独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.10(2010) 一覧 > Vol.10 No.01 > 1000℃以上での熱電対の長期安定性の評価技術

1000℃以上での熱電対の長期安定性の評価技術

[ PDF:1.1MB
熱電対校正のためのコバルト−炭素共晶点実現装置を開発

小倉 秀樹の写真小倉 秀樹 おぐら ひでき
小倉連絡先
計測標準研究部門 温度湿度科
高温標準研究室 主任研究員
(つくばセンター)

温度標準の研究、特に高温で安定な熱電対の研究開発、および熱電対を上位標準の温度計とするトレーサビリティ制度の構築に従事してきました。これまでは1550 ℃までの温度域での研究開発が中心でしたが、今後はさらに高温域での熱電対校正技術の研究開発に挑戦していきたいと考えています。

高温域での熱電対の信頼性

 熱電対は、2種類の金属線の先端同士を接合させ、他端の金属線間の熱起電力を測定するという単純な構造の温度センサです。鉄鋼、半導体、セラミックスなどの素材産業や原子力発電などのエネルギー産業など、さまざまな分野で製品の品質管理やエネルギー効率の向上のために数多く用いられています。しかし、高温域で使用していると、熱電対の熱起電力が変化(ドリフト)します。これは、熱電対線が高温に曝露されると合金組成や原子配列が変化し、不均質状態が発生するためです。高精度な温度管理を行うためには、このドリフト特性を詳細に評価し、校正を行うことにより、熱電対による温度測定の信頼性を確保することが必要不可欠です。

金属−炭素共晶点を用いた熱電対の特性評価

 これまで銅の凝固点(1084.62 ℃)より高い温度では、熱電対のドリフト特性評価はほとんど行われていませんでした。大きな理由は、銅の凝固点以上の高温域で安定かつ均一な温度場を実現する熱電対用の温度定点*がなかったことです。一方、産総研では、高温域の放射温度計を校正するために、金属と炭素から成る共晶合金の融解温度(金属−炭素共晶点)を温度定点として利用する方法を、世界に先駆けて提案しました[1]。しかし、放射温度計用の共晶点セル**の寸法は小さく、熱電対の評価に用いるためにはセルを大型化する必要がありました。ところが、大型化すると共晶合金と黒鉛製るつぼとの熱膨張の差によるセルの破損が問題となります。これを防ぐために電気炉、およびセルの構造を工夫して、コバルト−炭素共晶点(1324 ℃)の大型セルの作製に世界で初めて成功し[2]、融解点を約0.01 ℃の再現性(標準偏差)で実現させました。さらに、熱電対のドリフト特性を精度良く評価できることも確認しました。今回開発した装置による共晶点実現の不確かさ、放射温度計により決定される共晶点温度の不確かさ[3]、ほかの種々の要因の不確かさを評価して、コバルト−炭素共晶点において0.53 ℃の不確かさ(信頼の水準約95 %)で貴金属熱電対を校正できることを確認し、現在校正サービスを実施しています。これにより、半導体プロセスや高温耐熱材料開発などにおける温度管理の精度向上が期待されます。

熱電対校正用 コバルト−炭素共晶点 実現装置の写真   電気炉に挿入された熱電対の写真
熱電対校正用 コバルト−炭素共晶点 実現装置
電気炉の中央に共晶点セルが設置されており、上部より熱電対をセル中に挿入して校正を行う。
  電気炉に挿入された熱電対

今後の展望

 産業界からは、熱電対校正の高精度化や、より高温への温度範囲拡大が強く期待されています。今後、パラジウム−炭素共晶点(1492 ℃)や白金−炭素共晶点(1738 ℃)なども利用し、新たな熱電対校正用装置、および高温域でも安定な熱電対の開発を進めていく予定です。


関連情報:
  • 共同研究者
    井土 正也、丹波 純、新井 優(産総研)
  • 参考文献
    [1] 山田 善郎:AIST Today, 1(1), 5−8 (2001).
    [2] H.Ogura et al.: Int. J. Thermophys. 29 (1), 210−221 (2008).
    [3] 山田 善郎:産総研TODAY, 8(7), 19 (2008).
  • 用語説明
    *温度定点
     物質が相転移する温度の再現性・安定性が良いことを利用した温度の基準。例えば、水の三重点(0.01 ℃)や、亜鉛(419.527 ℃)、アルミニウム(660.323 ℃)、銀(961.78 ℃)、銅(1084.62 ℃)などの純金属の凝固点がある。
    **共晶点セル
     金属−炭素共晶点を実現するため、金属と炭素とを適切な比率で配合させた共晶合金を黒鉛製のるつぼに封入したもの。

戻る産総研 TODAY Vol.10 No.01に戻る