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糖鎖プロファイリング技術でiPS細胞を精密診断

[ PDF:1.3MB
高密度レクチンアレイで新規未分化マーカーを発見

舘野 浩章の写真舘野 浩章 たての ひろあき
舘野連絡先
糖鎖医工学研究センター
研究員
(つくばセンター)

すべての生物を構成する細胞は糖鎖で覆われています。糖鎖の複雑な構造を見分けて、情報を受信している分子がレクチンです。大学生のころから一貫してレクチンに関する研究を行い、14年が経過しました。研究を始めたころ、レクチン研究はほとんど注目されていませんでした。しかし最近、生物機能や糖鎖を解析するためのツールとして、その重要性が認識されつつあります。私はレクチンの機能を知り、創(つく)り、そして使う方法を開発することで、レクチンの普及を推し進め、ライフサイエンス分野の研究の進展に貢献することを目指しています。

研究の経緯

 iPS細胞は再生医療のための細胞源として期待されていますが、腫瘍(しゅよう)形成の問題があり、細胞の安全性を評価する技術の開発が求められています。糖鎖は細胞の最も外側を覆い、細胞の種類や状態をよく反映することから「細胞の顔」と呼ばれ、分化段階でその構造が著しく変化することが以前から知られていました。一方、糖鎖は枝分かれや立体異性の違いによる複雑な構造をもつため、解析手法も複雑で時間のかかるものでした。これまで糖鎖医工学研究センターでは、糖鎖に結合するタンパク質(レクチン)を多種類、スライドグラス上に固定化し、これらと糖鎖との結合を一組のデータセットとして相互比較する高感度な糖鎖プロファイリング技術を開発してきました。そしてiPS細胞の糖鎖プロファイルを解析しました。

研究の内容

 今回、糖鎖プロファイリングの性能を上げるためにレクチンの数を増やし、組み換え体を含む96種のレクチンを固定化した「高密度レクチンマイクロアレイ」を開発しました。4つの異なる組織(羊膜、子宮内膜、胎児肺、胎盤動脈)の体細胞に4つの初期化遺伝子(Oct4、Sox2、c-Myc、Klf4)を導入して114種のiPS細胞を作製し、その際の細胞上の糖鎖の変化について、高密度レクチンマイクロアレイを用いて糖鎖プロファイルの比較解析を行いました。解析の結果、元の体細胞が組織ごとに異なる糖鎖プロファイルをもっていたにもかかわらず、作製されたiPS細胞は、いずれもES細胞とほぼ同じ糖鎖プロファイルを示し、初期化遺伝子の導入により細胞上の糖鎖もリプログラミングされることがわかりました(図1)。さらに、すべての未分化細胞と反応し、かつ、元の4つの体細胞とは全く反応しないレクチンを発見しました(図2)。rBC2LCNと名付けたこのレクチンは、上記の二つの特徴(α1-2Fuc、type1 LacNAc)をもつHタイプ1/3構造(Fuc α1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc)に結合特異性をもつことがわかりました。つまり、この糖鎖認識タンパク質は新規未分化マーカーであると考えられます。

図1 図2
図1 高密度レクチンマイクロアレイで得られた糖鎖プロファイル(クラスター解析)
図2 rBC2LCNは未分化細胞を検出する新規プローブである

今後の予定

 この研究で発見した未分化細胞と特異的に反応するrBC2LCNは大腸菌で簡単に大量調製できることから、腫瘍化の原因になる未分化細胞を検出するための試薬として産業応用が可能です。国内外の関連研究機関と連携して、rBC2LCNを活用した未分化判別技術を開発し、その実効性を広く検証するとともに、rBC2LCNが認識する新規未分化マーカーの機能について研究する予定です。


関連情報:
  • 参考文献
    H.Tateno et al.: J. Biol. Chem., 286(23), 20345-53 (2011).
    C.Tang et al.: Nat. Biotechnol., 29(9), 829-34 (2011).
  • 共同研究者
    平林 淳、成松 久、久野 敦、浅島 誠、伊藤 弓弦、小沼 泰子、堀本 勝久(産総研)、梅澤 明弘、阿久津 英憲、豊田 雅士(成育医療)
  • プレス発表
    2011年6月22日「糖鎖の迅速プロファイリング技術でiPS細胞を精密評価
  • 用語説明
    *リプログラミング:初期化遺伝子の導入によって細胞内の遺伝子環境が劇的な変化を受け、未分化状態に戻ることを指す。
  • この研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて行っています。

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