睡眠改善剤の現状
概日リズム睡眠障害と呼ばれる一連の睡眠障害の発症には、時計遺伝子によって構成されている体内時計が関係しているものと考えられていますが、その詳細なメカニズムは明らかになっていません。これまでの治療方法のほとんどは作用メカニズムが不明であるか、または体内時計の位相を調節することにより生体リズムを正常化させようとするものであり、体内時計の周期の異常に起因する睡眠障害の根本的な治療法とはなっていません。このような睡眠障害の根本的な改善のため、概日周期を調節する睡眠改善剤の開発が強く望まれていました。しかし、これまで詳細な概日周期を検出する実験方法が確立されていなかったこともあり、もっぱら概日リズムのリセットが主に解析されてきました。そのため、概日周期を改善する物質を効率的にかつ確実に検出するための実験手法の確立と根本的な睡眠改善剤の開発が望まれていました。
ハルミンの生体リズム制御作用の発見
生物時計調節の中心となる時計遺伝子Bmal1の概日リズム転写に必要な最小プロモーター領域にレポーターとなるルシフェラーゼ遺伝子を繋ぎ、安定に概日リズムを刻みながらルシフェラーゼを生産するレポーター細胞株を樹立しました。樹立した細胞株に種々の物質を作用させて、ルシフェラーゼ活性をモニターすることにより、概日周期を調節する睡眠改善剤を探索しました。その結果、ハーブ類などの植物成分や生体内物質であるハルマラアルカロイド(インドールアルカロイドの一種)のハルミンが、Bmal1遺伝子の転写リズムの周期を延長させることを発見し(図1、対照:25.8時間、ハルミン:30.9時間)、概日リズムの障害に起因した疾患の治療または予防効果の可能性があることを見出しました。
さらに、(1)ハルミン濃度を変化させて概日リズムを観察していくことによりハルミンの概日周期延長作用に濃度依存性が存在すること、(2)ハルミンに細胞内の転写調節因子RORαを核内に移行させる機能があることを見出したことから、ハルミンが細胞質中のRORαを核内に移行させることで、Bmal1遺伝子プロモーター領域に存在しているRORE配列に結合する機会を増大させ、Bmal1遺伝子発現誘導を促進した結果、概日リズムの延長を起こすメカニズムが示唆されました(図2)。
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図2 ハルミンはRORαの核内移行を増加させることにより概日周期延長を引き起こす |
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| 図1 レポーター細胞株を用いたハルミンによる概日周期延長の測定 |
今後の展開
ハルミンなどのハルマラアルカロイドは、ハーブ類など食用または嗜好品用植物の成分や生体内物質であることから安全性についての懸念は低く、概日周期改善用の医薬組成物としての可能性を検討していきたいと考えています。また、さらに今回開発した実験方法を用いてさらなる生体リズム制御作用のある物質の探索も期待しています。

大西 芳秋 おおにし よしあき
