製造業の現状
日本の製造業は、加工現場の熟練作業者が培ってきた高度な技術・技能・ノウハウを活用することで高い国際競争力を維持してきました。熟練作業者が高齢化を迎える中で大規模に発展する途上国との競争が激化する日本では、この「強み」であった技能を後継者に伝え、後継者はそれをもとに創意工夫を続け、さらに「強み」として今後の競争に打ち勝っていかなければなりません。
ものづくり支援ツールは、この設計・製造や加工現場のIT化、技術力向上と継承のための活動を企業自らが実行することを支援するITをもとにしたツール群です。
ものづくり支援ツール
ものづくり支援ツールは中小製造業のIT化促進、技能継承支援を目的とした中小企業庁プロジェクトの研究成果で、プロジェクト終了後も継続的な発展と企業現場への普及を進めています。その内容は以下の三つから成ります。
(1)MZ Platform
中小製造業においては、業務の効率化のためにさまざまな情報をオンライン処理するなどのIT化への取り組みが不可欠であることは認識していても、システムの開発や導入、運用のための負担がとても大きく、思うようにIT化を進められないケースが多くあります。MZ Platformはソフトウエアの部品を組み合わせてさまざまな実用ITシステムを構築するツールです。高度なIT知識がなくても中小製造業が自社で必要とするITシステムを開発する環境を提供します。[1][2]
(2)加工技術データベース
中小製造業の特徴の一つに、特定の加工については優れた技術力をもつものの、前後の工程や周辺技術についての知識が少なかったり、情報を入手する手段や時間が限られたりして、新しい業務展開や新人の教育に苦労しているケースがあります。その状況を打破してもらうため、産総研の加工技術データベースは機械部品の製造に重要な鋳造、鍛造、金属プレス、射出成形、切削、研削、研磨、レーザー切断、レーザー溶接、アーク溶接、放電加工、めっき、溶射、物理化学蒸着、熱処理の15種類の加工法に関する広範で高度な技術情報を集積し、インターネットで提供しています。
このデータベースの開発では、各加工法に応じた内容とそれを的確にユーザーに伝えるデータベースの構造を設計し、多くの加工専門家の協力でデータを集積しました。そのためデータベースの内容や見かけは多岐に渡ります。内容例として以下があります(図1)。
• データベースの全体像を表示し、そこから必要なデータを迅速に絞り込み検索できる新しい検索機能として「イーグルサーチ」を開発
• 方案、加工条件設定、問題解決などにおいて企業の現場が実施した加工事例
• 熟練者の知見、判断基準を反映したトラブルシューティング
データベースユーザー(利用パスワード取得者)は2010年11月末現在で11,700人を越え、企業の加工現場を中心に多くの方々に利用されています。また毎年のユーザーアンケートで「業務に役に立つ」との評価を確認しつつ活動を行っています。
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図1 加工技術データベース(内容例) |
(3)加工テンプレート
加工テンプレートは、加工条件の設定やトラブルへの対処法における熟練者ならではの的確な判断など、技能の中でも経験知による技能を効率よく後継者に伝えるための仕組みとして開発したITツールです。その基本的な仕組みは次のようなサイクルを社内に構築することです(図2)。
@使いやすい入力インターフェースで過去の事例、実績を記録する。
A解析ツールを使ってノウハウを解析し、技能の抽出と蓄積をする。
B結果を社内の標準データとして記述する。
C後継者はこの社内データベースを参照し、加工や作業における原理原則の理解を深める。
Dこれらをもとに加工条件設定、トラブル対処法などにおけるノウハウを継承する。
E新たに行った作業実績を次のデータとして蓄積する。
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図2 加工テンプレート(技術・技能の継承・共有化ツール) |
加工テンプレートの例として「ガス浸炭時間条件設計テンプレート」を図3に示します。作業の本質を表す項目を整理し、作業者自身がシミュレーションを利用して現場実績との違いを補正係数の形で蓄積する仕組みです。この補正係数の蓄積が利用企業のノウハウの蓄積となり、技能を継承できます。
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図3 ガス浸炭時間条件設計テンプレート |
普及活動
産総研の各地域産学官連携センター、公設試験研究機関、工業諸団体との協力により、各地で普及のためのセミナー、講習会を開催しています。特に九州地域におけるMZ Platformの普及活動は普及体制として一つの成功モデルとなっています[2]。
また、ものづくり支援ツールの利用手続き、各地で開催するセミナー、講習会などに関する情報は、ものづくり支援ツールのホームページ[3]に随時掲載しています。どうぞご利用下さい。
今後の展開
各ツールの利便性を高めるとともに、より一層の普及に努めます。さらに、加工工学への貢献の視点を重視して技能の抽出と蓄積、利用技術の構築を目指した研究開発を進めます。開発関係者の力を集中して発揮できるところに特化し、そこに産総研ならではの特徴を強く盛り込むことがユーザーに役立つと考えています。
参考文献
[1] 澤田 浩之: 産総研TODAY, 9(2), 14-15(2009).
[2] 吉田 重治: 産総研TODAY, 10(7), 25(2010).
[3] ものづくり支援ツールのホームページ http://www.monozukuri.org/ |