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筑波大学大学院博士課程地球科学研究科で金属鉱床学・地球化学を専攻し、1985年工業技術院入所後、金属基複合材料の研究開発に従事しました。この当時、難燃性マグネシウム合金と出会い、以後、一貫してその産業化に携わっています。
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坂本 満(さかもと みちる) サステナブルマテリアル研究部門 主幹研究員(中部センター) |
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本格研究 理念から実践へ
本格研究ワークショップより |
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輸送機器軽量化に向けた本格研究
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基幹材料としてのマグネシウムの実用化 |
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基本技術について鉄や銅などは延性に富み自由自在に塑性加工できることが特徴であり、金属的な性質として広く知られています。これらの金属では、結晶構造が対称性の高い立方晶の構造をとり、滑り変形ができる原子面の数が十分にあります。一方、マグネシウムは構造的な異方性が高い六方晶に属し、常温域で滑り変形できる原子面の数が不足していて、金属的な塑性加工性に乏しい金属です。特にその展伸材は、これまで構造材料として使われたことがない材料で、その意味ではまさに生みの苦しみの段階にあります。しかし、資源的にはほぼ無尽蔵にあり、将来に向けてこれを使いこなすことが環境負荷の面からも期待されています。 金属の塑性加工性の改善には多結晶材の結晶粒径の微細化があります。結晶粒径が微細になると、粒界すべりが活性化して見かけ上は延性が大きくなり、機械的性質も大きく改善します。マグネシウムにはほかの金属以上に微細化による効果があります。マグネシウムは、一定温度において歪みに応じた再結晶作用により組織が微細化するという、動的再結晶作用が特徴的に起こります。この現象は組成や温度、歪み速度などによって支配され、人為によらないものです。したがって、とても扱いにくい材料ですが、逆に現象を理解し、原理原則に則るならば素直な振る舞いを示し、機械的性質に優れることが明らかとなっています。回り道のようですが、加工にまつわる基礎的な研究なくしては産業応用が難しいことの典型例です。 新材料としての認識マグネシウムは、最近利用され始めた新素材です。その性質は鉄や銅とは大きく異なり、製造装置の単なる調整では対応できないほどの違いがあります。そのため、量産には新たな産業を立ち上げるのと同じような困難があります。また、実用実績が少ないために、実績重視の企業現場では利用にためらいが強いことも無視できません。マグネシウムの実用化では技術開発だけでなく、新規需要の開拓まで並行して進める必要がありました。この、これまでの材料とはまったく違うものという認識と、その本質を明らかにする原理原則に則った技術開発が重要であり困難なところです。 代表的な研究成果これまで基礎研究の段階から技術移転を目指しつつ、実用化共同研究や、需要開拓を睨んだ連携活動など、総合的に幅広く進めてきました。特に、使用実績の少ない新素材なので、総合的な技術開発を並行して進めています。難燃性合金ではわが国初の鉄道車両部材の実用化に成功し、また塑性加工用素材としての鋳造部材の高機能化による技術開発を進めています。当部門は、鍛造技術ではナショナルプロジェクトの集中研として中核的役割を担い、業界からの高い評価を得ています。図1のように、新しい開発プロセスで得られた鍛造品は、現行のアルミ部材と比較しても優れた機械特性を実現しています。また、冷間成形可能な圧延材を世界に先駆けて実用化し、工業的に重要なプレス産業へのマグネシウムの普及を促進しています。図2はその量産品の一例です。一方、自動車や鉄道車両部材への展開を可能とする大型部材の表面処理技術の開発と技術移転を進めています。また、日本マグネシウム協会と連携して板材の成形性の標準化を進めています。さらに、オール産総研で、環境調和型の素材技術としての安全性評価技術およびリサイクル技術について、企業と共同で開発を進めています。
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研究成果が将来社会にもたらす効果当部門では図3に示すように軽量合金部材化による次世代自動車の軽量化技術の導入を目標にしています。自動車への導入には材料供給面の制約が大きいので、まずはマグネシウムの産業技術としての育成が重要で、総合的な基盤技術開発と並行して実用部材の開発・実証が必要です。上記のように鍛造部材や板材は表面処理技術と相まって、近い将来の自動車部材への応用が見えてきたところです。一方、航空機では、一部軍用機を除いてマグネシウムの燃焼性に起因する規制があり、事実上使用できないのが現状ですが、欧米の主要航空機メーカーでは、マグネシウムの解禁に向けた基盤作りが進められています。このため製造技術面での先端を走ることが必要と考えられます。 マグネシウムというと年配の方は、学校でクラス写真を撮るときに写真屋さんが使ったフラッシュを思い出し、発光後にチカチカする残像とモクモクと上がる白煙をご記憶の方も多いと思います。この閃光はマグネシウム粉末が大気中で一気に燃焼するときに出るものです。このイメージは、マグネシウムは燃えやすく危険であるという大きな心理的障害のもととなっています。しかし、今ではマグネシウムは燃えにくい合金となっています。この燃えにくくする技術も、20数年前に産総研の前身の研究所で発明された技術です。
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