独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.11(2011) 一覧 > Vol.11 No.06 > 光で溶ける有機材料

光で溶ける有機材料

[ PDF:939KB
再利用可能な新しい光応答性材料

則包 恭央の写真則包 恭央 のりかね やすお
則包連絡先
電子光技術研究部門
メゾ構造制御グループ 研究員
(つくばセンター)

光を照射することによって、物質の様々な性質(状態、色、電子的性質など)が劇的に変化する有機材料の研究を行っています。本稿で紹介した研究成果は、これまでにない分子設計によって、未知の性質や機能が発現することを明らかにしています。これを突破口に、産業利用可能な新素材の開発を目指しています。

感光性樹脂の現状

 水に見られるような、固体(氷)−液体(水)−気体(水蒸気)の状態変化は、通常は熱の移動(温度の変化)によって生じる現象です。一方、光を照射することで、物質の状態が変化する材料に感光性樹脂があり、この材料では光によって液体から固体、固体から液体への変化などが生じます。これらは、印刷版や微細加工技術などに広く用いられ、産業上重要な役割を担っています。しかし、通常の感光性樹脂は、再利用できません。このため再利用可能な光応答性材料の開発は、省エネにつながるグリーンイノベーションの一環として重要な課題の一つです。

開発した有機材料

 産総研では、再利用可能な光応答性材料を実現する目的で、アゾベンゼンに注目してきました。アゾベンゼンに紫外光を照射すると、トランス体からシス体へ構造が変化し、逆にシス体に可視光を照射するか加熱するとトランス体へと戻ります。しかし、溶液中では簡単に起こるこの反応は、結晶中ではほとんど起こらないと考えられてきたため、実際に光異性化を利用した「光で溶ける」材料が実現可能かどうかは未知でした。

 今回開発した材料は、アゾベンゼンを環状に連結し、さらに長鎖アルキル基を導入した化合物(図)で、光異性化に伴って分子の形が大きく変化することを期待しました。これらの化合物の微結晶薄膜に紫外光を照射すると、結晶が瞬時に液体になることが偏光顕微鏡によって観察されました。さらに、その液体を、冷却ではなく加熱することによって元の固体が再生しました。この固体と液体の間の状態変化は、何度も繰り返して起こすことができます。今回の成果は、通常では加熱によってだけ起きる固体から液体への状態変化が、光異性化によって起きることを示した世界初の報告です。

図
本研究で開発した有機化合物の構造式(上)と、それらを用いた状態変化の模式図(下)

今後の予定

 光で物質が融解し加熱によって固化する、この現象のメカニズムの解明を目指しています。

 今後は、技術移転に重要な大量合成法の確立を目指すとともに、光で融解する現象を活用した、繰り返し使用が可能なフォトリソグラフィー材料や、光を当てることで容易にはがれる接着技術などへの応用についても検討していく予定です。


関連情報:
  • 共同研究者
    吉田 勝(産総研)
  • 参考文献
    Y.Norikane et al .: Chem.Commun. 47,1770-1772(2011).
  • プレス発表
    2010年12月2日「光で溶ける有機材料を開発

戻る産総研 TODAY Vol.11 No.06に戻る