スピンRAMの大容量化
省エネルギーの観点からパーソナルコンピューター、携帯電話などの電子機器に多く使われている半導体メモリー(DRAM)の不揮発化(情報の書き込み、読み出しだけに電力が必要で、記憶保持には電力を使わない)が強く求められています。TMR素子をベースとするスピンRAMは、これまでの半導体メモリーを上回るユニバーサルメモリーとして開発が進められています。これまでに、面内磁化TMR素子を記憶素子とする数十メガビット(Mbit)の小容量スピンRAMが試作され、高いポテンシャルが実証されています。しかし、コンピューター内部で使われているDRAMを置き換えるため、垂直磁化TMR素子を用いたGbit級大容量スピンRAMの実現が強く求められています。
今回開発した技術
1 Gbit級スピンRAMに要求される読み出し性能である素子抵抗値(RA値)が、 30 Ωµm2以下で、磁気抵抗比(MR比)が50 %以上の垂直磁化TMR素子を世界で初めて開発しました。下図(右)に、開発した垂直磁化TMR素子の積層構造の概略を示します。垂直磁化電極層−1は、テルビウム鉄コバルト(TbFeCo)層と界面層、垂直磁化電極層−2はコバルト/白金(Co/Pt)積層と界面層から構成され、垂直磁化電極層−2の磁化の向きによって情報を記憶できます。
30 Ωµm2以下のRA値を実現するためには、トンネルバリアーとして用いる酸化マグネシウム(MgO)層の厚さを、1.3 nm程度以下に薄くすることが必要です。私たちは、原子レベルで平坦な表面の垂直磁化電極層−2、および、極薄かつ均一な膜厚(約1 nm)のトンネルバリアー層(MgO層)の形成に成功し(図左)、これにより垂直磁化TMR素子のRA値として世界最高レベルの約4 Ωµm2を達成しました。また、結晶性のコバルト鉄(CoFe)合金とアモルファス合金であるコバルト鉄ボロン(CoFeB)合金を組み合わせた界面層を開発し、同時に高いMR比(85 %)を実現しました。この技術により、5 Gbit以上の大容量スピンRAMの回路設計が実現可能となりました。
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| 開発した垂直磁化TMR素子の断面構造の電子顕微鏡写真(左)と断面構造の模式図(右) 超薄膜平坦化技術と高スピン分極界面層の開発により、超低RA値と高MR比の両立に成功。 |
今後の展開
高性能垂直磁化TMR素子の作製技術を確立したことにより、今後は大容量スピンRAMの開発が大きく前進すると期待しています。この技術をベースにさらに高いMR比の実現に努め、大容量スピンRAMの量産化技術の確立を目指します。

薬師寺 啓 やくしじ けい