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本格研究 理念から実践へ
有機薄膜太陽電池の本格研究
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有機薄膜太陽電池でモジュールは作れるのか?


當摩 哲也の写真

最初に有機薄膜太陽電池の研究に取り組んだ時は、まさに歴史のごとく光を当ててもほとんど発電しない太陽電池しかできませんでした。日々少しずつ性能が伸び、現在では変換効率で約4 %の太陽電池を作ることができるようになりました。しかし、まだまだ実用化のレベル(変換効率で10 %程度)には達しておらず、さらなる創意工夫が必要です。これからも実験室でこつこつと目標に向かって実験をしなければと痛感しています。

當摩 哲也(たいま てつや)
當摩連絡先
太陽光発電研究センター
有機新材料チーム(つくばセンター)


太陽電池の現状

 太陽電池はいろいろな材料で作ることができ、さまざまな特長をもった太陽電池が世の中に広がり始めています。有機薄膜太陽電池は、有機材料を半導体として用いた次々世代の太陽電池として研究開発が進められています。

有機薄膜太陽電池の基礎研究

 有機薄膜太陽電池の研究の歴史はたいへん長く、1970年代には研究が始まっています。しかし当時は、光を当てるとわずかな電気を発生させる性能の低い太陽電池しかできませんでした。性能を大幅に向上させたのは、バルクへテロ接合構造の登場です。図1に示すように、バルクへテロ接合構造はp型半導体分子とn型半導体分子が混合した構造です。両者が混ざり合うことでp-n接触面積が増大して電流値が大幅に増大しました。この“混ぜる”という手法は有機系独特の技術です。有機溶媒に溶けるポリマー半導体の場合は、n型半導体と一緒に溶かして塗布することで形成することができます。低分子半導体の場合は、それぞれの材料を真空中で同時に蒸着する共蒸着法により形成することができます。

図1
図1 バルクへテロ接合構造の概念図(デバイス構造)と代表的な有機半導体材料と作製法

 図2に研究の一例を紹介します。p型半導体としてペンタセンを、n型半導体としてフラーレン(C60)を用いた有機薄膜太陽電池です。共蒸着を行いましたが、ほとんど発電しませんでした。電子顕微鏡で確認したところ、大きく凝集していることがわかり、不完全で荒れた膜になってしまっているために性能が出ないことがわかりました。バルクへテロ接合構造は単純に“混ぜる”手法であり、自己組織性や結晶性でネットワークをもった構造をとることを期待しているため、人為的にコントロールすることはできませんでした。そこで、私たちは交互積層技術の開発を行いました。これは、数nmの薄い有機半導体膜を交互に積層する手法で、膜厚をコントロールすることで凝集しない膜を形成することができます。図2右の電子顕微鏡写真(断面TEM)を見ると、交互積層膜が形成され、その膜は凝集していないことがわかります。この技術で太陽電池性能を上げることに成功しました。私たちはいろいろな材料を試したり、新しいデバイス構造を開発したり、発電や劣化のメカニズムを解明することで、高性能有機薄膜太陽電池の開発を行っています。

図2
図2 交互積層法の概念図(デバイス構造)と作製した太陽電池の電子顕微鏡写真

有機薄膜太陽電池は製品になるのか?

 現在、太陽電池はモジュールとして製品化されています。モジュールはいわゆる“屋根に載っているメートル級パネル板”です。有機薄膜太陽電池も世の中に製品として出て行くときはモジュールとして売り出さなければなりません。私たちの実験室で試作している太陽電池の大きさは小さいものは2 mm角で、大きくても12 mm角です。つまり、小さいものは米粒よりちょっと大きいくらいで、一番大きくても切手ほどの大きさしかありません。小さな有機薄膜太陽電池を作る技術とモジュールを作る技術はまったく異なります。実験室で小さくて性能がよい有機薄膜太陽電池ができても、それを製品化する際に必要となるモジュール化技術ができないかもしれないという不安がありました。

有機薄膜太陽電池モジュールの開発

 2005年頃、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレー製造装置のメーカーである「真空装置メーカー」と、有機薄膜太陽電池作製技術の開発を共同で行うことになりました。有機ELは電気を入れて光を放つ素子で、有機薄膜太陽電池はその逆なので、共通する部分がたくさんあります。しかも、有機ELはディスプレーのサイズまですでに作製可能であり、この技術を応用すれば “有機薄膜太陽電池モジュール”が作製できるはずだと考えたわけです。装置メーカーはディスプレーを作る技術を出し、私たちは太陽電池の作製技術を出し、膝を突き合わせて“どうやってモジュールを作るのか?”を考え、作製にとりかかりました。20 cm角のプラスチックの上に有機薄膜太陽電池を真空蒸着で製膜し、図3左のような短冊状の太陽電池を直列に並べたモジュールを作りました。使っている材料はフタロシアニンと呼ばれる色素とC60です。そのため、色素の色がきれいに発色し緑色の光沢をもつものです。

 “色がきれいでカラフル” という特長を活かすことで“ほかの太陽電池ができない有機ならではの用途”があるはずだと検討を始めました。2008年頃、用途開発のプロである商社も加わり、新しい形の有機薄膜太陽電池の開発にとりかかりました。ここでも、産総研、装置メーカー、商社の3者が膝を突き合わせて“どのような用途があるのか?”について議論を重ねモジュールを作製しました。そこで作られたのが葉っぱ型有機薄膜太陽電池モジュールです。本物の葉っぱかと思えるような精巧な太陽電池で、これを複数で組み上げると観葉植物型のインテリアになります。この葉っぱ型有機薄膜太陽電池モジュールと、ポリマー半導体で構成された花びら型有機薄膜太陽電池モジュールを組み合わせることで、図3右下のようなおもちゃにもなります。有機材料の特長を活かした意匠性の高い太陽電池モジュールの作製に世界で初めて成功したといえます。

図3
図3 20 cm角の有機薄膜太陽電池モジュール、葉っぱ型有機薄膜太陽電池モジュールの写真とその応用例

有機薄膜太陽電池の本格研究の意義

 有機薄膜太陽電池は21世紀に入って研究開発が活発化した太陽電池で、まだまだよちよち歩きの赤ちゃんです。モジュールを作る試みは、まさに20年後に大人になった姿を想像して、その育て方とどんな人物になってほしいかを決めるのと一緒です。ですから、今回のモジュール作製法とは異なる“思いがけない製法”が開発されるかもしれません。それでも、いろいろな分野の人々が膝を突き合わせて将来像と製法を考えて、それをモジュールとして形にしたことは、有機薄膜太陽電池に携わる人々に目標と製品イメージを与える良いきっかけになったのではないかと考えています。今後、さらにいろいろな分野の意見を取り入れて“これぞ有機ならでは!”というモジュールを作りたいと考えています。


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