背景
IT社会の進展やIT機器の驚異的な低消費電力化は、トランジスタの微細化によって実現されてきたといっても過言ではありません。しかし、トランジスタの微細化を進める上での困難さはますます増大しており、結果として消費電力は逆に増大する傾向にあります。産総研では、革新的な材料開発、新しい立体構造、そして超低消費電力化を実現し得る新しい回路構成を提案・実証することで、トランジスタ微細化をはばむ問題の解決とさらなる大幅な低消費電力化を目指しています。
大幅な漏れ電流削減と性能向上を可能にする材料技術
トランジスタ微細化に伴い、ゲート絶縁膜を介して漏れてしまう電流に起因した消費電力の増大が大きな問題となっています。産総研では、膜厚を薄くしたまま漏れ電流を大幅に削減できる新しい高誘電率ゲート絶縁膜の開発を行っています。同時に、微細化の推進に頼らずに性能向上を可能にする新しいチャネル材料開発にも取り組んでいます。具体的には、ゲルマニウムやガリウムヒ素などの材料を用いて、シリコンの性能を凌駕(りょうが)するトランジスタ開発を行っています。
さらなる微細化を可能とする立体チャネルマルチゲートトランジスタ
トランジスタ微細化に伴い発生するドレイン−ソース間の大きな漏れ電流を構造的に抑制する手法として、産総研では、これまでの電流経路を平面構造から立体にし、それを覆うように複数の制御電極(ゲート)を設けたトランジスタ(立体チャネルマルチゲートトランジスタ)を提案しています。この構造の導入により、20 nm以下のゲート長においても漏れ電流の増大がなく理想的な特性が得られることを確認しています。また、さらなる微細化を可能とするnmオーダーの直径のワイヤー状チャネルトランジスタの開発にも取り組んでいます。
超低消費電力化を実現する新しい回路構成と新原理デバイス
複数の制御電極を一つ一つ独立に制御できれば、素子製造後の自在な特性制御が可能になります。産総研では、このトランジスタレベルでの自在な特性制御性を有効に活用できる新しい回路も提案しています。例えば、回路機能に対し貢献していないトランジスタ特性を待機状態にすることで、回路全体の静的漏れ電流を1/100まで削減することに成功しています。また、量子力学的なトンネル効果を活用した新原理デバイスによる電源電圧の一層の低減を目指す研究開発を進めています。
以上のような材料面、構造面、そして回路面からの革新的技術の導入により、トランジスタ微細化の推進とともに、これまでのLSIに対し1/100以下の低消費電力化が可能となります。私たちは、これらの技術により、高性能かつ低消費電力なVLSIを実現するための基盤技術を開発し、わが国のIT社会と半導体産業に寄与することを目指しています。
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エレクトロニクス研究部門
昌原 明植(まさはら めいしょく)
ナノ電子デバイス研究センター
太田 裕之(おおた ひろゆき)


