独立行政法人産業技術総合研究所
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メッセージ
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新春に想う2012


  野間口 有理事長の写真

独立行政法人
産業技術総合研究所

理事長
のまくち たもつ
野間口  有 


はじめに

 2012年こそは、大きな災害に見舞われることのない平穏な年でありますようにと祈りつつ新年を迎えました。これを読んでくださる皆さんも同じ気持ちではないでしょうか。

 昨年は3.11の大地震を筆頭に、噴火、豪雨、台風、と自然災害が続きすぎました。地震・津波の被害に加え、原発事故に伴う長期避難、放射能風評被害、電力不足など、わが国の市民生活や経済・産業に甚大なる影響が生じ、復旧・復興にはかなりの時日を要するものと覚悟せざるを得ません。産総研はつくばセンター、東北センターが大きな被害を受けましたが、お陰様で研究は順調に進められるようになりました(産総研レポート2011参照)。

 昨年は、特に震災への対応で、公的研究機関としての役割を再認識すると共に、今後へ向けての教訓を得た年であったように思います。また、わが国企業の世界での競争力維持拡充に貢献するため、私たちが取り組んでいるオープンイノベーションハブ機能の強化の必要性を強く認識した年でもありました。今回得た教訓や認識は、過去からの延長で私たちが当然と考えていた多くの事柄に修正を迫るような切実さをもっているように思います。持続可能な未来社会づくりに貢献するためには、そのことに誠実に向き合う必要があると考えます。

 今回はこのようなことについて、新春にふさわしく、できるだけ堅苦しくならないように述べてみたいと思います。

震災を乗り越えよう

 3.11の大地震直後から、外部から産総研へ多くの問い合わせ、相談、支援要請がありました。広報部によると、3.11後にホームページへのアクセス数が急増しました。震災前の3月初めのアクセス数1日平均2万件が、震災後は10万件以上になり、最も多い日は20万件に達しました。震災直後からアップした放射線量測定結果、地震関連情報へのアクセスが増加の主な要因です。放射線の健康への影響や津波、余震への質問なども多数寄せられましたので、担当者には誠実に対応してもらいました。

 地震関連での緊急の現地調査など、地質関連の研究活動や支援活動は半年で25件ほどになりました。テレビや新聞などで、産総研の研究者が原発関連の国の審議会で大津波への対応の必要性を以前から主張していたということが報じられていますが、少数意見と言えども信念を曲げずに主張した姿勢は科学者としての責任を果たしたものと思います。大きな被害を防げなかったのは残念ですが、日頃から機会を見つけては現地まで出向いて行き、大津波への備えの必要性を説いてきた彼らの努力は評価したいと思います。

 吉村昭の小説に「三陸海岸大津波」というのがあります。理事長就任間もなく、地質分野の研究者の話に触発されて私はこの小説を読みました。貞観(じょうがん)から江戸、明治、昭和と繰り返し襲ってきた津波が主題です。作者は、被害をできるだけ少なくするために、多くの人に過去に学んでもらいたいと思いこの小説を書いた、と文庫版のあとがきで述べています。残念ながら、今回の大災害は「科学技術知」や「経験知」を、実際に役立つ「社会知」として活かす努力をまだまだしなければならないことを教えているように思います。新幹線が無事故であったのは、これまでの地震研究の成果を「社会知」として、活用できていたからだと思います。これからの社会づくりには、このような適切な活用例を増やす努力をしなければなりません。

 放射線計測に関する支援活動は半年で55件になりました。ホームページで一般の皆さまからの問い合わせに対応したことを先に記しましたが、つくばセンターでの空間放射線量の計測結果の一般への公表、国や地方自治体への報告、つくば市災害対策本部への人的支援、福島県への測定器提供、職員による計測支援など多様な活動を行いました。特に、福島県ハイテクプラザ、いわき技術支援センターに対する放射能汚染計測支援では、企画した標準・計測分野を筆頭に産総研の研究6分野全てからボランティア参加があり、5ヶ月間で延べ100名以上の職員(研究職、一般職、さらにOBも)が交代で現地に赴きました。

 わが国全体、特に東北地方の企業が、製品の放射能汚染の風評被害に苦しみましたが、その拡大防止と早期の沈静化にこの活動は大きな貢献をしたものと思っています。福島県知事およびハイテクプラザの所長から感謝状をいただきました。放射線測定講習会、放射線についての情報提供も、文部科学省や経済産業省、各県の公設試験研究機関(公設研)、各種工業会や産業協会、自治体や福祉関係団体の皆さんに対し行い、各機関でのより正確な状況把握や対応策の立案に協力しました。これからも続けていきます。

