開発の背景と目的
時間・周波数標準は、長さ(波長標準)や電圧(ジョセフソン電圧標準)などの標準の基本になっており、多くのSI単位にリンクしています。その利用分野としては、校正分野をはじめ、計測、通信、航法、天文など多岐にわたります[1][2]。また、加速器や電波天文学などの分野では同期用の安定なタイミング信号(クロック)としても利用され、近年、その精度、安定性への要求が高まりつつあります。このため、周波数標準が光ファイバーなどにより直接供給されることが望まれています。産総研では、周波数標準信号(水素メーザークラス)を劣化させることなく、より遠くに、より多くのユーザーに供給できるシステムを試作しました。
システムの構成と内容
商用発振器のうち最も安定している水素メーザーの場合、短期安定度は10−13オーダー(1秒平均)、また長期安定度は10−15レベル(1日平均)であり、いかに、このオリジナルの性能を劣化させずに伝達するかが開発のポイントになります。短期的な周波数安定度については、光受信装置(図参照)において信号に対する雑音の影響を小さくすることにより、良好な短期安定度を実現しました。また、長期的には光ファイバーの屈折率の温度変動と熱膨張による位相変化を補償する必要があり、高密度波長多重技術を応用した一心双方向伝送による新しい位相制御送信装置(図)を開発しました。この装置によるシステムの長期安定性(1日平均)は、8×10−17(160 kmの光ファイバー)と良好です。さらに遠方への供給のため、光ファイバーの損失を補償する双方向の光増幅装置(図)も開発しました。複数波長の信号間の分離も良好で、安定して光信号の双方向増幅ができます。
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| 光ファイバーによる周波数標準の高精度供給装置の主要装置と利用分野 |
今後の展望
このシステムの利用形態は国家標準の遠方への直接供給、あるいは事業所、研究機関などの構内への適用が考えられるほか、カスタマイズにより粒子加速器の分野、電波天文学分野などにも応用できるようになります。最近は、原子発振器の技術進展も目覚ましく、超高精度な時間周波数比較技術への適用なども期待されています。

雨宮 正樹 あめみや まさき