独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.11(2011) 一覧 > Vol.11 No.06 > オンデマンド製造を実現するミニマル・マニュファクチャリングの展開
本格研究 理念から実践へ
製造現場の革新を目指す本格研究
[ PDF:1MB

オンデマンド製造を実現するミニマル・マニュファクチャリングの展開


中野 禅の写真

1989年旧機械技術研究所入所、マイクロマシンやイオンビーム利用の表面改質技術の研究に従事。2001年NEDO省エネルギー技術開発室を経て産総研に復職。金型や半導体のミニマルマニュファクチャリング技術を利用した次世代製造技術開発の研究を進めています。2003年博士(工学)。

中野 禅 (なかの しずか)
中野連絡先
先進製造プロセス研究部門
難加工材成形研究グループ
主任研究員(つくばセンター)


はじめに

 産総研が提唱しているミニマル・マニュファクチャリングは、製造現場の効率化を促進し、最新技術の導入を容易にする技術の開発により、環境負荷低減、低コスト化、省資源化を併せて実現するもので、次世代の製造の考え方として普及が進められています。例えば、高効率な製造のためには製造する製品を変更する際の段取り時間の短縮などが重要です。また生産単位が小さくなる多品種・変量生産や、加工が難しく工具寿命などの課題がある微細加工などの製造への対応力を増すことも重要と考えられます。そこで、一つの例としてオンデマンドMEMS製造装置を開発し、フレキシブルな小型製造システムとしての有効性を示し、産業界への普及展開を図っています。

オンデマンドMEMS製造装置

 オンデマンドMEMS製造装置は、生産ラインを小型のユニット型製造装置で、光スキャナー部品製造を例として試作したシステムです。この装置は、プレス加工、エアロゾルデポジション(AD)、熱処理、インクによる電極形成というプロセスを、幅2.5 m、奥行き1 m程度の小型の生産ラインで実現しています。この4工程に加え最終的な組み付け工程などを付加すると、動作可能なデバイスを生産するラインが完成します。通常のシリコンリソグラフィーによるMEMS技術を用いると300 m2以上の床面積が必要ですが、試作した装置だと1/100以下の小さな工場で生産できることを示しました。真空成膜装置であるAD装置でも、成膜エリアを限定することにより10秒で完了するようにし、毎分1個の生産力をもつラインを実現しています。工程の変更や多品種製造に対応できる仕組みも盛り込みました。個々の装置には取り付け・取り外しなどのメンテナンスの作業性をよくする工夫を加え、非生産時間を大幅に短縮できました。これらを通して実際の生産現場への展開時の考え方を検証できるシステムを実現しました。

図1
図1 試作したオンデマンドMEMS製造装置
ユニット毎に分割して展示会場に輸送中。

普及へ向けた評価技術と寿命対策

 試作したラインでは一つの製品に絞った形で新しい生産手法を示しましたが、具体的に生産現場へ導入するには、それぞれの製品や製造手法などに合わせた個別の対応が必要となります。例えば、今回のMEMSをプレスで製造する場合、より微細な加工では、プレス工具に加わる応力が工具材料の強度以上の値となり、工具寿命がとても短くなります。そこで、このような製造技術の基盤となる評価技術や工具負荷の低減技術についても研究を行いました。

 プレス加工では金型内の工具を直接観察できません。そのために工具の損傷を把握することが難しく、加工時の経時変化や具体的な損傷の原因を把握できませんでした。1回の加工ごとにパンチ工具の表面を観察すると、金型の調整によっては僅か1回の加工でも工具がダメージを受けるなど、プレス工具が破損する様子を観察し原因を究明することができました。この評価装置は画像撮影を行うため、毎分30回程度の加工しか行えず、生産現場において直接利用できませんが、金型の設計や調整作業といった作業者のスキル向上につなげることができます。また、損傷の原因や場所が特定できるためこれを防止する手法の検討を容易に行えるようになりました。

 金型工具のダメージ回避技術の一つとして表面処理の研究も進めています。表面のダメージを踏まえ被加工材料の凝着の防止を主眼に開発を行っています。表面のごく近傍だけに化学的な触媒効果をもつナノ粒子を埋め込み、超硬工具の表面を酸化被膜で覆うことにより凝着を防ぎ、工具寿命の長期化が実現しました。

図2
図2 金型工具寿命評価装置 
小型プレス機と2台のカメラを使いパンチ表面の観察を行う。

システムとしての変革〜ミニマルファブの挑戦〜

 MEMSをプレスで作成する考え方を、半導体やこれまでのMEMSを製造するプロセスにも適用する研究も行っています。試作ラインと同じく、一品生産や小型化、低コスト化を目指し、0.5インチシリコンウエハーを使った製造システムを開発しています。材料や加工法まで変えてしまうオンデマンド型製造より、基本的なプロセスを変えないことによって普及の容易さを目指し、また製造ラインの使いやすさなどを含めたプロセス装置、プロセス技術、周辺設備までの開発を目標にしています。このシステムの早い普及が実現するように多数の企業・大学・公的機関との連携により研究を進めています。

図3
図3 パンチ先端に凝着した被加工材料の状況図(左側が工具の先端)
未処理工具は先端から0.3 mmまで広い範囲に凝着しているが、表面処理により抑止されている。

今後の展開

 ミニマル・マニュファクチャリングの考え方は、これからの製造技術に重要だと考えています。評価技術や表面処理技術を通し、実際の製造を行う企業との間で共同研究や技術移転などの連携を構築しています。その中には、オンデマンド型の製造システムのような、既存の製造スタイルとは異なる仕組みの導入を検討し始めた企業もあり、具体的な生産現場の変化が生み出せるような開発を実施したいと考えています。ブラウン管から液晶へ、内燃機関自動車から電気自動車へと製品の変革が進む中、それを支える製造現場でも、新しい材料の加工や、より難しい加工形状をオンデマンドで実現する技術が求められています。技術の資産を活かしつつ新しい製品を、より早く、より高品質に生産できる製造技術に成長するように研究を進めていきたいと考えています。


前頁

戻る産総研 TODAY Vol.11 No.06に戻る