だけに使用されるものではなく、幅広い産業分野で利用されており、真空計測の標準化や信頼性の向上を通して、日本の産業基盤の強化に貢献したいと思います。

真空圧力測定の現状

 高真空・超高真空における圧力測定には、電離真空計や分圧真空計が用いられますが、現状では測定の信頼性が十分に高いとは言えません。なぜなら、(1)気体の種類によって感度が数倍異なるが、通常、1種類の気体(窒素など)でしか校正されていないこと、(2)経時変化や履歴などによって感度が変化しやすいこと、があるためです。

「標準コンダクタンスエレメント」の開発

 こうした状況を打開するため、私たちは「標準コンダクタンスエレメント(Standard Conductance Element, SCE)」を開発しました。SCEは、1 µm以下の微小な孔(あな)をもつステンレス製の多孔質焼結体を使った、ガス導入素子です。これを用いることで、ユーザーは、真空装置から真空計を取り外すことなく、任意の気体を使って、真空計を校正できます。

 気体は、大気圧下では、一般に「粘性流」と呼ばれる液体のような流れ方をしますが、バルブなどを介して真空容器に導入する場合、「中間流」を経て、最終的に「分子流」という個々の気体分子が独立して運動する状態へ移行します。この時、「中間流」に、複雑な非線形現象が含まれるため、流れの特性を説明することが困難でした。SCEを用いると、気体の流れを、「中間流」を介することなく、「粘性流」から「分子流」に直接遷移させることができます。これにより、流体力学と気体分子運動論という公知の物理学で流れの特性を説明できるようになりました。したがって、気体の種類が変わっても、解析により流量を正確に見積もることが可能になりました。SCEを用いることで実現する、定量化された再現性の良い気体流量は、真空計を校正するための信頼性の高い基準となります。

図1 図2
図1 標準コンダクタンスエレメントの原理 図2 標準コンダクタンスエレメント

今後の展開

 SCEは、すでに、国内外の国立研究所や企業で採用されています。今後も、いっそうの普及に努めると共に、真空技術に関する専門的な知識をもたない方も利用できるよう、ガス導入装置としてのパッケージ化を進めていきたいと考えています。


関連情報:
  • 参考文献
    H. Yoshida, et.al.: Vacuum, in press.
    H. Yoshida, et.al.: Measurement, in press.
  • 共同研究者
    新井 健太、秋道 斉、小畠 時彦(産総研)

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