 産業技術連携推進会議(産技連)は、全国100以上の公設研が参加する組織で、会長を産総研理事長が、事務局を産総研が務めていますが、このネットワークを活用した被災地産業支援も大きな効果を発揮しました。事務局からの支援依頼のメールに対して、北海道から九州までほぼ全国の機関から応援の申し入れがありました。被災地企業からの依頼試験、技術相談への対応、機器貸与要請への対応など公設研間の支援が数多く実現しました。報道などでは、特に大企業の被災により、世界的にサプライチェーンが大きな影響を受けたと騒がれましたが、高品質の部材を提供している中小企業の被災でも同じくらい大きな影響を受けました。震災直後の予想より早くサプライチェーンは復旧しつつありますが、中小企業支援に力を入れている産技連は、これに大いに貢献したものと考えています。今回の経験は今後の産業支援にも活かすことができます。

エネルギー新時代

 今回の地震・津波による広域停電の発生は、電力供給体制の強靭化の必要性を痛感させました。さらに、福島第一原子力発電所の事故が、わが国のエネルギー戦略の見直しを迫るものとなりました。もともとわが国には、資源小国であるという認識に基づいて、特定のエネルギー源に偏重することなく多様なエネルギー源を利用することを基本とする、エネルギーベストミックスという考え方がありました。確か、第一次オイルショック後の1970年代中盤に打ち出されたもので、石油・石炭などのいわゆる化石燃料、原子力、水力・風力・太陽光・太陽熱・地熱などの自然(再生可能)エネルギー源を組み合わせて、合理的かつ効率的な利用構造を構築しようというものであったと記憶しています。原子力は、当初は電力需要の20 %程度を担うというものでしたが、時代と共に増加して最近では40 %超までその比重を上げる議論がされていました。今回の事故で、それは抜本的に見直さざるを得なくなりました。新しいエネルギー政策では、再生可能エネルギーの役割が大きくなる方向であることは間違いありません。それから生まれる電力の安定的利用を可能にするための電力供給ネットワーク(スマートグリッド)は、震災前よりさらに大量の再生可能エネルギーの導入を前提としたものになるでしょう。

 新聞などで国が、福島県に再生可能エネルギーの研究開発拠点を設立する件が報じられていますが、産総研は積極的にその一翼を担うつもりです。産総研は、太陽光、風力、地熱などを利用する「本格研究」を長期にわたって行い、すでに広く社会的に活用されている成果も多数あります。これらの実績を基盤とし、効率、信頼性・安定性、価格などの面で革新的成果を出すことを目標とします。成果としては、単に製品やデバイスなどのモノだけでなく、品質重視のわが国企業の誠実なものづくりが適正に評価されるための標準・規格などの提案、さらには、それらに従った評価・認証の試行、受容性の高いシステムの実証などを視野に入れたものにする必要もあると考えています。エネルギー関連研究は時間も費用もかかりますが、企業、大学や公的機関の参加も得て、国内外から多くの研究者、技術者が集う世界に冠たる研究拠点としたいと考えています。

 節電や電気エネルギーの効率的利用は、震災以後わが国では特に切実な問題となっていますが、世界的に見ても大変重要な今日的課題です。産総研では現在、リチウムイオン電池やさらに次世代の二次電池、SiCのパワーデバイス、超低電圧駆動のシリコンデバイス、ノーマリーオフデバイス、シリコンフォトニクスなど、未来の抜本的な省電力社会の実現を目指す研究も多数行っています。これらと新拠点での研究開発を総合して、高効率でしかもエコロジカルなエネルギー新時代の開拓を行っていきます。

産学官連携新時代

 昨年10月13日、14日に開催した"産総研オープンラボ2011"は前年比2割増の4,200人を超える来場者をお迎えしました。年々多くの皆さんの期待が高まっている、また産総研の対応の仕方もかなり進化していると感じられて、私も充実した気分で2日間を過ごしました。企業や大学、自治体からの来訪の方々と接しながら、ここ数年来何となく私の心の中にあった思いが、一つの確信に変わるのを感じました。それは、今や私たちは産学官連携新時代、すなわち、次の矢印で示すように、多様なプレーヤーが相乗的・相補的に連携し合うオープンイノベーションの時代にあるということです。

 産: 大企業(製造業) ⇒ 大・中・小企業(製造/サービス/金融業)
 学: 大学(理工系) ⇒ 大学(文系、理工系)、高専
 官: 国、公的研究機関 ⇒ 国、自治体、公的研究機関、公設研
 目的:製品、技術、人材育成 ⇒ 製品、技術、サービス、標準・認証、人材育成・活用

