独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.11(2011) 一覧 > Vol.11 No.10 > 再生可能な新しいグリーン触媒

再生可能な新しいグリーン触媒

[ PDF:1.5MB
金属錯体タイプ有機ナノチューブを用いた高効率な酸化反応用触媒

青柳 将の写真青柳 将 あおやぎ まさる
青柳連絡先
ナノチューブ応用研究センター
研究員
(つくばセンター)

大学学部の卒業研究で取り組んだ「超分子自己集合」は、現象そのものの面白さに魅了されるとともに、「何に使えるかわからないけど、いつか身の回りのどこかで役立つようになれば…」という思いをもちました。それから十数年たっていくつかの機能を発現させるところまで来て、卒業研究当時の抽象的な夢は具体的な研究課題として考えられるようになってきました。現在はさらなる具体化とその実現に向けて日々努力しています。

研究の経緯

 環境への負荷が少ない有機反応プロセスの実現に向けて、反応を温和な条件で高効率に進行させる触媒は欠かせません。特に固体担持触媒は反応後における生成物との分離が簡単なので極めて有用です。しかし、多くの固体担持触媒は貴金属を必要とし、また触媒の調製に高温での熱処理などのプロセスが必要であるため、コストが高くなることが課題でした。

研究の内容

 今回開発したニッケル錯体タイプ有機ナノチューブ(Ni−ONT)は、グリシルグリシンと脂肪酸を結合した両親媒性分子をアルコール中に懸濁させ、ニッケル塩の水溶液を加えることにより、3時間以内に得られます。グリシルグリシンや脂肪酸はいずれも再生可能な資源から簡単に得られる低環境負荷材料です。またニッケルは地球上で5番目に多い元素であり、多くの触媒に使われている貴金属に比べて安く入手できます。

 ニッケルイオンは有機酸化反応において触媒作用を示すことが知られていることから、単層の二分子膜からなるナノチューブ表面にニッケルイオンが固定された構造をもつNi−ONT(図1)は、比表面積の大きい不均一系触媒として機能すると期待できます。私たちは、Ni−ONTを過酸化水素水(H2O2)に分散し、有機化合物を加えて室温でかき混ぜるという極めて簡単な操作で、図2に例示される多様な酸化反応が進行することを見いだしました。

 今回開発したNi−ONT触媒による酸化反応は、これまでの工業プロセスにおける多くの酸化反応の問題点を一つも含まないプロセスであり、1. 加熱操作が不要なのでエネルギーコストを低減できる、2. 有機溶媒を使わないので反応後の廃液処理が簡単、3. 酸化剤として、有機過酸・重金属・強酸ではなく、過酸化水素を用いる、4. 危険な過酸化物が発生せず安全、5. ハロゲン含有廃棄物を産出しないので廃棄物処理費用を軽減できる、などの利点があります。

 また、反応終了後、ろ過によってNi−ONT触媒と反応溶液を分離できるため、反応生成物の精製が簡単で、同時にNi−ONT触媒が回収できます。さらに、洗浄により回収した触媒の再生が可能で、少なくとも5回再利用しても触媒活性が低下しないことがわかりました。

図1 図2
図1 Ni-ONTの模式図と電子顕微鏡観察像 図2  Ni-ONT触媒による酸化反応の原料物質と反応生成物の例

今後の予定

 今後は、金属錯体タイプ有機ナノチューブ触媒のさらなる高効率化、高耐久性化を図るとともに、サンプル提供による共同研究などを通じて、低環境負荷の酸化反応プロセス実現に向けての実証実験を進める予定です。


関連情報:
  • 参考文献
    T. Chattopadhyay et al.: Green Chem., 13, 1138–1140 (2011).
  • 共同研究者
    Tanmay Chattopadhyay(Panchakot Mahavidyalaya大学)、由井 宏治(学校法人東京理科大学)、小木曽 真樹(産総研)
  • プレス発表
    2011年3月31日「再生可能な新しいグリーン触媒
  • この研究開発は、独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金「若手研究(B)(平成21〜22年度)」、「基盤研究(C)(平成23〜24年度)」の支援を受けて行っています。

産総研 TODAY Vol.11 No.10に戻る