研究の経緯
軽量でフレキシブルな太陽電池は、これまでの太陽電池では導入が困難だった場所への設置も可能になるなど応用範囲が拡大できるため、太陽光発電普及促進のための重要技術の一つとして注目されています。しかし、これまでのフレキシブル太陽電池は、軽量で曲げられるという機能面での優位性がありますが、性能的にはこれまでの太陽電池に比べて劣っていました。産総研は、独自のプロセス技術によって、厚さ200−300 µmのフレキシブルセラミックス基板上に、高効率な集積型CIGSサブモジュールを作製し、ガラス基板上の太陽電池と同等の性能を達成しました。しかし、高性能は実現できましたが、基板の低コスト化、大面積化、量産性の向上などの技術課題が残っていました。
研究の内容
今回は、富士フイルム株式会社との共同研究により、高温耐性や耐環境性を有し、さらに安価で供給の点でも優れたステンレスの金属箔を基板に用いて、高性能なサブモジュールを作製しました。
金属基板の場合は、その成分が太陽電池の高温成膜時にCIGS層に拡散する問題があります。さらに、集積型にするためには電気的な絶縁層を形成する必要があります。今回は、ステンレス箔の上にまずアルミニウム層を形成し、表面を陽極酸化法によって酸化アルミニウムへと変化させました。この酸化アルミニウムの層は、電気的な絶縁層であるとともに、金属基板成分のCIGS層への拡散を妨げる障壁層としても働いています(図1)。
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| 図1 今回のCIGS太陽電池で利用したフレキシブル基板の断面模式図 |
CIGS太陽電池では、ナトリウム(Na)などのアルカリ金属を添加することで高い光電変換効率が得られる「Na効果」と呼ばれる性能向上効果が知られています。通常のフレキシブル基板にはNaが含まれていないため、Na効果を得るためにNa供給技術が必要となります。私たちは、酸化アルミニウム層の上に、厚さを制御した極薄のケイ酸塩ガラス層を形成することで、高精度に制御されたNa添加を行い高性能化を実現しました。
図2に今回作製したサブモジュールの外観を示します。1枚の基板上に16個の細長い短冊状の太陽電池が直列接続された集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールで、開放電圧10.54 V、短絡電流密度33.39 mA/cm2、曲線因子0.683、光電変換効率15.0 %という性能です。この性能は、これまでのフレキシブルではないCIGS太陽電池と比較しても遜色(そんしょく)がなく、フレキシブル太陽電池サブモジュールとして極めて高性能です。
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| 図2 ステンレス基板上の集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュール(10 cm×10 cm) |
今後の予定
安価で安定なステンレス箔を基板に用いることができれば、高性能と軽くて曲げられるという機能性を併せもった低コスト太陽電池が実現し、新しい用途の開拓が期待されます。今後は企業との連携によって、高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの事業化に向けて貢献していきます。

仁木 栄 にき しげる