 ことさら新時代というほどのものではないかもしれません。しかし、6重苦(産業構造審議会資料:円高、高い法人税、労働コストの上昇、環境制約、経済連携遅れ、電力供給制約)とも言われる厳しい状況下にあり、しかも資源小国である日本を再び元気な国にする為には、社会総がかりのイノベーションへの取り組みが必要だと思います。

 二、三説明を付加します。まず「産」について。3.11東日本大震災は、産業界のサプライチェーンを破壊したとして大きな話題になりました。大企業だけでなく技術力のある中小企業の被災が大きな影響を及ぼしていることがメディアなどで報じられ、私たちもわが国の中小企業のグローバル経済の中で果たしている重要な役割をあらためて認識させられました。ところが中小企業は今、6重苦と言う大変厳しい経営環境下にあります。このような中小企業をこれまで以上に産学官連携の輪の中に入れて、少なくともその技術基盤を持続可能なものにできる環境をつくる必要があるのではないでしょうか。技術をもった中小企業の弱体化は、大企業の海外シフト以上に、わが国産業の骨粗鬆化(こつそしょうか)を進める恐れがあると感じています。サービスや金融業を入れたのは、経済のソフト化傾向と共に重要性を増すと考えられる反面、大いに活性化・効率化すべき余地があると思うからです。

 次に「学」について。技術進歩の速さに社会がついていけないような事象が起きています。例えば、規制を緩和して利用を促進したいという場合もあるし、早く適正なガイドラインをつくらないと弊害が心配だという場合もあります。連携の輪の中に理工系だけでなく文系の研究者も入れて、成果がスムーズに社会に活かされるための検討を研究開発と並行して進めることが重要です。また、産業界から即戦力として高く評価される人材を輩出している高専も、学の一員として大きな期待をしてよいのではないでしょうか(産総研TODAY Vol.11 No.10参照)。

 「官」としては、地方自治体や地方の公設研の参加も重要です。産総研は昨年、岡山県真庭市とも連携協定を結びました。同市は、地域の森林資源を活用した産業振興の計画をもっておられます。私たちはバイオマス技術で参加する予定です。各地の意欲ある自治体が産学官連携の一員として先駆的なイノベーションを先導することは、わが国の全国規模の活性化に大きな効果を及ぼすものと思います。さらに、公設研については、震災からの緊急復旧に貢献した産技連活動のところで触れましたが、地域企業のサポート役として重要な役割を担っています。私たちは産技連活動の充実も重要と考えています。

 最後に「目的(GOAL)」について。連携の成果目的を、単に世に通用する製品およびそれを支える技術や人材の実現だけとするのはもう古い。その製品や事業が、長期にわたって顧客に信頼感をもって使ってもらえる枠組みを提案する必要があります。その典型的なものが国際標準(規格)の提案やその認証体制の構築です。わが国はこれまでこの分野で欧米に後れをとってきましたが、世界経済に影響力をもつ国や地域の数が飛躍的に増大している今日では、国際標準のみが正当な競争を担保するツールと言っても過言ではありません。製造業を主とする産業国家としてわが国とよく比較されるドイツでは、大衆的商品の生産は自動車ぐらいのもので、最近よくわが国が地盤沈下したとして話題になるTV、携帯電話、パソコンなどは、もともとほとんど生産されていません。それでもわが国以上に世界で存在感を発揮できている要因の一つは、産業戦略と標準・認証戦略の連携が必然的にとれる産業風土になっていることであると思います。私たちも参考とすべきでしょう。さらに、人々の生活や社会活動の質を高めることにつながる新しいサービスの創造や人材の育成・活用も重要です。若い人を対象とする育成策は、随所で語られてはいますが、厳しく鍛えてグローバルに活躍できる人材を育てることが肝要です。また、わざわざ活用を加えたのは、経験豊富なシニア人材にもっと活躍してもらいたいという考えからです。理工系シニア人材の高度活用は、イノベーション力を向上させるだけでなく、社会を明るくする効果もあるのではないでしょうか。

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おわりに

 いろいろと私見を述べているうちに予定の紙数が尽きてしまいました。話題を3つに絞って述べましたが、どれも多分に舌足らずとの思いが残っています。再生可能エネルギーの研究開発拠点に関しては、いずれもっと具体的に紹介したいと思います。連携新時代の多様なオープンイノベーションに関しては、TIA(つくばイノベーションアリーナ)や各種コンソーシアムなど、これからも発信を続けてまいります。今年が良い年でありますように。


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