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本格研究 理念から実践へ
本格研究ワークショップより
大型セラミック部材の実用化に向けた本格研究
[ PDF:1.6MB

国家プロジェクトにおける取り組み


北 英紀の写真
企業勤務を経て2004年4月産総研入所。企業ではエンジンを対象としたトライボロジー、セラミック材料・プロセス、排ガス浄化フィルターなどに関わる研究と生産のマネジメントに従事。産総研に入所後は、新規造形プロセスや、エクセルギー・エントロピー概念のモノづくりへの適用について研究。NEDO「革新的省エネセラミックス製造技術開発」プロジェクトリーダー。
北 英紀 (きた ひでき)
北連絡先
先進製造プロセス研究部門
セラミック機構部材プロセス研究グループ
研究グループ長(中部センター)

ステレオファブリック造形

 機械部品や容器・配管などの構造部材は、形状によって必要な機能を発揮していると考えられます。ユーザーの求める価値は機能に依存するので、価値を高めるためには形状の自由度を高める必要があります。セラミックスで大型部材を製造する場合、大きな塊を素材としてそのまま作製する方法や、最終形状に近くなるよう粉末を成形し焼成する方法があります。しかし、いずれも大型化と複雑形状化には限界がある上、欠陥の制御も難しいため歩留まりは低く、さらに大型装置が必要になるなどの理由で結局コストアップとなってしまいます。

 そこで、高機能化された小さな精密ブロックを作製し、立体的に組み上げ、局所加熱などにより接合・一体化する大型で精密かつ複雑な部材を得られるプロセス技術の開発に着手しました。これは、セラミック部材の大型化・複雑化・精密化を同時に実現できるプロセスで、「ステレオファブリック造形」と呼んでいます(図1)。

図1
図1 ステレオファブリック造形の概念図

死の谷を作らない

 2009年度から5年間の計画で、ステレオファブリック造形を基盤とする国家プロジェクト「革新的省エネセラミックス製造技術開発」がスタートしました。筆者がプロジェクトリーダーとなり、企業5社(NGKアドレック株式会社、京セラ株式会社、TOTO株式会社、美濃窯業株式会社、三井金属鉱業株式会社)、産総研、財団法人ファインセラミックスセンターが研究メンバーとして参画し、また、横浜国立大学と東京工業大学が基礎研究の一部を担っています。

 体制上の特徴は、接合などに関わる基礎研究を行う集中研と、部材化以降の実用化研究(企業で個別に実施)の両方を初年度から設定したことです。いわば第1種基礎研究、第2種基礎研究と実用化研究を盛り込んだフルパッケージ型であって、本格研究そのものです。研究の種類にもよりますが、本来、第1種基礎研究、第2種基礎研究、実用化研究と分離し、個別に進めることは妥当ではないと考えます。個別に進めるとそれぞれのベクトルが合わず、そこにギャップが生じます。これを「死の谷」や「悪夢」と呼ぶのですが、このプロジェクトでは、基礎から実用化までを通観し、死の谷を生じさせることなく、効率的に実用化に結び付けることを目指しています。

 しかし、基礎研究の成果を部材化、実用化へと切れ目なく繋げていくことは容易ではありません。基礎研究サイドから「企業はいい研究成果が出ても使おうとしない」という不満が出る一方で、企業サイドからは「小さな試験片で特性が出たからといって、実用化に進める訳がない」といった声を聞きます。こうした溝を放っておくと、それがやがて死の谷へと変わっていくのです。

 それを避けるためには、基礎から実用化に至る流れの中で、節目ごとの移行条件についてシーズ提供側と受け手側の双方で充分に協議し、これを決定することが最低限必要と考えています。シーズを提供する側は、移行条件に定められた内容=目標と捉え、それを期限内で達成し、他方、シーズを利用する側は実用化に向けてベストを尽くすことは言うまでもありません。そしてプロジェクトリーダーの最も重要な仕事は、両者の仲介役としてズレを感じ取り、時間と予算の制約の中で基礎研究の成果がうまく実用化に繋がるような仕組みを作ること、実行させることであると認識しています。

研究内容

 ステレオファブリック造形に基づく試作品の外観を図2に示します。これは熱輸送やアルミ溶湯を搬送するための軽量な断熱容器であり、試作したモデルは外径250 mm(最終製品は1メートル)です。そのほか、軽量で剛性の高い炭化ホウ素を低温でも強固に接合する技術を開発しており、これを基盤として半導体・液晶の製造装置用部材へ展開することを進めています[1]

 また、このプロジェクトでは企業の協力を得ながら、ライフサイクルでみた物質とエネルギーフローを調査し、その結果を基にエクセルギーやエントロピー概念に基づく資源消費や環境負荷の定量化も進めています。資源消費の道筋を明らかにし、それをプロセス設計にフィードバックして低資源消費型プロセスを効率的に開発することを目指しています。

図2
図2 ステレオファブリック造形に基づく試作品の外観

期待される効果

 軽量で、剛性が大きく、金属融液に対しても優れた耐性をもっているセラミックスを製造装置やシステムに組み込むことで、製造効率の向上が期待されます。例えば、耐熱・耐食性に優れたセラミックスをエンジン鋳造ラインの大型の配管や槽・容器として用いることで、熱の損失を小さくすると同時に、最終製品の不純物を低減することができます。また液晶・半導体製造、あるいは加工ラインでは、軽量で剛性の高いセラミックスを大型の精密生産用部材として活用することで、製品の処理能力の向上や微細加工化ができるようになります。

思うこと

 構造用セラミックスについては、かつての熱気は消え去り、研究者はその出口を見い出せず閉塞状況にあるように思えます。一方、わが国の製造業は現在、環境・エネルギー、そして資源問題の深刻な危機に晒(さら)されています。こうした状況では、ありふれた元素で構成され、寿命の長いセラミックスの価値は改めて見直されるべきではないでしょうか。今回のプロジェクトを通じてモノと指標に裏付けられた省エネルギープロセスを開発し、わが国のセラミックス産業の基盤と製造業の競争力の強化、そして環境負荷低減に微力ながら貢献したいと思います。

参考文献

[1] 化学工業日報, 2010年11月12日, 3面


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