研究の経緯
私たちは、京都大学iPS細胞研究所の山中教授の研究グループとの共同研究で、転写因子Glis1を、山中3因子(Oct3/4、Sox2、Klf4)あるいは山中4因子(Oct3/4、 Sox2、 Klf4、 c-Myc)と一緒にマウスやヒトの線維芽細胞に導入すると、安全なiPS細胞をとても効率よく作製できることを見いだしました。
これまでに山中教授らのグループは、線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて、山中4因子を導入してiPS細胞の作製に成功しています。しかし、導入したc-Mycの影響と思われる腫瘍(しゅよう)形成のリスクや、c-MycなしではiPS細胞の樹立効率が極端に低いことが示されています。そこで、臨床応用に使用できるiPS細胞を効率よく作製する方法の確立のために、より安全でより効率の良い新規因子の探索を行ってきました。その過程で、私たちが構築してきたヒトcDNA*ライブラリー(ヒトタンパク質発現リソース、HUPEX)に含まれる転写因子1,437遺伝子の中から新規iPS細胞誘導因子Glis1を発見しました[1]。
研究の内容
Glis1を山中3因子あるいは山中4因子と同時にマウスやヒトの線維芽細胞に導入したところ、ES細胞(胚(はい)性幹細胞)と同様の多能性マーカー遺伝子を発現し、形態も類似したiPS細胞を効率よく誘導することができました。また、Glis1は、c-Mycによって誘導される初期化が不完全な細胞や形質転換された細胞の増殖を抑制していることがわかりました。
Glis1と山中3因子で誘導したiPS細胞は、奇形腫を形成(三胚葉(はいよう)への分化能を証明)し(図1)、さらに、iPS細胞由来キメラマウスは生殖系譜にも寄与できることがわかりました(図2)。またGlis1から作成されたキメラマウスでは、c-Mycを用いて作製された場合のような顕著な腫瘍発生や短命化は認められませんでした。
また、マウスES細胞にGlis1を強制発現したところ、ES細胞の増殖が抑制されました。このことから、iPS細胞誘導過程において、細胞に導入された因子の発現が抑制されない初期化不完全細胞では、Glis1の発現が継続し、細胞の増殖が抑制されていることを示唆しています。言い換えれば、増殖している細胞は完全に初期化されたiPS細胞となります。
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| 図1 Oct3/4、 Sox2、 Klf4、 Glis1を導入して作製されたiPS細胞由来の奇形腫(マウス) 左から、神経細胞、平滑筋、円柱上皮 |
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| 図2 Oct3/4、Sox2、Klf4、Glis1を用いて樹立されたiPS細胞由来のキメラマウス(左)F1の体毛色から生殖系譜への寄与が確認できた(右) |
今後の予定
今回の研究から、Glis1を用いることにより、安全性の高いiPS細胞を効率よく作製できる可能性が示されたので、臨床応用に使用可能なiPS細胞作製方法の確立に大きく貢献することが期待されます。

五島 直樹 ごしま なおき
